モラトリアムの終え方――「ラブライブ!サンシャイン!!」2期5話レビュー&感想

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©2017 プロジェクトラブライブ!サンシャイン!!
雨の中見つけた子犬を巡ってヨハネと梨子が悩む「ラブライブ!サンシャイン!!」2期5話。一見すると接点の乏しい組み合わせの2人にはしかし、意外な共通点がある。犬嫌いと堕天使という違いはあれど、彼女達はどちらも「ずっと今のままの自分ではいられない(いてはいけない)」という悩みを抱えているのだ。
 
 

 ラブライブ!サンシャイン!! 2期 5話「犬を拾う。」

 

ヨハネが本当に預かってほしかったもの

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©2017 プロジェクトラブライブ!サンシャイン!!
今回はヨハネが自分を堕天使と呼ぶ理由が明かされるが、その発端は彼女が妙に運が悪いことだった。外に出れば雨に降られたり転んだり、何かをしても失敗ばかり。それが単なる偶然なのは悲しいから、自分は堕天使で特別だと思い込んで対処しようとしたのである。しかしそれはあくまでモラトリアムとして、期間限定で許されるもの。サンタの正体のように薄々それを自覚もしていくからヨハネは、いや善子はいつまでも堕天使でいることはできない。
Aqoursは堕天使ヨハネのモラトリアムを延長してくれたが、それだって永続するわけではないのだ。ただ否定するのは自分の一部を殺処分するようなもので、善子は自分の中の堕天使ヨハネの行き先を決めない限りそれを避けられない。
そんな折に"堕天使ヨハネ"が運命的に拾った子犬は当然、彼女にとって子犬以上の意味を持つ。
 
「ほんの少しの間だけでいいの、この子の生きてく場所は私が見つけるから」
 
ヨハネが梨子に子犬を預かってほしいと頼むのは、飼育制限だけが理由ではない。彼女は梨子に、自分の中の"堕天使"を預かって欲しいと言っているのだ。それをただ殺処分せずに済む方法を必死で探しているのだ。
 
 

梨子が預かったもの

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©2017 プロジェクトラブライブ!サンシャイン!!
モラトリアムの終わりに悩んでいたのがヨハネなら、むしろモラトリアムを必要としていたのが梨子だ。犬が苦手なのを克服しようと努力はするも、千歌の飼い犬・しいたけに触るのはハードルが高くどうしてもできない。そんな彼女にも「頼まれたから仕方なく」で「触らなくとも接することができる」子犬との生活は送ることができ、次第にそれは愛おしいものへと変わっていった。
 
拾った子犬を対象として、方向も逆なら内容も全く異なるはずだった2人の悩みは別名一体と化したのである。そして先にも述べたようにモラトリアムはいつか終わるものだから、飼い主が見つかればどれだけ愛おしくても子犬は手放さなければならない。かくして意外な組み合わせだった2人の傷心は、ほとんどシンクロの域に達してしまうのだ。
 
 

モラトリアムの終え方

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©2017 プロジェクトラブライブ!サンシャイン!!

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©2017 プロジェクトラブライブ!サンシャイン!!
しかし、過去とはモラトリアムに限らず全て消えて終わるものではないはずだ。果南達3年生がかつて頑張ったことが結果的に今のAqoursに繋がっているように。歌のテーマ探しにおいても、今までがあればこそ異なる要素が光るように。過去なくして未来の志向などはできず、忘却ではなく昇華の先にこそ道はある。梨子もヨハネも、モラトリアムの象徴だった子犬を取り戻すのでも忘れるのでもなく新たな力に変える。
 
ヨハネは意味不明な堕天使ヨハネの先に普遍的な悩みを持った"ヨハネちゃん"を見つけてもらって、だから"善子"への道を歩める。
2人が愛した子犬はもうライラプスでもノクターンでもない。けれど梨子が子犬にあげようとしたクッキーは、彼女が苦手だった犬のしいたけにもあげられる。
 
かくて2人は、子犬という形でモラトリアムの終え方を学ぶ。それがけしてただ消えるのではなく、残していけるものなのだと知る。
そして、積み重なった偶然に感謝するのも、偶然を縁と捉えて機会に変えるのも、今回のヨハネと梨子のように実はそう変わらない。それはどちらも目に見えない変化であり、目に見える変化を引き起こす力なのだ。
 
 

感想

というわけでサンシャイン2期5話のレビューでした。おかしい、「偶然を縁に変える」で書くはずだったのに、善子にとっての子犬の再把握から全然別の場所に着地したぞ。
前回予告を見た時は「なぜこの組み合わせ?」と不思議でしたが、こうして書いてみると本当に運命的な、この2人でないと描けないお話でした。スタッフの見えざる手という意味ではなく、見えない力が働いている内容だったのではと思います。善子にとっては、Aqoursの存在こそが1番の幸運なのかもしれません。
 

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あと静岡のホームセンターといえばジャンボエンチョーな!