誰よりも隣にいるアイドル達――「おちこぼれフルーツタルト」12話レビュー&感想

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©浜弓場 双・芳文社/おちこぼれフルーツタルト製作委員会
おちこぼれ少女達のアイドル道を描き続けた「おちこぼれフルーツタルト」。最終回で描かれるのはフルーツタルトの本拠地・東小金井でのライブイベントで、けして派手なものとは言い難い。けれど衣乃達は確かにそこに立っている。この12話はおちこぼれがおちこぼれのまま、しかしおちこぼれであることで未来を生み出すお話だ。
 
 

おちこぼれフルーツタルト 第12話「おちこぼれそつぎょう?」

 
アイドル甲子園で順位を上げるため、地元東小金井でのライブ実現に向けて動き出したフルーツタルト。準備が進む中、衣乃はライブの目玉として新曲を用意しようと考えるが、制作費用が捻出出来ない。しかしそこに穂歩が現れ天才的な解決策を閃いたと告げる。なんと穂歩はロコに文字通り『一肌』脱げるかと迫るのだった……。
 
 
 

1.おちこぼれだから歩めない道

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©浜弓場 双・芳文社/おちこぼれフルーツタルト製作委員会
タイトルでもOP冒頭でも繰り返すように、衣乃達フルーツタルトはおちこぼれだ。もちろんおちこぼれから始まる成り上がりは物語の定番だが、衣乃達のおちこぼれぶりはそういうものとは異なっている。マネージャーはゲスだしメンバーは変態だらけ、けしてカリスマ的な魅力を持っているわけでもない。「まっとうなアイドルもの」からは大きく外れているし、劇中で起こるトラブルも多くはまっとうな方法では解決されてこなかった。
もちろんまっとうな方法が採れればそれに越したことはないが、衣乃達にそうさせない壁はどうしようもないものだ。新曲を用意するお金は無い、イベント会場でトイレに並べば順番まで体が持たない、ネズミ荘らしくネズミ耳を付ければ訴えられる恐れがあり、現実を見れば自分達は主役どころかモブですらない……アイドル甲子園だってクリームあんみつの人気にはとうてい敵うはずもなく、おこぼれの次点勝ち抜きすら難しい。
"おちこぼれ"を冠するこの物語は、衣乃達フルーツタルトはけしてドラマのようなサクセスストーリーを歩むことができない。
 
 

2.おちこぼれだからこそ進める道、示せる道

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©浜弓場 双・芳文社/おちこぼれフルーツタルト製作委員会
おちこぼれである限り大きな成功ができないなら、おちこぼれでなくなることで成功を目指す。それは1つの道理だし衣乃達も目指してはいるが、本作を動かしてきた主機はそこにはない。事態を動かしてきたのはむしろ、より度を越したおちこぼれぶりの方だ。今回で言えば、東小金井でのライブを実現させたのは穂歩の銭ゲバぶりあってのことだし、ロコはアホの度を過ぎることでクリームあんみつから楽曲提供どころかゲスト出演の約束を取り付けた。衣乃が失禁の危機を免れたのは空いているトイレの発見ではなく、携帯トイレによる野外での処理によるものだった。どれもこれも、より酷くなることが問題解決に繋がっている。
 
そもそも、本作劇中の成功者はみな「まっとうなアイドル」の類ではない。クリームあんみつは重度のシスコンとドSドMだし、リリは穂歩のこととなると我を忘れるし、彼女と社長代理の乙は年齢詐称的なコスプレ趣味を持っている。まっとうだから成功しているのではなく、むしろおちこぼれになりそうな部分こそは彼女達を動かしている。
ならば衣乃達がすべきもまた、自らのおちこぼれぶりを否定しないことだ。足りないものがあるなら人に助けを借りる、借りた力には素直に感謝する。借り物紛い物、あるいは偶然の中にも自分は宿るし、それによって前進することもできる。それは見ようによっては、「まっとうなアイドルもの」よりずっと現実的な姿だ。
 
 

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©浜弓場 双・芳文社/おちこぼれフルーツタルト製作委員会
おちこぼれ系アイドルである衣乃達の物語は、アイドルものの常道から外れている。しかしアイドルものはそれ自体が私達の常道から外れた(私達には難しい、眩しい生き方を示した)もののはずだ。なら「外れの外れは当たり」にだってなり得る。「おちこぼれ」は衣乃達が他の誰より私達に近い証明なのである。
おちこぼれ系アイドルは一周回って私達に近い。なら"おちこぼれ"を冠するこの物語は、衣乃達フルーツタルトはきっと、私達と同じスピードでこれからも歩んでいくことだろう。私達もまた、衣乃達と同じようにゆっくりでも進んでいけばいいのだ。
 
 

感想

というわけでおちフル最終回12話のレビューでした。9話と同じ内容のようにも思えてなかなか筆が進まなかったのですが、「おちこぼれ系アイドルとは何か」という思いつきで書き連ねてみました。
 
実際まあ、本作のありようにはずいぶん面食らったのですよね。PV2はうっかり放送予定日のところまでしか見ていなかったこともあり、当初はてっきり「まっとうなアイドルもの」かと……こんな変態さん揃いの作品だったとは。
 
1話のレビューで「日常系の外側」と書きましたが、こうして振り返ってみると外側=「落ち零れた」ものであり、そこにこそ私達に近いものがある。そういうものを拾い上げて描いたのが本作だったのかな。いやホント、良い意味で憧れだけのキャラがいない。各アイドルの客層分析とかブスッと刺さりました。ありそうでなかなか無い、不思議な作品だったと思います。スタッフの皆様、お疲れさまでした。
あとはゆちゃんかわいかった!