切磋琢磨の助け合い――「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」9話レビュー&感想

ソロアイドルという形によってスクールアイドルの新境地を切り開いてきた「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」。9話で個別回のトリを務める朝香果林は少々変わった位置にいる。これまでの話はもっぱら、弱さを出して悩んで答えを見つける……というものだったが、果林の場合は5話の時点で弱さをさらけ出しているからだ。今回は皆より半歩進んでいた彼女が一歩進むことで、物語全体がもう半歩踏み出すお話である。
 
 
 
生徒たちからの人気も出てきたスクールアイドル同好会。さらなる成長を望んでいたところ、藤黄学園のスクールアイドル綾小路姫乃から音楽イベント出演の提案を持ちかけられる。しかし、披露できるのは1曲だけ。ソロアイドルの虹ヶ咲がステージに立てるのは1人だけということにお互い遠慮してしまう一同。その様子を見かねた果林はきつくあたってしまう。だけど、果林の言葉は本気で正しいものだった。真剣に受け止め、せつ菜はみんなと相談して決める提案を持ちかける。
 

公式サイトあらすじより)

 
 

1.表裏一体の反転を使いこなせ

最初に述べたように果林は既に一度弱さをさらけ出しており、今回そこに長い時間は割かれない。代わって最初に出てくるのは同好会の方の弱さだ。
東雲学院と藤黄学園の推薦で音楽イベント出演のチャンスを得た虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会だが、出演できるのは各校1曲だけ=1人から1組だけ。グループで活動する東雲や藤黄と違ってソロであることが虹ヶ咲の強みだったが、ここではそれは弱みに変わってしまう。強さと弱さは表裏一体なのだ。
その表裏一体は部員個々においても同様で、誰か1人を選ぶとなった時に皆は自分が出たいと思いつつも手を挙げられない。仲間思いという強さも囚われれば弱さに変わってしまう。それを甘いとする果林の指摘は正論である以上に、弱さに対するカウンター(反転)としての強さと言えよう。
 
しかし繰り返すが、強さと弱さは表裏一体だ。正論や事実は本来強みであるはずだが、それが相手の感情を逆なでするならむしろ弱みになってしまう。果林が指摘の後に突き放すように帰ってしまったのも、自分が言葉をただ強みとすることができていないと感じた一面もあるのだろう。
だからそれを補うための補助線として、時間の経過と街でのやりとりがある。偶然侑達と遭遇した果林は、ただクールなだけの――強さだけの存在ではない。地図を見ても目的地にたどり着けない方向音痴の弱さがある。そしてまた、ダンススクールに通う熱心さ(強み)には努力しなければライバルに追いつけない危機感(弱み)があった。
相手がただ強いだけの存在でないと知ればむしろ親しみが湧き、そこには強さと弱さの反転が柔軟に行える余地がある。なればこそ皆は果林の強さを受け入れ、またそれこそが多数の観客を前にした音楽イベントへの出演者に必要なものだと思えたのだ。
 
 

2.止まらない反転とは循環である

前半で描かれたのは表裏一体の反転だったが、物語はそこから更に先へ進むことを果林に課す。単なる反転は一回きりで連続性を持たないが、世界はそんなにとぎれとぎれではない。これまで描かれてきた物語が1人1人のものでありながら、同好会全体に波及し続けてきたように。世界は反転するだけでなく、循環するのだ。
 
冒頭、果林は同好会を「本当の弱い私を抱きしめてくれた場所」と評した。彼女は強弱の反転すらままならなかった自分を受け止めてくれた同好会に感謝している。今回の苦言にしても、彼女にしてみれば恩返しの一面もあったのだろう。
けれど同好会の皆としては、恩を返してもらったなどという意識は無い。果林の言ったことが単純にとてもありがたかったし、そんな彼女が困っていれば助けたいと自然に思う。それは仲間思い故の弱さに囚われてしまった自分達を引っ張り上げてくれた果林への恩返しにもなるが、やはりそういう意識もない。この時、与える恩と返す恩は一度反転して終わることなく巡っている。循環している。
 
ならば「仲間だけどライバル」という言葉もまた、それだけで終わらない。反転して「ライバルだけど仲間」になっても消えることはない。「仲間だけどライバル」「ライバルだけど仲間」という2つの言葉はその言葉自体が切磋琢磨して・・・・・・・・・・・・・、互いに助け合って高みへ導いていける。1つの言葉を裏返すのではなく、2つの言葉を胸に収めることができたから、果林はプレッシャーをはねのけて歌うことができた。
 
様々なジャンルが集まることでこそ音楽イベントが盛り上がるように。自分を知らない人の集まる場所であればこそ、自分を知ってもらう機会になるように。読者モデルとしての朝香果林が魅力的であったからこそ、藤黄学園の姫乃がスクールアイドルとしての彼女を見たいと願ったように。そして、同好会の面々の1人1人異なる物語が互いを引き立てていくように。循環の中でこそ、人も物語も前に進めるのだ。
 
 
 

感想

というわけでアニガサキの9話レビューでした。「反転」だけで書けるかなと思ったのですが前半を書いて止まってしまい、見返して「循環」が鍵にできるなと気付いて書き上げられた次第。果林は「大人っぽいけど子供っぽい」だけではなく「子供っぽいけど大人っぽい」子でもあって、それを物語の中で体現することで自分を大切にできるのだな。ラストバッターに相応しいお話だったと思います。
 
さて、持ち回りの主役回が終わり次回は夏合宿。残り4話、ニジガクの皆がどんな道を進んでいくのか楽しみです。
 
ウインクかすみんがウインク果林を引き立てつつ自分も最高にかわいさをアピールしている。まさに切磋琢磨の助け合い……