遠景への旅――「のんのんびより のんすとっぷ」1話レビュー&感想

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
「田舎」に託した桃源郷を描くアニメ、TVに三度。「のんのんびより のんすとっぷ」1話でれんちょん(宮下れんげ)は棚の上のつまようじを取ろうとするも叶わない。踏み台を使っても届かぬそれはしかし、背の高い一穂からすればどうということも無い。この1話は、大小遠近の捉え方を変えてくれるお話だ。
 
 

のんのんびより のんすとっぷ 第1話「カエルの歌を吹いた」

 
ある春の日、早起きした宮内れんげはリコーダーを吹きながら学校へ向かっていました。
今日は音楽の授業でリコーダーの合奏があるようです。途中、バスで出会った高校生の富士宮このみに、ドの音がうまく出ない事を打ち明けると、今度一緒に練習する事になりました。
れんげが旭丘分校に到着すると、他の生徒たちも登校してきて…。
まったりゆるゆるなメンバーが送る日常が、またまたはじまります。

 (公式サイトあらすじより)

 
 
 

1.遠くから見れば凸凹は目立たない

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
本作の登場人物は凸凹だ。れんちょん達主要キャラ4人は小学1年生、5年生、中学1年生、2年生(そして中学3年生の卓)。他所なら共に過ごす時間も限られる彼女達はしかし、旭丘分校ではずっと一緒に学んでいる。学年という凸凹が消えたわけではないが、ここではさほど大きな差異ではない。冒頭、一穂にとって棚の上のつまようじは高いところにはあるが届かないわけではなかったのと同じだ。例えるならそれは、凸凹を遠くから見るようなもの。
何かを突き詰めることは対象を間近で見るようなもので、その視界には小さな差異が妥協できない大きな凸凹となって見える。一方で何かにこだわらない時、対象は遠くから見たのと同じ状態になる。遠くから見れば凸凹にさほど大きな違いはなく、それはなだらかであるのとさほど変わらない。
 
小さな差異に向けるのも不要なことではないが、それだけを見続ければ人の目は近眼になってしまう。時には、遠くを見せることが解決の早道になることもある。自分達生徒ではなく教師の一穂のことで日誌を埋めたり、夏海が人形遊びに夢中になって日誌に不行状を書かれる懸念を忘れたりするのは、そういうおおらかさが事態を解決する例と言えるだろう。
 
 

2.新キャラクター・篠田あかねの1話での役割

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
凸凹が遠景の中に溶け込む「のんのんびより」の世界。今回はそこに、篠田あかねという少女が新しく登場する。町の高校に通う富士宮このみの後輩、吹奏楽部に所属する人見知りの子。
人見知りしてしまう、人に話しかけたりできない理由の一つには、何かを気にしてためらってしまうことが挙げられる。こんなことを言って気を悪くしないか、あんなことを言ってまずいことにならないか……先程の話になぞらえるなら、凸凹を間近で見てその差異に戸惑ってしまうのだ。そして田舎具合への驚きっぷりや巨大ガマガエルへの反応といったツッコミを見れば、そんなあかねのありようは私達視聴者に近い位置にあることも分かる。彼女は、私達に代わってれんちょん達のところを訪れた旅行者なのである。
 

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
「あかちゃん」のあだ名にツッコんだり、オナモミをもらって困惑したりしながらも、あかねは次第次第に本作の世界に溶け込んでいく。それは、彼女が凸凹を間近で見ることから解放されていく過程だ。最初は小学生相手でもどう話せばいいのか分からなかったのが、気付けば自然に接していることをあかねはこのみから指摘される。
ハイライトとなるのは、彼女がこのみとれんちょんと3人でかえるの合唱を演奏する場面だろう。そこでは様々な凸凹が存在したままでありながら、さほど意味を持たない。高校生と小学生も、フルートとリコーダーも、上手も下手も、全ては遠景の中に溶けているのだ。
 

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
あかねはけして、れんちょん達と同じところに住んでいるわけではない。時間が来れば彼女は元いた場所に、凸凹を間近で見る場所に帰ることになる。しかしそれはけして悲しむことではない。自分からまた一緒に練習してほしいと言い出すことができたのは、些細だが彼女にとって大きな成長だ。再び凸凹を間近で見たからこそ分かった、とても大きな差異だ。
近景と遠景を行き来することであかねは、新たな視点を得ていくことだろう。もちろんそれは、本作を視聴する私達が得る視点でもあるのだ。
 
 

感想

というわけでのんのんびより3期1話の考察・レビューでした。わー懐かしい、劇場版は疲れていて見に行けなかったので、実に2015年以来の再会になります。日常系の極北とも言える内容をどうレビューするか悩みましたが、やっぱり面白い。言語化してみて合奏シーンが本当に素敵に感じられました。れんちょん達との再会を楽しんでいきたいと思います。
 

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期

 

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お母さんごっこやってる時の夏海の表情が見たい。世界中の夏海好きが赤ちゃんに戻るような顔をしているのでは……?