ひとときのサマーリゾート――「裏世界ピクニック」7話レビュー&感想

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©宮澤伊織・早川書房/ DS研
はみ出し者のパラダイス「裏世界ピクニック」。波と潮風、空と雲、そして銃。空魚と鳥子が堪能するサマーリゾートはいかにもな浜辺のようでズレていて、しかし彼女達はそれを堪能している。7話は奇跡のような時間とその終わりを示唆する、夏のひとときのお話だ。
 
 

裏世界ピクニック 第7話「果ての浜辺のリゾートナイト」

 
空魚が目を覚ますと、そこは沖縄のホテルの一室だった。<裏世界>での危機的状況からかろうじて生還した空魚と鳥子は、恒例の打ち上げを行い、高揚した気分のまま、ここに辿り着いていた。空魚が、まだ寝ぼけている鳥子に帰京の準備を促すと、意外なことを言われる。なんとこれから「海に行く」というのだ。昨日の夜約束して、二人で水着も買ったという。呆然とする空魚だが……?
 

1.裏世界の裏サマーリゾート

前回空魚達は、怪異を退治したにも関わらず自らも怪異の仲間とされ追われるように米軍から逃げ出した。5話で暗示されたように「(怪異と)区切りをつけたはずがつかなくなった」わけであり、そのありようはビーチリゾート行のはずが裏世界に行ってしまう今回も変わらない。酒気ではなく眠気の中で世界の境界を越えてしまうほど、危険物の検査をくぐり抜けるためには飛行機に乗るより裏世界を経由した方が安全なほど、彼女達の存在は"裏"に近づき"表"から離れている。ただそれは、彼女達が楽しさ嬉しさといった明るいものから離れていることまでは意味しない。
 

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©宮澤伊織・早川書房/ DS研
やってきてしまった裏世界のビーチで、空魚と鳥子は夏休みでではなく大学をサボって海で酒を飲み、バーベキューやビーチバレーではなく銃を試し撃つ。波打ち際で水を掛け合ったりするような常道からは外れているが、彼女達が楽しさを共有していることは変わらない。ズレているもの同士が不思議に噛み合ったそこに「完璧なサマーリゾート」は確かにある。
 
ただ、リゾートにいられる時間は永遠には続かないものだ。
 
 

2.終わりの予感

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©宮澤伊織・早川書房/ DS研
リゾートにいられる時間は永遠には続かない。連続する全ては目まぐるしく入れ替わるものだから、全てが噛み合ったままではいられない。
海の家の廃墟のクリアリングは確かに安全を確認できたが、更衣室に向いた建物は他にあった。
銃火器の扱いや危険の対処には鳥子の方が慣れているが、人の形をした怪異に対応したのは空魚の方だった。
2人でいても裏世界と噛み合える時間と相手は限られていて、空魚と鳥子は今回も怪異を打ち倒したりはできない。小桜に売るつもりだった八尺様の帽子を解いて逃げ出すのがやっとだ。そしてそれすら、命と引換えに空魚の資金難との噛み合いを失わせてしまう。
 
ゲートが閉じる直前、空魚は宙に浮く人影を見た。閏間冴月――鳥子にとって特別な存在。全てをなげうたせる存在。彼女が姿を現したその時、空魚と鳥子は今のままでいられなくなるだろう。友達としてパートナーとして2人が幸せに噛み合ったこの時間は、サマーリゾートは終わりを迎えてしまう。
その喪失の先に、空魚と鳥子はどんな関係を築き直すのだろうか。
 
 

感想

というわけで裏ピクの7話レビューでした。5話の「区切りをつけようとすればするほどつかなくなる」が6話にどう関係したかを拾い直して、6話の"連続"と組み合わせて見立ててみた感じです。まだまだ修正が必要そうな感じもしますが……
今回のネットロアは「須磨海岸にて」だそうですが、調べてみると子供が戻ってきた時からではなくその前の半グレのセリフや海の家の様子からして怪談からの引用と分かりゾッとしました。知らん内に怪談に踏み込んでたという、熟睡したベッドの下に殺人鬼が潜んでたのを後日知ったような感覚は実に怖い。
 
漫画CM見てるとまたきさらぎ駅に行きそうで、登場人物紹介では最後の1人が未だ11話の一瞬しか出ておらず、もちろん今回示唆された冴月との関係もあり。後半戦、どんなお話になっていくんでしょうね。