頂点へ歩みの続く「IDOLY PRIDE(アイドリープライド)」。天動瑠依の回想から始まる10話の主役は実質、彼女達TRINITYAiLEにある。サニーピースとのライブバトルから瑠依が得たのは、果たして何だろうか?
IDOLY PRIDE 第10話「自分だけじゃ辿り着けない場所」
サニーピースはセミファイナルで、無敗のアイドルグループ・TRINITYAiLEとの対戦が決まる。記者会見の控え室で出会ったTRINITYAiLEのセンター・天動瑠依の前でさくらは、今後は麻奈の歌は歌わずサニーピースだけの歌で頂点を目指すと宣言する。かたや事務所の社長で父でもある朝倉が認める最高のアイドル・長瀬麻奈を超えるため、全力でアイドルの頂点に立とうとする瑠依。情熱を燃やす2グループによるライブバトルの行方は……?
(公式サイトあらすじより)
1.天動瑠依とは「塗り替えるアイドル」である
瑠依「長瀬麻奈は過去のアイドルです。この大会で優勝して、わたし達が証明してみせます。彼女の無敗記録も超えて」
天動瑠依を語る上で欠かせないのは、LizNoirもそうであるように長瀬麻奈を強く意識している点だろう。ただ瑠依のそれは、麻奈に近づきたいといった類のものではない。そんな意識であれば、かつての琴乃同様に麻奈の劣化コピーにしかなれなかったはずである。
瑠依にとって麻奈は追いつくと言うより超えるべき存在であり、超えるべきというより"塗り替えるべき"目標だ。瑠依の父・バンプロダクション社長の朝倉は妻子よりも仕事(アイドルプロデュース)を選んだ。つまり妻子をアイドルが塗り替えてしまったようなもので、そんな彼がもっとも認める長瀬麻奈は仕事の象徴と言ってもいい。だから麻奈を――麻奈の残した記録を"塗り替える"ことに瑠依はこだわっている。
もともとアイドルが好きだった瑠依はそこに暗い感情を持ち込んではいないが、彼女が目指すトップアイドル像が少し独特なのは確かだろう。それは彼女がバンプロダクションを受けた時の言葉からも伺える。
瑠依「人々に夢を与え、まぶしく輝き、常に目が離せない。そんな絶対的アイドルに、私はなります」
「絶対的アイドル」……トップアイドルとは確かにそのようなものかもしれない。だが、それは"塗り替える"ことでなれる存在なのだろうか?
2.積み重ねる塗り替えの意味
セミファイナル直前、瑠依はメンバーの優とすみれにこう呼びかける。
瑠依「わたし達は始めた時から頂点を目指してきた。勝ち続けなければ、飛び続けなければ何も得られない」
勝ち続けなければ、飛び続けなければ。TRINITYAiLEの日々とはすなわち"塗り替える"日々の連続であった。 相手を上回る、つまり相手を"塗り替える"パフォーマンスを見せた結果麻奈と並ぶ無敗記録があり、さくら達サニーピースに勝てばその麻奈の記録すら"塗り替え"られる。
雫の指摘した「絶対に負けないって強い思い」とは「絶対に塗り替えるって強い思い」であり、TRINITYAiLEはそれによってこれまでの自分達を"塗り替える"最高のパフォーマンスを披露してみせた。このセミファイナルはまさに、瑠依達のこれまでの集大成だったのだ。
だが、この"塗り替え"には一つ問題点がある。
3."塗り替え"の限界
長瀬麻奈がトップアイドルであったことを疑うものはいないだろう。そんな彼女の記録を"塗り替え"れば自分達がトップアイドルになれると瑠依は考えていたが、これはかつて彼女が口にした言葉と矛盾する。
瑠依「人々に夢を与え、まぶしく輝き、常に目が離せない。そんな絶対的アイドルに、私はなります。」
記録が塗り替えられれば目が離れてしまうような存在は「絶対的」アイドルではない。つまりトップアイドルではない。"塗り替え"てその座を奪おうとする行為は、それ自体がトップアイドルの定義をおかしくしてしまう。だからTRINITYAiLEはサニーピースに勝てない。矛盾ゆえに"塗り替え"そのものすら破綻してしまう。
「絶対的」アイドルに、トップアイドルに必要なのは、むしろ塗り替え"られない"力にこそある。例えば歌声の変化に、例えば相手の強さに左右されない、けして色褪せない輝き。塗り替えられない力とははすなわち他者を反射する月ではなく、自ら光る太陽の輝きなのだ。実績では格上のTRINITYAiLEにサニーピースが勝利できたのは、その輝きの確かさの証明だと言える。
4.内なる太陽は敗者にも
サニーピースの自ら発する輝きの前に、"塗り替える"ことに固執したTRINITYAiLEは敗北した。しかし自ら発する輝きとは、勝者だけが持つものとは限らない。
朝倉「記録はいつか破られるものだ」朝倉「アイドルに必要なのは物語だ。それは、輝かしいステージの上でしか語ることはできない」瑠依「……」朝倉「いいステージだった」
これまで瑠依達を労いもしなかった朝倉はしかし、彼女達が敗れた今日のステージをこそ「いいステージだった」と認めた。記録ではなく物語を語るにふさわしい、輝かしいステージだったと認めた。それは今日の瑠依達に、勝敗に塗り替え"られない"力があったという称賛だ。彼女が目指した絶対的アイドルは、そこにこそあった。
この日は瑠依の心の中にずっと残ることだろう。これからどんな苦難があろうと、どんな挫折があろうと、輝き続けるだろう。
ずっと欲しかったもの、あらゆるものに"塗り替えられない"輝きを、瑠依は手にすることができたのだ。
感想
というわけでアイプラの10話レビューでした。1話で「ぐっ」と心に残る素敵な回だったと思います。憑き物落としというか、アニメでは出番の短いライバルにも舞台裏のドラマがあるのを感じさせてくれました。負けてなお主役。
さて、順番からすると次回は月のテンペストとLizNoirの対決となりますが、こうなると莉央達の心の動きもいっそう気になりますね。因縁を積み重ねている対決の行方が楽しみです。