魔女と旅人の共通項――「魔女の旅々」1話レビュー&感想

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
魔女イレイナが旅の中さまざまな場所を訪れる「魔女の旅々」。旅を望むきっかけとなった幼少期の描写から分かるのは、彼女が子供らしくとても純真であることだ。
魔女になれば旅に出ていいと言われて素直にその道を志し、来る日も来る日も必死に勉強を重ねる。純真さと才能の組み合わせは見事イレイナを最年少の魔女見習いにさせたわけだが――重要なのは、その2つでたどり着けたのは魔女"見習い"に過ぎないことだろう。優秀な彼女にはしかし、魔女になるためにも旅に出るためにも必要なものがまだ不足していたのである。

 

 

 魔女の旅々 #01「魔女見習いイレイナ」

 

足りないのは力ではない

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
そもそも彼女は魔女そのものに憧れていたわけではない。憧れの魔女ニケのように「色々なところを旅したい」のが彼女の一番の願いであり、魔女はそれを認めさせる手段なのだ。娘を手放したくない子煩悩な父の方便を大真面目に信じて成し遂げようとしている彼女はとびきり優秀で、しかし(子供だから当然だが)決定的に世知に欠けている。
 
 

イレイナが身につけたもの

 
世知とは言い換えるなら「ズルさ」であり、師匠となってくれたフランからイレイナが教わるのもそれだ。何よりそのフラン自身がズルい。さんざんイビったのは確かに考えあってのことだったが、「もう騙すのはやめます」などと言ったそばから両親から金を受け取ったことは口にせず、渋々引き受けたなどとイレイナを騙しているのだから。
尊敬すべき師匠ですら持つ打算や世知とは、本作では腰が曲がった鼻の長い魔女の専売特許ではない。魔女なら必ず持っている、いや備えるべき精神性なのである。
 

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
「自分が耐えればいいだなんて思わないでください、気に食わないことがあるなら戦いなさい。嫌なものは嫌だと、はっきり言えるようになりなさい」
「自分自身を守るために」
 

 

我慢せず自己の尊厳や権利を主張するのはズルいと言う人もいる。けれどそれは他の誰でもない、自分を守るためにこそ必要なもの。その認識こそはイレイナが魔女"見習い"を脱するために必要なものだったのだ。
 
だからイレイナの本当の修行の日々もまた、フランの厳しい言いつけに必死で食らいつくようなものではなく、むしろ彼女に食事のメニューでやり返すことから始まる。戦闘訓練でも最初は真正面から受けたり挑むばかりだったのが、最終的にホウキを用いた三次元的な動きを見せるようになるのはイレイナが「世知」を身に着けた証と言えるだろう。世知とは、見知らぬ人と土地に囲まれる旅でもっとも強力な武器なのである。
 
 

少女から魔女へ

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
かくして、魔女になることを通して旅に必要なものを得たイレイナはついに巣立った。自分の優秀さだけを誇りにしていた幼稚な少女はもういない。そこから更に3年を経た空を飛ぶのは、美貌をユーモラスに自慢してみせるしなやかな――「魔女」である。
 
 

感想

以上が魔女の旅々の1話レビューです。幼子のあどけなさまっすぐさを単純に肯定しない毒があり、同時にそれはけして露悪趣味なのではない。なかなか難しい感じのラインを設定してきたなと感じました。師匠の人生の助言を翌日すぐ実行できるあたり、やっぱり根本的に優秀だよなイレイナ……
 
旅情を感じたかった思いも正直ありますが、旅に必要な心構えを説くことで今後の物語の舌触りが想像できる部分もあり、旅立ちの回だったと言えるのだと思います。もちろんこの「旅」と「魔女」には「人生」や「大人」の意味合いも含まれているのでしょう。
次回からイレイナがどんな姿を見せてくれるのか楽しみです。