舞台裏を見に行こう――「IDOLY PRIDE(アイドリープライド)」1話レビュー&感想

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
「舞台裏のドラマが、ステージを輝かせる」……「IDOLY PRIDE(アイドリープライド)」はPVなどで、折に触れてはそう謳っている。いささかストレート過ぎるようにも感じられる言葉にしかし、嘘はない。この1話は、30分のほぼ全てを過去という舞台裏に割いたお話なのだから。
 
 

IDOLY PRIDE 第1話「この一歩から」

星見高校に通う牧野航平は、ある日同級生の長瀬麻奈から、これからアイドル活動を始める自分のマネージャーをやってほしいと頼まれる。新人アイドルとしてデビューした麻奈は、アイドルの実力をAIで判定しランキング化したVENUSプログラムで、次々とランクを上げていく。そんな麻奈を裏方として支え続ける牧野。だが麻奈が出場する「NEXT VENUSグランプリ」の決勝戦当日……、厚く暗い雲が空を覆っていた。
 
 

1.ステージの光、舞台裏の影

 
「舞台裏」と聞いて、本当に舞台の裏だけを思い浮かべる人はあまりいないだろう。ステージでは直接見えない努力や苦悩を指す比喩表現であることは明らかだ。そして、それはアイドル本人だけのものとは限らない。
 

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
牧野「青春の光と影。当然あっちが光で、こっちが……」
 
5年前の回想はとても視覚的だ。なにせ学校の特設ステージの「舞台裏」から牧野のモノローグは始まる。青春の影もまた本作の「舞台裏のドラマ」であることは、この一点だけで分かる。
青春の影を自認し舞台裏の存在である牧野の思いは確かに、ステージを輝かせている。彗星のように現れ人気急上昇、新人アイドルのVENUSグランプリ決勝の日に事故死した長瀬麻奈の経歴はそれだけで伝説的だが、そのままではどこか遠い。彼女の級友でありマネージャーとなって彼女を支えた――当人はそうは思っていないだろうが――牧野の目を通して、体温ある一人の人間として長瀬麻奈の姿が映されているからこそ、彼女の死にはどっしりと重みが備わってくる。学校での2人の席がそうであったように、光と影は交わらずとも隣同士にあるのだ。
 

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
ただ、この1話の主人公は長瀬麻奈ではない。アイドルとして駆け上がる麻奈の姿はあくまで状況に過ぎず、私達視聴者の視点は彼女を見る牧野の方に固定されている。なら主人公は、ステージに立ち光の側にいるのは彼の方だ。では今回、本当に舞台裏に隠れて――影になっているものは何だろうか?
 
 

2.舞台裏に隠れていたのは

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
1話の実質的な主人公を務める牧野は麻奈の級友でありマネージャーでもあり、今回登場する人物の中ではもっとも彼女を見ている。人気者であることもなかなか図々しいことも、小さな嘘を何度もついていることも、大きな嘘は一度もついていないことも彼はよく知っている。劇中の余人は知らぬことでもそれは彼の視点で物語を見れば必ずステージ上にあり、隠れてなどいない。ならば舞台裏の一番奥に隠れているのは、牧野が見落としていることだ。気付けなかったことだ。
 
なぜ麻奈は牧野をマネージャーに誘ったのだろう?
なぜ麻奈は牧野の前に幽霊になって現れたのだろう?
 
好きだったからというのは正解かもしれないが、あやふやに過ぎる。それを伝える機会ならいくらでもあったはずだ。それこそ、牧野がドッキリを疑った放課後のように。
 
回想の起点から5年という時間の中では、多くの変化が起きている。5年間はもちろん高校の3年間より長いし、牧野は眼鏡ではなくコンタクトをつけるようになり自動車の免許も取った。立場も芸能事務所・星見プロダクションのバイトから正社員になった。麻奈と同期のアイドルの遙子はもう制服を着ておらず今後を考えようとしている。そして、麻奈は人気アイドルになり事故死した。彼女を忘れられない牧野も、かつて通った星見高校の校舎にもう許可無しでは入れない。
多くの変化はすなわち多くの離別である。そしてあまりにも突然の麻奈の死がそうであるように、離別は容易く人と人を引き裂く。
 
麻奈が牧野と離別する危機は二度あった。1つは彼女が芸能活動を始めた時。そしてもう1つは事故死した時。けれどそれにも関わらず、5年後も麻奈は牧野の傍にいる。アイドルになろうが幽霊になろうがそれは変わっていない。牧野が久しぶりに訪れたかつての教室のように、何も変わっていない。
 
なぜ麻奈は牧野をマネージャーに誘ったのだろう?
なぜ麻奈は牧野の前に幽霊になって現れたのだろう?
 
答えは簡単だ。麻奈は自分がどう変わっても牧野と一緒にいたかったのだ。離れたくなかったのだ。ただ、それだけだったのだ。
 

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
舞台裏に隠れていたそれはとてもシンプルで、だからステージ上の物語を切なく輝かせる。本作はきっと、その連鎖を私達に見せてくれる物語になることだろう。
 
 
 

感想

というわけでアイプラ1話の考察・レビューでした。アバン早々に死を覚悟させておいて裏切らず、別の形で拍子抜けさせるようでとても切ない。好みの重厚さです。今回の見立てを作った後だと、牧野が持っている2人分の卒業証書が一緒にあるカットとかそれだけでたまらなくなってしまう。牧野役の石谷春貴さんの演技も素敵でした。お母好きやシートン学園と言い、自意識を感じさせる役が抜群にハマるなあ。
しかしこれ、確かにアイドルアニメの描き方の常道ではない。2話以降どう描いていくつもりなんだろう。どっしり構えて、見ていきたいと思います。