嘘つきの国――「魔女の旅々」6話レビュー&感想

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
「魔女の旅々」6話でイレイナが訪れるのは、国王の魔法の剣によって国民が嘘のつけなくなった「正直者の国」。しかし嘘がつけないことと正直者であることはイコールではないはずで、そこには論理の飛躍が――言ってしまえば嘘がある。正直者の国という国名はそれ自体が嘘であり、それはこの国の嘘と正直さのいびつな関係を象徴している。
 
 

 魔女の旅々 第6話「正直者の国」

 

1.嘘と本当のことの関係

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
冒頭、イレイナに正直者の国を紹介する門番はとても正直だ。国王の魔法の剣が領土内で嘘をつけなくしているとの説明に「胡散臭い」と返すイレイナに同意するし、入国を決めた彼女には「ようこそ、正直者の国へ。クソみたいな国へ!」とすら言っている。およそ門番としてはどうかと思われるほどの正直さだ。
しかし門の外いる彼らは領土の外にいるわけだから魔法の剣の力は及んでおらず、嘘をつける立場にいる。もしこれらの発言を咎められても、彼らは嘘をついただけだと言い張るだろう。もちろん嘘をついたというのが嘘であり、本音を言えるのは嘘の盾あればこそ。彼らは嘘のつける世界だから正直になれている・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
一方、正直者の国の国民と言えば嘘がつけなくなったことで正直者になるどころかいっそう嘘つきになっている。口述でも筆記でも嘘がつけないならジェスチャーで嘘を付く(残り物のパンを焼き立てと偽る)し、本当のことを言えば喧嘩になってしまうから皆しゃべろうとしない。嘘を言えないなら、言わないことで人は嘘をつくのだ。
 
 

2.嘘のつけない国に必要な嘘とは

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正直者の国ではびこるのが物言わぬ嘘であるなら、必要なのは物言う嘘の奪還だ。イレイナは巧妙に、堂々と嘘をつく。文章をぶつ切りにすれば個々は本当でも嘘を書ける(言える)し、隙を作るためなら国王への本心の説諭すら嘘になる。魔法というのは嘘みたいなことを可能にするものだから、嘘をつけない=言えない国で物言う嘘をつくことこそは今回の魔法だと言える。
 
イレイナの活躍によって事態は解決し、国王は嘘のつけるようになった国で「素直に」国民に詫びるわけだが――今回の話では、イレイナの他にもう1人魔女が、魔法を使う者が登場する。魔法の剣を作り魔力を喪失していたエイヘミアではない。魔法統括協会から派遣され、2話以来の登場となったサヤだ。
 
 

3.嘘つきサヤの重くてけなげな嘘

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イレイナを前にした時のサヤはとても正直だ。喧嘩の仲裁も放り出して再会の喜びに夢中だし、隙あらば彼女に触れ結婚すら迫り、機会あれば同衾の欲望を隠さない。一見すると正直者の国の影響を受けるまでもなく、彼女は本当のことだけを語っているようにも見える。
しかし彼女のイレイナへの慕情はけして、恋愛感情の一言で済むようなものではなかったはずだ。2話でサヤは生きることの根源的な寂しさに立ち向かう術を教えてもらったのであり、彼女の中には人生の師としてのイレイナへの敬慕と感謝があふれている。イレイナともっとベタベタしてあわよくば結婚したいというのも本心ではあるだろうが、実は彼女にとってはそれすら照れ隠しの嘘に過ぎない。好意を示して呆れられることこそサヤの一番の「物言う嘘」なのだ。
 

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だから嘘のつけない魔法の解けた後、サヤは少しだけ素直になる。本当に正直になる。魔法統括協会のルールだからという言い訳(嘘)を盾にして、とにかくただイレイナのことが愛おしくてたまらない気持ちを表に出せる。サヤのアプローチに辟易しているイレイナがプレゼントに重さを感じながらも断らないのは、そこにこそ彼女の本心があるのを感じ取っているからだろう。
 
そして2人は、再会を約束して指切りを交わす。約束は未来を決定するものではないから、彼女達が交わすものは見ようによっては嘘だ。しかしそれを本当にしたい思いにこそ、その本心は現れている。嘘があるからこそ、本当のこともまた輝くのだ。
 
 

感想

というわけの魔女の旅々の6話レビューでした。アバンから早々に笑わせにかかるので、これまでとはまた違った回なのが最初から分かる。サヤの言動もあってコミカルさの強くまぶされた30分でした。イレイナの長広舌を普通なら雑音をカットして際立たせるところ、サヤと兵士との戦いの光や音を常にバックに置いていたので「嘘っぽさ」が強調されていたのは特に面白かった。
あと「あの魔女、胸はないけどけっこうかわいい」「俺こっちのボーイッシュな魔女がタイプ」とイレイナとサヤへの忌憚のない意見が聞けたのも良かったところで。3話で村長が興味を示さなかったのもあって、イレイナの美少女自慢が実際のところ劇中でどう映ってるのかよく分からなかったからなあ。
 

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サトリナ声の眼鏡っ娘を追放するとか、よほど愛が重かったのだろうか。分からんでもないから困る。