絶望の姉妹――「魔女の旅々」9話レビュー&感想

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
イレイナが世界の、そして人の心のあちこちを巡る旅を描いてきた「魔女の旅々」だが、9話では時間すら超えた旅が描かれる。時を遡る魔法――SFでも見るような話だが、その魔法が遡行させるのはけして時だけではない。私達が書物を読んで擬似的に過去へ遡行できるように、時計の針を戻さぬ時間遡行も存在する。
 
 

魔女の旅々 第9話「遡る嘆き」

 
 
金欠のイレイナは、お金儲けの甘言に釣られて「薫衣の魔女」エステルに会う。
彼女は親友の不幸な結末を変えるため、魔法で過去に戻ろうとしていた。
2人は10年前の街で、悲劇の始まりとなる事件を阻止しようと奔走する。

 

公式サイトあらすじより)
 
 
 

1.時を遡る方法は1つではない

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
今回ゲストとして登場する魔女・エステルはイレイナに匹敵する天才だ。魔女になった齢はイレイナより1年早く、時間遡行という魔法としても規格外の代物を1人で作り上げた。他人を言いくるめる弁舌やそれで自分の心の脆さを隠しているところなども含めれば、彼女はイレイナに「匹敵する」というよりも「似ている」と言った方がより適切だろう。魔力を共有する指輪で深く繋がることもあり、年齢差1歳の2人はわずかな時間で姉妹のように意気投合した・・・・・・・・・・・関係を築いている。そう、イレイナはエステルと疑似的な姉妹になることで、エステルが「姉妹のように仲の良かった」セレナとの関係性を追体験して――経験という形で時を遡って――いるのだ。
 
美しき少女セレナ。「二丁目殺人鬼」セレナ。10年前買い物に出かけている内に両親を強盗に殺された上、引き取られた叔父に虐待されめった刺しにしてしまったセレナ。人殺しに快楽を覚え、殺人鬼となってしまったセレナ。留学から戻り国に仕える魔女となっていたエステルは償う機会を与えることも許されず、親友の首をはねるしかなかった。
そうした関係性を追体験する以上、イレイナもまた悲劇を追体験せざるを得ない。
 
 

2.追体験という絶望

時間遡行の魔法によって、10年前へと戻ったエステルとイレイナは惨劇を阻止しようとする。しかしそこで明らかにされたのは、両親を殺したのがほかならぬセレナだったという想定外の事態であった。彼女の心は、10年よりもっと前から壊れていたのだ。
自分との仲の良さすら欺瞞であったことに絶望し、エステルはセレナを殺そうとする。ここでポイントとなるのは、エステルは未来で既に一度セレナを殺していることだろう。ならば再びセレナを殺せば、エステルもまた経験上で時を遡る・・・・・・・・ことになる。そして、経験の上で時間遡行するのはエステルと疑似的な姉妹関係を結んだイレイナにとっても同様だ。
 
かつてエステルはセレナに償う機会、つまり「やり直す機会」を与えることができなかった。ならばそれを追体験するイレイナもまた、エステルに「やり直す機会」を与えることができない。魔力を共有する指輪を外そうが、エステルは自らの記憶を代償に魔法を行使してセレナを殺す。かつてと同じように親友の首をはねる。ただの旅人、未熟な魔女に過ぎないイレイナはそれに対して何もできない。現代に戻ったエステルはセレナから受けた傷によって息絶え、擬似的な姉妹はまたしても片方が死ぬ結末を迎えた。
 

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
そうして、イレイナの精神もまた少しだけ時を遡る。世知に長け、自分の利害を第一に判断するドライな「魔女」は、帽子と共に吹き飛ぶ。冒頭に戻ったようにベンチに腰掛けるのは、姉妹を失い自分の無力さに打ちひしがれる1人の少女であった。
 
 

感想

というわけで魔女の旅々の9話レビューでした。3話では表情を見せなかったイレイナがなぜ今回は泣くのか、と考えた結果こうした読み解きに至ります。ぶっちゃけて言えば真相そのものは露悪趣味的で好みじゃないのですが、イレイナとエステルの相似にも時間遡行が仕組まれているのは面白かったです。最後の代償が記憶であったところや、「首をはねる」点などに着目してレビューを書く方もいらっしゃるかもしれませんね。