ジン・モリが祖父を人質に取られ、3人がそれぞれ別の場所で戦う「ゴッド・オブ・ハイスクール」9話では、ユ・ミラが借力として英傑・呂布奉先を呼び出す。なぜこの突飛にも思える組み合わせなのかを考えると、今回は唯一性と相似性の話として捉えることができる。
<唯一性の侮辱という攻撃>
ジェジュチーム、正確にはノックスの策略により今回ジン・モリ達は3人とも別の場所で戦うが、相手が誰でも「唯一性の侮辱」による攻撃を受けていることは実は変わらない。モリはかけがえのない祖父テジンの偽物によって爆発に巻き込まれドッペルゲンガーの借力に苦戦するし、デイは誰相手でも構わないから暴れたいマ・ボラにプングァンに続いて襲撃される。そしてミラは家伝の木刀の真の姿を対戦相手のマリンに引き出され、月光剣法のたった1人の後継者である価値を揺さぶられている。誰とも代えようのないはずの個人の価値を否定されることは、唯一性を侮辱されることはアイデンティティの危機に等しい。
<唯一性の先の相似性>
しかしそもそも、唯一性とは他の何とも似ないことだろうか? 例えばデイはジェガルに、リングの外で人助けをするのが「2回目」であることを指摘されている。デイが困っている人を見捨てないのは1度だけ(唯一のもの)ではない。そしてそもそも、彼の人助けはモリがコ・カンドをいたぶるカン・マンソクの試合に乱入したのによく似ている。しかしそれはモリの影響を受けたから、だけではないだろう。
1話でひったくりを止めるのに協力したように人助けはもともとデイの性分(唯一性)であり、スンテの一件などを経て一層強まったそれが結果的にモリに似ているに過ぎない。たった1人だけの人間の持つ唯一性は、深めればむしろ他の誰かと相似してくるものなのだ。だからミラの借力の発現にもまた、唯一性と相似性が大きく絡んでくる。
<"無双"とは何か>
ミラの本分は剣法家であるから、蹴りや拳でモリやデイに並ぶことはできない。彼女が2人と強さの格において相似するには、むしろ剣法家としての唯一性を深める必要がある。モリにもデイにも似ないことで、彼女は2人と並ぶことができる。彼女に力を貸す呂布が何と言ったか、ここで思い出してみよう。
「ならば最強となれ。並ぶものなき"無双"の名を天下に掲げよ!」
「天下無双」は呂布の英傑評の1つであるが、無双とはもちろん「双つとして無い」こと。つまり「唯一の存在である」ことだ。自分だけの唯一性を捉えた者はそれだけで"無双"の存在である。そして、無双であるならば得物が違おうとも赤兎馬に乗らずとも呂布と"相似"している。そうしたテーマの体現としてこそ、呂布はミラの借力となって姿を現すのである。
<祖父とは違う、モリの"虎">
ミラの示した唯一性と相似性の循環は、モリもまた同様の成長を遂げることでより強固に証明される。これまで見たことがないほどモリが激怒したのは、ノックスが本物のジェジュチームの選手の命――唯一性を奪ったからだ。そして、デイが初めて見るモリの怒りは廃工場に続く二度目の(相似した)ものであり、ゆえにその苛烈な攻撃は相手が違ってもよく似た光景になっていく。経穴やオリジナルの技は祖父テジンとは全く違うものでありながら、双龍のように彼をテジンと並ぶ存在としてパク・ムジン達に刻みつける。かくて虎の子は虎となり、激闘のステージは更なる高みへと進んでいくのだ。
<感想>
というわけでGOHの9話レビューでした。1人による同じボコり具合を左右で見せる、やーなんか珍しいものが見られたな。舞台を分けたことで戦いとテーマが同時進行になっているのも新鮮な楽しさがある。肉体の躍動感が堪能できる回でもあり、見応えたっぷりでした。これ以上どう強くなるんだという疑問を粉砕してくれるなー……残り4,5話での収拾にも期待が持てそうです。