百聞は一見にしかず――「魔女の旅々」7話レビュー&感想

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
仲が悪く壁で左右に別れた国と、共にぶどう酒を名産とする仲の悪い村の2つを舞台に前後編で描かれる「魔女の旅々」7話。仲の悪さという以外はほとんど関係ないようにも見える2つの話はしかし、やはり30分の1つの話だ。重要なのは、壁にしろぶどう酒にしろイレイナが実地に確かめようとしていることにある。
 
 

 魔女の旅々 第7話「旅人が刻む壁/ぶどう踏みの少女」

 

1.見もしないで信じる人々

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
冒頭、描かれるのは前編、ニケのイタズラめいた言動による壁で分けられた国の風習の始まりだ。その国の素晴らしさを壁に文字を刻んだ旅人は実際はニケが初めてだが、相手が憎くて壁の向こう側を見ようともしない左右の国の人々は同じものが既に向こうに刻まれているという話を疑いもしない。この実物を確認もしないで信じる単純さは後編でも同様で、人々は美女ローズマリーが踏んだという謳い文句に惹かれてぶどう酒を買っているが、実際のぶどう酒は村のたくましい男達が「ソイヤ!ソイヤ!」と掛け声あげて踏んだものに過ぎなかった。
 
 

2.想像の限界と現実の説得力

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
見ない・見せないというのはある種の魔法で、人はそこに実在しないものを勝手に見てしまう。前編の左右の国の人々は壁で仕切って憎い相手を見ないことで自分達の素晴らしさを幻視していたが、旅人ではなく自分達が壁に言葉を刻むようになってからはそれが己の醜さを見せたし、それが恥ずかしくて取り壊した壁の向こうにいたのは自分達と変わらない人間だった。
後編にしてもイレイナがぶどう酒の「産地偽装」に気付いたのは自分で実際にぶどう踏みの少女をやってその大変さを知ったからだし、そもそも彼女が対抗意識を燃やしたのはラベルではない実物のローズマリーを見てその鼻持ちならない言動に腹を立てたからに他ならない。勝手に広げた想像の魔法は、現実を突きつけられた時いともたやすく霧散するのである。
 
 

3.今回の前後編の繋がりとは

今回の2つの話は直接の繋がりはないし、後編で前編が引用されるようなこともない。しかし2つの話の結末は、並べた時に想像の限界と実物の説得力を示してくれる。
 

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
前編、壁の残骸を1つ購入したイレイナは、サヤが刻んだ破片を引き当てながらそれが自分への愛の言葉だと気付かない。「イレイ」で途切れた破片からは、いくらイレイナでも想像で正解にはたどり着けない。
 

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一方後編では、村長は孫にローズマリーのその後を尋ねられてもまた今度の話と「百聞」を行わない。しかし彼が声をかけた妻を「一見」すれば、私達は彼女が画面の外でどんな運命をたどったのかをおおよそ知ることができる。
 
ニケの本を読んで胸を躍らせた幼少のイレイナに母が実際に確かめることを勧めたように、百聞の想像は一見の実物に叶わないのだ。
 
 

感想

というわけで魔女の旅々の7話レビューでした。やー今回は困った、とっかかりが本当になかなか見つからず、書けないんじゃないかと一日焦ってました。なまじ仲の悪いそっくりさんというテーマにこだわってしまったから良くなかった。村長の赤裸々な劣情を聞かされた孫の将来が心配です。
 

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エアふみふみしてるイレイナかわいい。