己の光と影――「ワンダーエッグ・プライオリティ」6話レビュー&感想

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次のステージへ戦いの移る「ワンダーエッグ・プライオリティ」。6話でアイは強力なミテミヌフリ、「アンチ」に襲われる。アンチとは反動・反発だ。そしてそのアンチ的性質は、けしてこの怪物だけのものではない。
 
 

ワンダーエッグ・プライオリティ 第6話「パンチドランク・デー」

 
戦いに慣れつつある4人の前で、ミテミヌフリの一部が突然「アンチ」へと姿を変える。
アンチが狙いを定めたのはエッグの中の少女ではなく、アイたちだった。
新たな敵の出現に苦戦する4人に、アカと裏アカはとある「お助けアイテム」を渡す。
エッグの世界での戦いが徐々に変化する中、現実世界ではアイの母・多恵が持ち掛けたある提案が、アイの心を大きく揺り動かす。

 

 
 
 
 

1.アイがアンチに対抗できない理由

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今回の護衛対象である吉田ヤエは、人に見えないものが見える苦しみを訴え受け入れられず死を選んだ少女だ。エッグという不思議があるからと言って幽霊という不思議もあるとは限らないが、ここでは彼女の見たものの実在/非実在は問題ではない。
重要なのは彼女が「見えることを信じてもらえず病院に入れられた結果、いっそう酷いものを見るようになった」ことだ。周囲の人間は彼女の「見える」を抑えつけようとしたが、それはむしろ「見える」を強める結果になった。反動――つまり"アンチ"的なものによってこそ、ヤエは絶望したのだ。
そんなヤエにとって、ひとときの付き合いであっても怪我を心配するアイの優しさはゼロではないものの十分な癒やしとはならない。絶望から救えない。だから今回の戦いは当初、現状維持での終了を良しとするほかない。そこには、ワンダーキラーを倒すための武器が足りないのである。
 
 

2.アンチと戦うために必要なのは

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アンチ対策としてアカ達がアイに与えたのは、不思議なポマンダーであった。裏アカが「いわゆるお助けアイテム」と言うようにその存在はいかにもヒーロー的だ。アンチはアイ達を勝手にヒーロー視して敵意を向けたが、皮肉にも彼らの登場はアイ達をいっそうヒーロー的にしている。ポマンダーの中のお助けキャラがアンチが大好物という特性を持っていたことからも言えるように、"アンチ"的なものは自分達に対する"アンチ"的なものをも生み出す。
だが、お助けキャラが食べるのはあくまで強化ミテミヌフリとしてのアンチに過ぎない。アイがヤエを救うには、別の"アンチ"的なものが必要となる。
 
 

3.自分の中のアンチ

枕営業も知らない純朴なアイはしかし、今回は素直ではない。担任の沢木との交際を打ち明ける母への答えが「好きにすればいい」という言い回しだったのは象徴的だろう。嫌なのに嫌と言わない。そして、嫌と言わない分だけそこには強い反発が――つまり"アンチ"的なものがある。しかし自分の中に渦巻くそれが何なのか、アイははっきり言葉にできない。自分でも分かっていない。
 

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自分も先生が好きなのではないかというねいるの指摘に、アイは激しく動揺する。「違うから、それこそありえないから!」と強く否定するのは、その指摘に対する抑圧である。それはつまり、見えないものが見えるというヤエに対して周囲の人間が行ったのと同じ行為だ。
しかしヤエが病院でいっそう酷いものを見たように、抑圧には必ず反発が発生する。"アンチ"的なものが発生する。否定すればするほど、その考えは自分の中で強さを増してくる。
 

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「違うって言ってるのに!」と叫ぶアイはしかし、ほとんど泣きそうになっている。自分の中で膨れ上がったそれを、否定できずにいる。
 
ヤエは「否定されるほど強くなるもの」――自分に向けられた抑圧に対する"アンチ"的なものによって絶望した。
アイは「否定するほど強くなるもの」――自分が抑圧したものに対する"アンチ"的なものの存在を認めざるを得なかった。
 
アイは擬似的にかつてヤエを抑圧した人達と同じ立場になり、そして彼らと違い"アンチ"的なものを受け入れることができた。だから彼女はヤエの受けた過去の傷を癒やすことができたのだ。それは何より、今回のワンダーキラーを倒すために必要な武器であった。
 
 

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かくて現実に帰還したアイは、風呂上がりの体も拭かず雨の中を走り、沢木へ登校の再開を告げる。そこにどんな意図があるのか、今はまだ語られない。しかしそれを笑顔で口にするアイは、かつて隠していたオッドアイの片目をあらわにしている。
その対照的な両の瞳はきっと、彼女の光と影だ。自分の中の"アンチ"的なものをアイが認知した、その証なのだ。
 
 

感想

というわけでワンエグの6話レビューでした。ラストに???となって頭を抱えていたのですが、"アンチ"を起点にヤエ関連を中心として書いてみました。前回の「反抗期」とも絡んでいるところなのだと思います。レオン君と名付けるあたりのところも交えて解釈できるともっといいのだけどなあ。
 
しかしなんとまあ予想外の展開、全然落ち着かせてくれない。登校再開ともなればまた登場人物も増えてきそうですが、学校ではいったい何が待っているのでしょうね。