「ゴッド・オブ・ハイスクール」10話レビュー~見えない借力~

ゴッド・オブ・ハイスクール #10「oath/meaning」

f:id:yhaniwa:20200908223448j:plain

©2020 Crunchy Onigiri, LLC
「ゴッド・オブ・ハイスクール」10話アバンでは、パク・イルピョの従姉妹のスンヨンが4年前戦えなくなった経緯と、それに怒りまた彼女の治療のために個人的感情を置き去りにしようとするイルピョが描かれる。アバンからラストに至るまで、この10話は彼がともすると置き去りにしがちな「自分」を取り戻させる話だ。
 

 

自分を捧げる危険と無責任

f:id:yhaniwa:20200908223631j:plain

©2020 Crunchy Onigiri, LLC
スンヨンを格闘家として再起不能にしたジェガル・テクに我が事のように激怒したイルピョを見ても分かるように、優しさとは一つには他者への共感であり、そのために自分を捧げることだ。それは時に自分だけでは出せない力を引き出してくれるものでもあるが、同時に諸刃の剣でもある。あまりにも多くを捧げてしまえば「自分」は不安定になり、ややもすれば自分自身を省みず置き去りにしてしまうからだ(更に言えば、スンヨンが復讐を望んでいたわけでもないことを考えれば、捧げたはずの相手すらもそこでは置き去りになりかねない)。
 
典型的なのはパク・ムジン達と敵対する宗教団体・ノックスで、彼らは彼らの信じる神に自分の全てを捧げ省みない。あるいは神のためという言葉の前に全てを正当化してしまう。彼らには「私とあなた(神)」しか存在せず、故にそれ以外の存在を認めない。ノックスの神以外の借力を認めないのも、それが「私とあなた」を揺るがす存在になりかねないからだ。
 
 

目に見えぬ借力

f:id:yhaniwa:20200908223712j:plain

©2020 Crunchy Onigiri, LLC
「私とあなた」だけの世界を崩すのは当然、それ以外の3人目以降の存在だ。世界がそれほど狭くないと知らしめる存在だ。デイは「俺と祖父」だけの世界にこもりそうなモリに「俺達」の概念を持ち込むし、スンヨンの妹スンアは心配してくれているからであってもイルピョの作戦に「自分の意思」を告げて反発する。「私とあなた」だけの世界に打ち込まれる楔は、世界を砕き広げる力を持っている。
 
そして更に特筆すべきは、自分の意思を訴えるスンアが同時に、スンヨンも同じ思いだったはずだと訴えていることだろう。己の意思を貫いた結果他者に似る、というのは前回ミラと呂布の「無双」の相似によって借力として描かれたものだ。つまりここで描かれているのは個人の意思の宣言であると同時に、借力の本質説明としての意味も持つ。借力の本質とは「変え難い本質を共有・共感する他者の力を借りる」ことにこそあり、すなわちそれは、「他者に共感しつつも自分の全てを捧げたりしない」、理想的な関係性の具現なのである。
 
だから今回借力を使ったのは、見ようによってはデイだけではない。スンアとスンヨンは互いを借力として用いることでイルピョの頑なな心を打ち破ったし、モリはミラやデイの技を借力として自分の弱点を補ったとも言える。そしてそう捉えるならば、イルピョと借力の関係もより大きな意味を持ってくる。
 
 

外れる枷

f:id:yhaniwa:20200908223732j:plain

©2020 Crunchy Onigiri, LLC
自分を全て捧げてしまう落とし穴にはまりかけたように、イルピョは人並み外れて強い他者への共感性を持っている。彼の性質はある意味シャーマンに近く、それは借力使いとして見た時にも特異な性質を帯びてくる。
 
今回の冒頭、イルピョは、テジンとの約束が強くなる理由だと語った。「僕は戦ってるんだ」の台詞の通り、イルピョにとってテジンは生きていくための「借力」だったのだ。だからそれは当然、自分の全てを捧げかねない一体性の強いものになる。軍服の虎の模様を自分の服にも付けるほど一体化することによって、イルピョは自分の理想に応えようとしてきた。テジンを降ろしたシャーマンであろうとしてきた。テジンに代わってテジンのようにモリを守ることこそはこれまでの彼にとっての使命であり、逆に言えばそれは彼の彼だけの「何か」を覆い隠してもきたのである。
 
モリに色々教える約束の履行はテジンという借力の終了を意味し、だからこそイルピョはそこから解放される。解放されるからこそ彼は、「鍵」として覚醒できるのだ。彼の彼だけの「何か」の目覚めは、物語に更に大きな波乱を呼ぶことだろう。
 
 

感想

というわけでGOHの5話レビューでした。なんだか5話に立ち返るようでその実、更に先へ進むお話であったように思います。途中から登場した借力という概念に自分の中で意義付けができたのが良い手応えになりました。
 

f:id:yhaniwa:20200908223745j:plain

©2020 Crunchy Onigiri, LLC
あと個人的にはあやねる演じるパク・スンアの筋肉質ボディぶりがとても魅力的でですね。地区予選のマ・ミソンよりムキムキで美少女、   こういうキャラもっと増えてほしいなあ。アニメ既放送分だけ追っ付け読んでる原作はちょっと役割が違いますが、こちらでも魅力的でキュンとしてしまいました。2020/10/1まで120話分が無料とのことで、オススメです。擬音表現など序盤は戸惑うかも知れませんが、画力も面白さもメキメキ上がっていきますよ。
 
それと審判員R、OP映像から裏切り者はてっきり君かとばかり思ってたよ。審判員Sとノックスの連中相手に暴れまわる映像だったのね、スマン。
残りは2話か3話か、この話がどこまで行くのか楽しみです。