目印なしでは歩けない――「IDOLY PRIDE(アイドリープライド)」3話レビュー&感想

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
舞台裏を描き続けるアニメ「IDOLY PRIDE(アイドリープライド)」。3話冒頭では、麻奈に似た歌声を持つさくらへの琴乃の意識や、寝ぼけたすずと雫をご飯の匂いで誘導するさくらの姿が見られる。この2つに共通するのはさくらが目印であること。人には目印が要る。今回はそういうお話だ。
 
 

IDOLY PRIDE 第3話「誰もが答えを探してる」

 
琴乃とさくら、そして同じアイドルグループのメンバーとなった白石沙季、白石千紗、成宮すず、兵藤雫。6人はデビューに向けて、毎日基礎トレーニングに励む。さらに琴乃の親友・伊吹渚もメンバーに加わるなか、琴乃はまだグループに溶け込めずにいた。そんなとき、星見プロに大人気アイドルグループ・LizNoirがやってくる。彼女たちからレッスンを受けることになった琴乃たちは、LizNoirの圧倒的な実力を目の当たりにする。
 
 

1.麻奈という目印を失った少女・琴乃

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
1,2話に比べ、麻奈の果たす役割は今回舞台裏に隠れがちだ。しかし出番の多寡は存在感・存在意義の大小と一致するとは限らない。例えば朝食のメニューやグループ生活で「皆の決めた方に従う」と前回が嘘のように意思がはっきりしない琴乃の姿からは、彼女は姉という目印がなければ途端に迷ってしまうのだという逆説的な麻奈の存在感が見え隠れする。
 
前回こそ頑なほど姉を追いかける決意を示した琴乃だったが、姉に代わって頂点を目指すクールな少女というのは、自分の意思を表すのが苦手な自分を隠す仮面に過ぎない。姉の絡まぬ場面から見えてくる姿は、彼女がいかに"お姉ちゃんっ子"だったかを示している。琴乃にとって麻奈は、何より自分の目印だったのだ。しかし麻奈がアイドルになったことで琴乃はそれを見失い、取り戻せぬまま麻奈は逝ってしまった。だから彼女はそれを取り戻すためにはどれだけでも頑張れるが、自分の意思の目印を示すことはできないままなのである。
 
 
目印が無ければ人は進めない。講師も目標も無しの基礎レッスンだけの日々は不安にもなるし、会って間もない人間とのコミュニケーションは距離感を掴むのも難しい。特に寮で共同生活を送るともなれば親しくなろうとして失敗する、「近付こうとすれば離れる」ことが頻発するのも当然のことだろう。
 
 

2.新たな目印は、姉への目印でもある

「近付こうとすれば離れる」ことは、世界にありふれている。「女の子をその気にさせるのが牧野くんの仕事でしょ」という麻奈の言葉は間違っていないが故に誤解を招く表現だし、人気アイドルコンビ・LizNoir(リズノワール)は星見プロを訪れてまで三枝のプロデュースを談判するが断られてしまう。けれどそれだけではない。時には「離れることで近づく」ことが、事態を好転させるきっかけになるのもまた、前回と変わらない。そしてそれは、目印を探す手助けとなるものだ。琴乃は今回2つの「離れることで近づく」によって、段階的にそれを見つけていく。
 
琴乃に起きた最初の「離れ」は、友人の渚が新たなメンバーとして加わったことだった。彼女は仮面を被っていない時の自分を知っているし、またそれをさくら達に伝えもする。彼女が共にいることで、さくら達は琴乃が自分達が思うより表情も感情も豊かな少女だと知ることができた。渚が現れたことで、琴乃は仮面から少し離れて皆と近づくことができた。
 

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション


そしてもうひとつの「離れ」は、追いかけるものからの「離れ」だ。琴乃が追いかけているのはもちろん姉である長瀬麻奈だが、その思いは彼女の原動力となる一方で不安定にもしている。適切な距離を取らなければ焦点が合わないように、過度に近づこうとすることは遠ざかる結果にしかならない。
琴乃は今回、LizNoirのダンスパフォーマンスでアイドルというものの凄さを知った。「姉に代わってVENUSプログラムの頂点に立つ」ために具体的にどれほどのものが求められるかを知った。それは姉と同じ形に無理にこだわっていた彼女がその実、姉しか見ていなかったに過ぎない証だ。乗り越えるべき目標としてLizNoirに視線を向けたことで、琴乃の視線はようやく姉から少し「離れる」。そしてだからこそ成長できる――姉に「近づく」ことができる。麻奈と競い合ったLizNoirの存在は、姉に近づき過ぎて離れてしまっていた琴乃の視線を、適切に保つための目印となったのだった。
 
 

3.人は誰もが誰かの目印になり得る

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション

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琴乃「……雫、さっき動画撮ってたよね」
雫「撮った、その後のレッスンも……」
琴乃「それ、みんなで見ない?……その、反省会、したいから」
さくら「うん、やろうやろう!」

 

 
誰かや何かと適切な距離を保つのは、保ち続けるのは、自分ひとりでは難しい。けれど多くの人との交わりの中でなら、そこには沢山の目印があっていくらかやりやすくなる。LizNoirと自分達の距離の遠さにおののいた皆は、あんな風になりたいと素直に憧れるさくらの言葉を目印に我を取り戻した。そんな彼女を目にした琴乃もまた、自ら仮面を脱ぐ一歩を踏み出した。
 
距離を測り損ねたまま姉との別れを迎えた琴乃は、さくらや渚、LizNoirといった人達を目印にそれをやり直していくことだろう。そして彼女自身もおそらく、多くの人が自分と長瀬麻奈との距離を測り直すための(そして、成仏できない麻奈が牧野や世界との距離を測り直すための)目印になることを運命づけられている。そのドラマはきっと、多数の登場人物を擁し、一方で1人のアイドルにあまりに大きな存在感を持たせたこの作品を捉えるための目印ともなるはずだ。
 
 

感想

というわけでアイプラの3話レビューでした。前回同様の「近付こうとすれば離れる」「離れることで近づく」で書いてみたのですが今ひとつスッキリせず、ウンウン悩んで「目印」というキーワードにたどり着きました。沙季の「目標も無いようでは不安にもなります」とか、そこでさくらが課題曲(とりあえずの目標、目印)の提案をするところとか、思いついてみればだいぶズバリ言ってるのですが。不覚。
とはいえ、「離れたくなかった」→「離れることで近づくものもある」→「適切な距離の目印」と、テーマとしては1話からドリルで掘るみたいに1話1話深度が上がっていて手応えはあります。前回顔だけ見せていた芽衣と怜、そして遙子の加入も個々人よりはもっと大きなテーマ的な意味を持つ感じになるのかな。全員揃うのが楽しみです。