もう一つの決闘――「SK∞ エスケーエイト」5話レビュー&感想

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
一寸先に魔が覗く「SK∞ エスケーエイト」。5話ではランガと愛抱夢が決闘するが、前半の主体は歴がランガを止めようとする描写だ。言ってみれば愛抱夢と滑る滑らないを決闘しているようなもので、今回はこの暗闘にスポットを当ててみたい。
 
 

SK∞ エスケーエイト 第5話「情熱のダンシングNight!」

 
暦の敗北によって、次はランガが愛抱夢とのビーフをすることになってしまう。ランガの力になりたい暦は“S”界の実力者であるCherry blossomやジョー、MIYA、シャドウも集めて、愛抱夢に勝つための作戦会議を行う──!
 
 
 

1.歴が本当に恐れているのは何か

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
歴とランガのもう一つの戦いについて考えるに当たって、一つ前提を書いておきたい。「理性と感情は一致しない」ということだ。「頭と心は一致しない」と言ってもいい。
 
ツンデレに象徴されるように、人は感情に理性でブレーキをかける生き物である。実也は歴が自分のために頑張ってくれたことが嬉しくてたまらないが素直に言葉にできないし、シャドウは歴の怪我の浅さに安堵しつつも次を考える必要性に言及する。そもそも感情を自覚することすら簡単ではないから、言葉はいつだって100%の感情を表現できない。それはおそらく、歴ですら同じだ。
 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
歴は当初「大怪我をするから」とランガを止めようとするが、理由はそれだけではなかった。歴は後に、旧友が大怪我を追ってスケートをやめてしまった過去の繰り返しを恐れていることを語る。彼はここで、最初は表現できていなかった部分まで感情を表現したと言える。
しかし先に述べたように、言葉はいつだって100%の感情を表現できない。歴が本当に嫌だったのはおそらく、旧友がスケートをやめたことではなくそこで友情が途切れてしまったことにある。ならばランガの「怪我してもスケートやめない」という言葉は歴の悩みを100%解消するものではない。
 
歴がランガが愛抱夢の決闘を止めようとするのは、怪我やそれでスケートをやめることを心配する気持ちからばかりではない。ランガが愛抱夢と滑ることに惹かれて、自分との友情が途切れてしまうことをこそ彼はもっとも恐れている。しかし歴は「お前と離れたくない」という気持ちを自覚しておらず、故に言語化もできていない。
 
 
 

2.交差の後、離れ始めた2人の道

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理性と感情は一致しない。頭と心は一致しない。この不一致が甚だしいのは歴だけではなく、感覚的(非理性的)な性格のランガも同様だ。彼は歴に何度も止められながらも愛抱夢との決闘をやめようとしない。彼と滑りたい思いに火が付いていることを痛烈に自覚していているが、なぜなのかは言葉にできない。
ランガのこの不一致は、歴と似ているようでしかし正反対だ。歴は「お前と離れたくない」という一番の気持ちを自覚できないことがストッパーになっているのに対し、ランガは「愛抱夢と滑ってみたい」気持ちへの自覚がまず最初にある。ゴールが見えているかどうかの違い、と言い換えてもいい。
 
ゴールが見えているレースは明瞭だ。もちろん細かなことで間違える恐れはあるが、とにかくそこに向かって突っ走っていけばいい。だからランガは、どこまでも感覚的に正解を選び取っていく。ペアダンスを踊るような愛抱夢の滑りにむしろ果敢に挑み、事前理解と異なるカーブでのラブ・ハックに対しても飛び越す絶技を即興で披露して見せる。
 
ゴールが見えていないレースは不明瞭だ。歴はランガが自分から離れてしまうことへの恐れを自覚できないゆえに、「怪我を軽く抑える方法」「ラブ・ハックへの対処法」「スケートをやめない約束」といった小さな正解を掴みつつもランガが愛抱夢に惹かれていくことを止められない。ゴールにたどり着けない。
 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
レースは警察の介入で決着がつかず、なぜこんな事態になったかは明かされない。ランガはもう愛抱夢と関わらないと歴に約束しつつも、胸のうずきを忘れられない。今回は誰もゴールにたどり着けていない。レースに限らず、歴とランガのもう一つの決闘を含めた全てが宙ぶらりんのままだ。
 
「悔悟奮発」……かつての過ちを悔いて挽回したいと願う気持ち。人は誰しも過ちを犯すが、取り戻すことができるはずだとチェリーは言う。過ちを犯さぬ人間はいない。どれだけまっすぐで気持ちのいい性格であろうと、例外ではない。果たして、巡回コースから外れているはずの会場に警察を呼び寄せたのは誰なのだろうか。
 
 

感想

というわけでエスケーエイトの5話レビューでした。三角関係は面白いなあ!歴の制止も虚しくランガの体がどんどん愛抱夢に引っ張られていくのが暗喩に満ちていて、恋愛もの的な楽しさがありました。歴が越えなければならないハードル、めっちゃ高いな。今回自分でハードル上げちゃった恐れすらあるし。
次回は閑話休題的なワイワイ回になりそうですが、そこで最後にドーンと落とすのも一つのパターンなのでちょっとドキドキです。
 
 

妄想

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
ここからは検証レベルのぐっと下がる妄想。愛抱夢はランガを「僕と同じ人種」と評しますが、これ彼ちょっと勘違いしてるんじゃないかと思うんです。だって彼、ラブ・ハックを回避したランガの姿に雪を見てるんですから。直後に天使も幻視しているのが彼独特のところですが、そこだけならむしろランガより歴に似ている。歴も前回愛抱夢の仮面をカッコいいと評してるし、同じ人種なのは案外、歴と愛抱夢の方なんじゃないかと。
 
そこで頭をよぎるのが本作のタイトルがエスケー「エイト」、つまり8なところで。公式サイトで紹介されているキャラクターも8人なのですよね。歴達に加えて愛抱夢こと愛之介の秘書、忠も加えて8人。若手と大人で区分した場合、本作は歴・ランガ・実也・シャドウの若手サイド、愛抱夢・チェリー・ジョー・忠のベテランサイドできれいに4人ずつに分かれています。
 
歴⇔愛抱夢
実也(MIYA)⇔チェリー(Cherry blossom
シャドウ⇔ジョー
 
と照応していると考えた場合、残っているのはランガと忠。
もし、忠が過去にランガと同じような滑りぶりを見せる人間だったとしたら?それが「酷い怪我」をしてスケートをやめたのだとしたら?愛抱夢の変貌がそのショックによるものだとしたら? ランガは愛抱夢にとってかつての忠の代替品、ランガにとっては同じ喪失感を抱えた人間ということになり、同じ人種と見紛うほど惹かれ合うことにもとりあえず辻褄は合う。
現状では妄想に過ぎませんが、これからの∞の交差と歴の今後がとっても不安で楽しみになってきました。