切り裂き魔は接続魔――「魔女の旅々」8話レビュー&感想

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
行く先々でイレイナが奇妙なものを見る「魔女の旅々」。イレイナは8話で訪れた国では「切り裂き魔」の話を耳にする。てっきり人殺しとばかり彼女は思っていたが、実は切り裂かれていたのは「女の命」であった。そう、切り裂かれるのは人の命とは限らないのだ。
 
 

魔女の旅々 第8話「切り裂き魔」

 
人形であふれた国で、イレイナは魔法統括協会の魔女が切り裂き魔事件の聞き込み調査をしているところに遭遇する。
首を突っ込むつもりのなかったイレイナだったが、なんと自分自身が次の被害者になってしまう。

 

公式サイトあらすじより)
 

1.切り裂く魔法は事象も心も切り裂く

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
切り裂き魔の事件は魔法統括協会でも問題視されており、派遣された夜闇の魔女シーラが聞き込みを行うも捜査はなかなか上手く行かない。犯罪者は自分の痕跡をそれと知れぬよう分解して――切り裂いていくものだ(あるいは、聞き取り相手も闇オークションの恩恵を受けているので積極的に情報を切り裂いていたとも取れる)。
また、自分の力量に自信を持っているイレイナにとって、寝込みを襲われ気付きもしなかったなどというのは恥辱以外の何物でもない。切り裂き魔は髪だけでなく、イレイナのプライドもまた切り裂いていったのである。
 
 

2.過激な切り裂き魔とおさらばするために

切り裂き魔は様々なものを切り裂く。しかし同時に、人は誰もがその性として何かを接続するものだ。命ある人間と物体である人形を相互に結びつける(人形のように美しいと評したり、人形の破壊を人体の破壊のように恐怖する)のもそうだし、事件も何度も起きればそれを繋ぐ共通点が見えてくる。イレイナが犯人を捕えることに躍起になるのも、それが自分のプライドの回復と繋がっていると考えるからに他ならない。
 
そして明かされた切り裂き魔の正体は、人の喜怒哀楽を自分の快楽と過剰に結びつける接続魔であった。人の喜ぶ顔を見るのが好きだから無償で人形をプレゼントし、人の怒る顔や悲しむ顔が好きだから女性の髪を切りもする。彼女の前にはあらゆる説諭も感情の迸りも無力か逆効果で、全ては彼女の悦楽に接続されてしまう。
ならば取るべき方法は1つ、彼女と自分をを決定的に切り裂くこと――切断することだ。相手のどうしようもなさに呆れて、イレイナは話を途中で打ち切り魔法で牢へ閉じ込める。牢に入れれば物理的な接続は断たれるし、仮面で隠せば自分の表情を快楽に接続されることもない。切り裂き魔に対してこそ、切断はもっとも効果的な対抗手段であった。
 

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
かくてイレイナは事態を収拾し、奪われた髪を取り戻す。魔法で再び繋がる髪はすなわち彼女のプライドであり、同時に恥辱の払拭である。だからこの場面の描写には力が注がれ、彼女の美貌はとりわけ強調される。そこには彼女が取り戻した全てがある。
髪を切って過去を切断するのは物語の典型だが、イレイナは髪を繋ぐことで過去を切断したのだった。
 
なお切り裂き魔という名の接続魔は連行され、自分の全てをイレイナと繋げたがるサヤと接続されたわけだが、それはまた別のお話である。
 
 

感想

というわけで魔女の旅々の8話レビューでした。切り裂き魔にサヤのデジャヴを感じてしまうこの何とも言えない感覚、この2人出会い方さえ違えば良い友人になっていたのでは…… イカれさせればいいってわけではないでしょうとも思いますが、魔法で髪を繋いだイレイナの「フフン」といった様子はとてもきれいでした。ショートのヘアスタイルは好きですが、イレイナは普段通りの方が似合いますね。
さて、アニメも残すところ1/3。残りで訪れるのはどんな国でしょう。