あまりにも大きな痕跡――「IDOLY PRIDE(アイドリープライド)」2話レビュー&感想

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
ヒロインである長瀬麻奈の死、そして幽霊としての再登場と衝撃的に幕を開けた「IDOLY PRIDE(アイドリープライド)」。2話でも当然彼女は幽霊として現れるが――果たして、幽霊は麻奈だけだろうか?
 
 

IDOLY PRIDE 第2話「ここに立つその理由」

 
麻奈の死から3年後、牧野が働く星見プロダクションで新しいアイドルグループのメンバーを決めるオーディションが開催される。やってきたのは麻奈の妹・長瀬琴乃と、麻奈とそっくりな歌声を持つ少女・川咲さくら。オーディションに合格した2人はさっそくレッスンを開始する。そしてメンバー同士での理解を深めるために、事務所の寮へ入ることに。そこで琴乃とさくらは、グループに所属するアイドルたちと初めて出会う。
 
 

1.幽霊とは痕跡である

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
幽霊となった麻奈は、牧野以外の人間の目には見えない。見えるのはそれに対する牧野の反応だけだ。また麻奈自身にしても、牧野以外の人間と言葉をかわすようなことはできない。現世に何かする力などは持っていない。幽霊とは言わば、死者の痕跡だけがこの世に留まっているようなものだ。
幽霊と痕跡が紐付けできるならば、この2話には麻奈以外にも様々な"幽霊"が――痕跡があふれている。アバンにしてからが前回ラストの痕跡であるし、長瀬琴乃の番で終わりのはずの午前のオーディションはその痕跡によってもう1人の合格者・川咲さくらを招き入れた。彼女達が住まう寮が新設ではなく保養施設の転用であることも、見ようによっては痕跡と言える。
 
そしてそういういくつもの痕跡を並べてなお、長瀬麻奈の痕跡はあまりに大きい。琴乃とさくらがオーディションに合格した理由はもちろん実力あってこそだが、牧野と三枝は2人の麻奈との奇縁にも着目している。
長瀬麻奈の妹・長瀬琴乃。そして長瀬麻奈そっくりの歌声を持つ謎の少女・川咲さくら。2人はいるだけで歌うだけで長瀬麻奈を、その痕跡を周囲の人に思い出させる。それはつまり、見える見えないを問わず彼女達の側に麻奈の幽霊がいるに等しい。
 
 

2.痕跡を追えば近づき、傷つく

 
牧野「まず、聞かせてください。君はどうしてアイドルになろうと?」
琴乃「わたしが、長瀬麻奈の妹だから。それで十分理由になりませんか」

 

 
長瀬琴乃は姉を追いかけている。いや、姉の痕跡・・を追いかけている。姉のように三枝からの指導を希望し、姉のようにソロ活動を希望する眼差しの先には、常に長瀬麻奈の痕跡がある。ただそれは、憧れに導かれたものではない。
生前の姉妹の間には常に距離があった。それは袖を引かれても気付かない程アイドルに魅了された姉に琴乃が感じたものでもあるし、拗ねてしまって自分で空けたものでもある。姉の事故死によりもはや無限になったとすら思えたその距離はしかし、遺された日記を目にした時わずかに縮まった。日記という痕跡によって、琴乃は僅かながら再び姉を感じることができたのだ。ならば髪を伸ばし芸能事務所の門を叩き、より多くの姉の痕跡を琴乃が追い求めるのは自然な成り行きだろう。
 

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
痕跡を追えば距離は無限ではなくなる。それは琴乃の体得した事実だが、幸せを約束してはくれない。距離というのは無限であるよりも、有限である方が遠く苦しく感じられるものだ。
例えばスポーツでスーパープレイが決まった時、その凄さを理解できるのは素人よりもファン、ファンよりも経験者、経験者よりも選手である。自分に関係ない、と思っている人にはどのプレイも等しく無限の距離でしかないが、その競技を知り自分にはできないと知っている人ほど自分との距離を正確に測ることができる。自分といかに遠く離れているか、知ることができてしまう。有限には、無限には無い苦しみがある。
事故の電話を聞いた時もその後も呆然としていた琴乃が初めて嗚咽したのは、麻奈の日記を見た時だった。つまり痕跡に触れ、距離が無限でなくなった時だった。おそらくあの時、琴乃は初めて姉の死を実感したのだ。彼女がどれだけ遠くに行ってしまったか、その時初めて理解できたのである。
 
 

3.あまりにも大きな痕跡と、そこから見える新たな可能性

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
琴乃が麻奈の痕跡を追うことは彼女に近づこうとする行為であると同時に、それがいかに遠く離れているか痛感する行為に他ならない。今回だけでも、姉と同じ道を辿ろうと願った分だけ彼女はそこからの距離を感じてしまう。指導するのは三枝ではなく牧野、活動はソロではなくグループ、妹の自分よりも姉に似た歌声を持つ少女・さくらの出現……何もかもが琴乃の目指した形とは別物だ。遠く離れている。
しかし望まぬはずの遠ざかることは、離れることは、むしろ琴乃と麻奈の距離を縮めてもいる。牧野はかつて麻奈のアシスタントマネージャーだったし、道行く人は1人ではなく2人の歌唱に麻奈を見出した。まるで姉のようなさくらの歌声は、姉と歌うように琴乃の歌唱を高次へ引っ張り上げた。離れたはずが、そこにはむしろ姉に近いものがあった。
 
そもそも琴乃に姉と同じアイドルを志させたのは、つまり姉妹を近付けさせたのは、麻奈自身が言うように彼女が「いなくなった」からだった。離れれば離れるほど近づく、そんな関係も世界には確かに存在している。
これはおそらく寮の物置=離れに住む牧野とアイドルの関係にも同じことが言えるし、また逆に彼とごく近く・・・・にいる者がむしろ大事な部分で離れていると考えるのもけして無茶な想像ではないだろう。
 
本作において幽霊の麻奈と会話できる人間は牧野しかいないが、それは彼女が牧野以外の誰とも関われないことを意味しない。見えると見えざるを問わず、知と不知を問わず、本作の人々は麻奈の幽霊と――いや、彼女を起点に生まれたいくつもの痕跡、すなわち「舞台裏のドラマ」と共に歩んでいくのだ。
 
 

感想

というわけでアイプラ2話のレビューでした。書けば書くほど「あれも拾える、そういえばこれも拾える」となって視聴し甲斐あるな! 麻奈の重力がとても大きいところに癖の強さもありますが、それが必要不可欠な物語なのは間違いないのだと思います。
未加入のメンバーも含めた星見プロのアイドル達がこの力をどう乗りこなしていくのか、注目。