"みんな"が生まれる時と"あなた"のための歌――「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」13話レビュー&感想

スクールアイドルが好きな皆のためのお祭り、スクールアイドルフェスティバルの日をいよいよ迎える「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」。これまで物語は主に同好会の誰か1人を中心に据え、その開花をソロ楽曲で鮮やかに彩ってみせてきた。しかし本作のOP・EDは誰か1人の持ち回りなどではなく、「虹色Passions!」も「NEO SKY, NEO MAP!」も同好会アイドル全員での楽曲となっている。彼女達が揃って歌うとは、いったいどういうことなのか。最終回13話は、その理由と意義を教えてくれるお話だ。
 
 

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 第13話(最終回)「みんなの夢を叶える場スクールアイドルフェスティバル所」

 
スクールアイドル同好会での活動を経て見つけた、初めての夢――。音楽。そのために音楽科へ転科したいという気持ちをみんなに伝えた侑。同好会の一同も侑の想いを応援する気持ちはひとつだ。スクールアイドルフェスティバルのようなすごいことがうまくいけば、自分も夢への一歩を自信を持って踏み出せるかもしれない――そう侑は思う。そしてやってきたフェス当日。ライブステージがお台場の至る所に設置され、みんなのカウントダウンの掛け声と共に、スクールアイドルとファンたちを巻き込んだお祭りがついに始まった。各所で盛り上がる中、街中に響きわたる歌声を聞きながら空を見上げる侑。しかしその時、侑の頬に一滴の雨粒が落ちてくる。
 
 

1.バラバラを繋ぐもの

様々なスクールアイドルが様々なステージで歌い踊るスクールアイドルフェスティバル。コンセプトそのままに、同好会の皆の披露するライブはバラバラだ。愛は実家のもんじゃ焼きを併売しているし、彼方はファンと一緒にお昼寝すらする。誰1人とて同じもののない、本作の世界観を具現化したようなイベント――しかしその裏で歩夢達は、1つ同じことをしている。侑には秘密の、彼女のためのノートの回し書き。多様さを極めたような彼女達は同時に、たった1人のために同じことをしている。
そしてこの「たった1人のために」は、会場で同時多発的に起きていることだ。しずくがかすみ1人にお礼の髪飾りをプレゼントしたり、璃奈が愛のために機材トラブルを解決したり……何より、観客はみなステージで歌い踊るたった1人(あるいは1組)を見るために集まっている。スクールアイドルのステージは、「たった1人のためのみんな」を生み出している。
 
 

2.新しい"みんな"の形

スクールアイドルは「たった1人のためのみんな」を生み出す。けれどそれは、ファンが彼女達に向けるだけとは限らない。先に述べたように、歩夢達は侑たった1人のためにみなサプライズを企画していた。彼女が音楽科への転科試験を受けると聞いた時は、それぞれ異なる方法でみなが彼女を応援しようとしていた。スクールアイドルだって――ソロアイドルだって、「みんな」になる時がある。
たった1つの目的のために? 違う。ラブライブという目的のために組んだグループはお披露目もせず瓦解した。個の奉仕を前提とした「みんな」を、本作は否定してきた。
歩夢達の「みんな」はたった1つの目的のためではなく、たった1人のためのもの・・・・・・・・・・・だ。
自分を大切にすることを知った1人1人の集まりが、たった1人を大切に思う気持ちを鍵に手を合わせる。しかつめらしく言うなら「個の集まりが個を尊重する」、キャッチフレーズ的に言うなら「かけがえのないたった1人を大切にする」思いの集まり。それこそは虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の皆がたどりついた新たな「みんな」の形だった。
 
 

3.そして"あなた"へ送られたエール

最初に挙げた「みんな」の読み解きは以上だが、最後に本作のメッセージについても書きたい。
歩夢達は侑のために完成させた歌を、皆の前で歌った。彼女達の言う「かけがえのないたった1人」は、けして侑1人ではなくもっと広い意味を持っている。そのヒントは最後のライブのありよう、観客の集まりと歩夢達からの言葉にある。
 
最後のライブは観客は全員が一所に集うのではなく、これまでライブのあった様々なステージに分散して集まってのものだった。かすみは、彼らへの感謝をこう述べている。
 
かすみ「最後のステージに集まっていただいたみなさん。そして、モニター越しに見てくれているみなさん。今日は私たちと一緒に楽しんでくれて、本当にありがとうございます!」
 
この「みなさん」はかすみの目の前にいる人達だけではない。他のステージから見ている人間だけでもない。この作品を見ている全ての人だ。ここから先、同好会の皆が口にした言葉は全て、たった1人のあなたに向けて・・・・・・・・・・・・・紡がれた言葉なのだ。
 
愛「ちょっとアクシデントもあったけど、みんなのおかげでこのステージに立つことができました!」
璃奈「今日はいろんなステージを回って、みんなと繋がることができて、とっても大切な1日になりました!」
しずく「スクールアイドルフェスティバルは、みんなの夢を叶える場所。わたし達同好会はグループとしてではなく、1人1人がやりたい夢を叶えるスクールアイドルとして歩き始めました」
果林「1人で夢を追うことは簡単ではなくて、それぞれがそれぞれの壁にぶつかったけど……」
エマ「その度に誰かが誰かを支えて今日、ついに大きな夢を叶えることができました」
彼方「わたし達は、1人だけど1人じゃない」

 

 
この作品をちょっぴりでも見て、それによって応援してくれた「あなた」がいたから今この瞬間がある。
 
せつ菜「今までみんなに支えてもらった分、次はわたし達がみんなの夢を応援します!」
歩夢「これからも、つまづきそうになることはあると思うけど……あなたがわたしを支えてくれたように、あなたにはわたしがいる」
歩夢「この思いは1つ。だから、全員で歌います」
みんな「あなたのための歌を!」

 

 
だからこの歌は、「夢がここから始まるよ」は全てのあなたに、かけがえのないたった1人のあなたに向けられたエールなのだ。何かに挫折したあなたに、己の価値を見失ってしまったあなたに、これからもきっと何かにつまづくあなたに、誰よりもあなたに。「あなたのことが大切なんだ」と彼女達みんなが歌っているのだ。
願わくばその励ましが、たった1人のあなたに届きますよう。
 
 

感想

というわけでアニガサキの最終回13話レビューでした。聞き及ぶ高咲侑というキャラクターの誕生の経緯を考えると納得しかない最終回、スクスタやってる人の感情移入具合を想像するだけですさまじい破壊力……! 自分を大切にする物語を描いてきたからこそ「あなたを大切にしてほしい」と言える。璃奈にならって言えばモニタの向こうと「繋がった」のだと感じました。
 
優しく「個」を歌い上げた本作のメッセージが、1人1人に届きますよう。その思いが「みんな」を生みますよう。スタッフの皆様、お疲れさまでした。