太陽に月を見る――「IDOLY PRIDE(アイドリープライド)」11話レビュー&感想

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
頂上と共に終わり近づく「IDOLY PRIDE(アイドリープライド)」。さくらに続き決勝進出を目指す琴乃が主役となる11話では"月"が大きな意味を持つ。自ら太陽となる道を歩み始めた彼女の月とはどんなものなのか。それが今回の鍵だ。
 
 
 

IDOLY PRIDE 第11話「命の音燃やして」

 
麻奈の歌声に頼らず、自分の歌声で歌い始めたさくら。その影響か、麻奈の身体が徐々に消え始める。残り時間が少ないと悟った麻奈は琴乃と話すことを決意。だが姉への複雑な思いを抱えた琴乃は、麻奈と会うことを躊躇してしまう。それでも麻奈と話すべきだとさくらに諭された琴乃は、セミファイナルの相手で、自分と同じように麻奈の影を追い続けてきたLizNoirの莉央のもとを尋ね、「長瀬麻奈はどんなアイドルだったか?」と問いかける。
 

1.月の限界

本作にとって「太陽と月」は重要なモチーフだ。牧野が例えたのに始まり、さくらのグループは「サニーピース」、琴乃のグループは「月のテンペスト」と、二人は明示的にそれを背負っている。だが本作は同時に、二人がそれを背負うに相応しいのか問いかけてもきた。太陽のようなさくらは麻奈の心臓が移植され"月"の性質を帯びていたし、麻奈の月を目指して果たせぬ琴乃が進んだのは自らが"太陽"になる道だった。
 

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション

芽衣「す、すぐに会えるのに遅すぎるんじゃないかってこと」

 
これらの話では、どちらかと言えば月は否定的に語られている。月は自ら輝くのではなく、太陽の光を反射する存在に過ぎないからだ。それはこの11話でも同様で、琴乃に会おうとする麻奈の言葉を代弁しようとする――"月"として振る舞う牧野と芽衣の言葉は、麻奈の抱える時間的制約を琴乃に伝えられない。
しかし、月とはそんな不自由なものだろうか。固有でない輝きは、逆に言えば遍在の可能性を秘めている。
 
 

2.いくつもの太陽

牧野と芽衣は麻奈の幽霊が見え声も聞けるがゆえに、その言動は麻奈を反射するだけの"月"になってしまう。琴乃の心を変えたのは麻奈の幽霊を見られないさくらや、そもそも存在を知らない莉央の言葉――つまり麻奈の思いを反射するのでなく、自らの内から生まれた"太陽"からの言葉だった。
 

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
さくら「それでも、麻奈さんから会いたいって言ってくれたんでしょ?何か理由があるんじゃないかな」
 

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莉央「でも半分は嘘。わたしはたぶん誰よりも、長瀬麻奈にこだわってる」
 
先に述べたように二人は麻奈の幽霊を見られない。莉央に至っては存在も知らない。しかしさくらの言葉は麻奈の状況を正確に察していたし、莉央の麻奈への思いは琴乃ととてもよく似ていた。つまり反射とは違う輝きの中にも"月"の性質があったのだ。
 
 

3.太陽の先に月がある

琴乃が麻奈の代わりになろうとしてなれなかったように、牧野と芽衣では琴乃の心を変えられなかったように、誰かの真似、誰かの光の反射でしかない"月"は太陽にかき消される存在でしかない。だが牧野はかつて、月と太陽は別の場所の方が輝くと言った。ならば、太陽と並べて優劣を語るのは間違いだろう。太陽とは別の場所から、別の見方をした時にこそ月は輝くのだ。
 

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
麻奈「それでいいんだよ」
 
麻奈の幽霊と話をすると決めた琴乃はしかし、牧野と芽衣を介さない。二人を介して麻奈の言葉を正確に聞いた瞬間、それは琴乃にとって"月"になってしまう。だから琴乃は会うと決めても麻奈が見えないまま、麻奈の方も向かぬままだ。
けれどそれは誰も見ていないのではない。「自分で決着つけなきゃいけない」と言ったように、琴乃はまず自分を――自分の中の"太陽"を見て話した。そして、そうやって琴乃が出した答えこそは麻奈の願いと重なっていた。麻奈の願いの"月"になっていた。
 

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
葵「莉央と同じだね」
 
準決勝で競うも敗れた莉央は、麻奈を追わない琴乃にこそかつての麻奈と同じ輝きを見る。そしてそんな琴乃から明かされた麻奈の実像は、ライバルと意識すればこそ莉央にそっけない態度を取ったありようは、莉央自身とこそよく似たものだった。
 
人は誰かの光を反射するままでは輝けない。太陽にはなれない。けれど一方で、太陽になった人の輝きは不思議と似通うものだ。人気の出たアイドルはみなハラハラする子だったと麻奈が言ったように。麻奈がデビューした時のあの感激を求めればこそ、牧野が今も星見プロで働いているように。
 
月の光とは反射ではなく、ひとつひとつの輝きの相似から生まれるものなのだ。
 
 

感想

というわけでアイプラの11話レビューでした。ここ数話は太陽がクローズアップされる輝かしい話である一方、なら月の立場はどうなるのか……という疑問があったのですが、今回で氷解しました。シンエヴァ裏ピクのレビューで書いたこととも比較して見られる部分もあるかな。1話からここまで、琴乃の表情から硬さが抜けてゆくのが素敵でした。あと芽衣も普段と違う表情でナイスアシストしてた。優しい娘だ。
 
構図(太陽と月)や進行(星見プロ同士の決勝)は、ここまではある意味で既定路線。決勝の行方と、そこから何が見えてくるのか。次回の最終回は本当に大詰めです。楽しみ。
 
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