連動という繋がり――「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」12話レビュー&感想

個を、自分を大切にすることを重んじてきた「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」。ここ2話ほどは皆がスクールアイドルフェスティバルの企画で盛り上がる中、歩夢1人は思い悩む姿が描かれてきた。1人だけ皆と違う状態も個ではあるが、果たして彼女は本当にただ皆と違うだけだったのだろうか。この12話は、遠くに思えたものが繋がっていることを見せてくれるお話だ。
 
 
 
「私だけの侑ちゃんでいて」という歩夢の言葉。しかし翌日、いつも通りに振舞う歩夢に侑は戸惑いを感じる。一方、東雲学院と藤黄学園の参加も正式に決まり、生徒たちの協力のもと、順調にフェスの準備が進んでいた。歩夢も応援してくれるファンのみんなを前に嬉しくなるものの、素直に喜べないでいた。気持ちの整理がつかないまま、歩夢はどうしていいのかわからず侑と距離を取ってしまう。
 
 

1.バラバラなのに連動している

歩夢と彼女の告白に動揺した侑の心情がほとんど常に画面を覆う12話前半だが、コミカルな描写も無いわけではない。同好会の面々はフェスに向けそれぞれのファンから声をかけられ、部室から出ていく。残されたかすみは歩夢と特訓を持ちかけるが歩夢もまたファンに呼び出され、かすみは置いていかれてしまう――が最終的には彼女もファンに声をかけられる。空回りや不憫さもかわいさに変えられるかすみの魅力がよく出ている場面だ。
この思わず笑ってしまう場面で重要なのは、呼び出されるのはせいぜい2人組まででみな行き先が異なることだろう。「バラバラ」なのだ。しかしバラバラでも同時に呼び出されれば一体感はあり、そこから漏れたことに疎外感も生まれたりする。そういう意味で、かすみの置かれた状況は歩夢に少し似ている。
 
「バラバラ」は劇中でもたびたび言及されているが、それは個々が全く関係を持たず散り散りの状態を意味しない。先述した呼び出しのように、「仲間だけどライバル、ライバルだけど仲間」の言葉のように、行き先が異なっても連動していることにこそ本作の「個」のありようがある。ならば、1人だけ思い悩んでいた歩夢も皆との連動を失っていたわけではなかった。
 
 

2.「広げる」ことで侑と連動する歩夢

歩夢は侑が成長し、自分から遠ざかっていくのが怖くて仕方がなかった。けれど成長しているのは侑だけではなかった。
 
歩夢「わたしがスクールアイドルを始めたのは、みんなのためじゃないんだ。見てほしかったのは、たった1人だけだったの」
せつ菜「……侑さんですね」
歩夢「だけど今は変わってきてて、こんなわたしをいいって応援してくれる人がたくさんいて、その気持ちが嬉しくて、大切で……今はわたしの大好きな相手が侑ちゃんだけじゃななくなってきて。本当はわたしも離れていってる気がするの」

 

 
歩夢が押し込めていたのは、侑が遠ざかる不安だけではなかった。自分の方から遠ざかる不安もまた、彼女の内にあった。
思い返せば1話でも、せつ菜のライブに心動かされたのは侑だけではないと明かしたのが歩夢だった。彼女の心はいつも侑と少し違って、そして連動していた。前回打ち明けた胸の内は不安の表れであると同時に、侑以外にも大切な相手が増えている自分を押し込めないがしろにする行為だったのだ。
 
だから歩夢は再び、1話と同じくせつ菜の「言葉」を起点に動き出す。侑は自分にとって特別大切で、けれどそれは侑だけじゃない。ステージを作ってくれたファンの皆と侑を、歩夢はまとめて抱きしめる。
 
侑「みんな、大好き!」
 
どちらかだけじゃなく、どちらも自分にとって大切。それは前回侑が会場を選択するのではなく全て選んだのと同じ、「広げる」行為だ。歩夢が抱き締めたのは彼女たちだけではなく、そう思える自分自身もだ。
その思いを認めることこそ、その言葉を口にすることこそ、歩夢の新たな「自分を大切にする」ことだった。
 
 
バラバラなのは侑も自分もで、そして2人は連動している。連動しているなら、遠ざかることは繋がりが断ち切られることではない。だから歩夢は侑とは別の道を、一緒に歩くことができるのである。
 
 

感想

というわけでアニガサキの12話レビューでした。「自分を大切にする」を大テーマに見立てて読み解いていますが、歩夢のそれが鍵になるのはとてもきれいな解決回だったと思います。原点に帰って新しく一歩が始まる、別れは再会の始まり。
さてさて、次回はとうとう最終回。9人+αのステージをどんな風に魅せてくれるのか、楽しみです。
 
かすみ「うわーん、かすみんのファンはいないんですか!? かすみんはここにいますよー!」
 
ここに(画面外に)いるぞ!と馬袋ばりに叫ばずにおられず。かすみは今回このやりとりだけで座布団3枚級の活躍だったと思います。