強さと弱さの先の再会――「のんのんびより のんすとっぷ」11話レビュー&感想

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
今回は少し視点を変えて描かれる「のんのんびより のんすとっぷ」。11話、しおりを気遣って遊びに行くれんげを、楓は優しく見守る。手のかかる時期はやがて終わり、幼子は成長して離れていく。しかしそれは、永の別れを意味するものだろうか?
 
 

のんのんびより のんすとっぷ 第11話「酔っぱらって思い出した」

加賀山楓が駄菓子屋の店番をしていると、宮内れんげが店の前を通り過ぎて行きました。
れんげはどうやら、しおりのところに遊びに行くようです。合流したれんげは、元気に走り回るしおりに「ちゃんと周りを見て気を付けて歩くよう」に伝えます。
しかし突然、しおりは何かに気付いて駆け出しました。それはカマキリの卵。
しおりは、今度産まれる妹へのプレゼントにできないかとれんげに聞くのですが…。

 (公式サイトあらすじより)

 
 
 

1.前半が見せるのはれんげの成長、強くなること

11話はれんげを主役とした前半と、彼女の世話を焼いてきた楓が主役の後半に分かれている。アバンで示されたように、前半で描かれるのはれんげの成長だ。
 

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
れんげ「うちがしおりちゃんのこと、気をつけてあげるん」
 
年下のしおりを友達に得て、れんげの世界はこれまでとは違う広がりを見せている。転ばないよう走るのを止めたり、カマキリの卵を家へのプレゼントにするのを止めたり。そういう「お姉さん」としての成長はしおりといる時だけに留まらず、小鞠達に囲まれ最年少の状況でもれんげは自分がしおりに何がしてあげられるか考えるようになっている。れんげの成長は、強くなることは、優しさによって表現されていると言える。
 
 

2.後半が見せるのは楓の弱さ

前半のれんげの成長は強さで描かれる一方、後半の楓は強くなったりはしない。大人でありれんげの世話をする彼女はもともと十分に強く、優しい。今回彼女が見せるのはむしろ、酔いが引き出す弱さの方だ。
 

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
楓「そこまで飲んだ気はしなかったんだがなあ」
 
座っているのも辛いほどの酔いに、楓は戸惑う。酒は気分を強くするものだから、単純な酒量以上に彼女に酔う理由があると考えた方が妥当だ。後の話からすれば、それは寂しさ――れんげがあやすような弱い相手ではなくなった寂しさだろう。
 
 

3.酔っ払い≒赤ん坊

 度を越して酔っ払った人間は、自分では水を注ぐのも歩くのもままならなくなる。酔っ払いは手のかかる弱い存在と言えるが、これとよく似た存在を私達は知っているし本作の劇中にも登場している。そう、赤ん坊だ。
 

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期

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楓「なんでだよ!それNGだったはずだろ!?」
 
赤ん坊は酔っぱらい同様理屈通りに動かないし、自分の行動が何をもたらすか考えるブレーキを知らない。手のかかる、とても弱い存在だ。人間の肉体は赤ん坊に戻ったりはしないが、酔いの中では赤ん坊のように弱くなれる。*1
 

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
れんげは成長して強くなり、楓は酒で弱くなる。アバンで描かれたように二人の距離は離れていって、れんげは楓の視界から遠くなっていく。だがだからと言って、二人がもう会えないわけではない。楓の回想で描かれるように、成長とは強くなることとは限らない。
 
 

4.強くなるばかりが成長ではない

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
前半後半と書いたが、楓が思い出す幼きれんげとのやりとりはけして短くない。3パートを内包した2パート構成と言ってもいい。そして赤ん坊のれんげの世話をする楓は、それを通して強くなったりなどしていない。あるのはむしろ、彼女の強面が解けていく過程だ。
 

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
このみ「楓ちゃんちょっと無愛想なとこあるから、怖がられちゃったんじゃない」
 
一穂いわく一匹狼のようなところのあった楓は、れんげの前でそれ以外の顔や感情を覚えていく。れんげが自分の考えている通りには動いてくれないもどかしさ、悔しさ、それでも彼女が気になって仕方ない自分の思い。それは一匹狼のままでは――強くあろうとするだけでは獲得できなかった感情だ。自分の中のそうした感情、つまり強さではなく弱さの発見こそは回想における楓の成長だった。
 
人は酒を飲めば弱くなる。だが酒を飲めるのは成長した大人だけだ。成長の理由もその産物も、強さだけではない。
 
 

5.強さと弱さの先の再会

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一穂「れんちょん来たからって、そんなに無理せんでも」
楓「何言ってるんスか。こんなところ子供に見せたら教育に悪いじゃないですか」

 

 
楓は泥酔しながらもれんげが来る度しらふのフリを貫こうとする。一穂のぐうたらぶりにもいい顔をしない。それは彼女が「強く」あろうとしている証明だ。しかし回想がそうであったように、強くあろうとするだけの成長には限界がある。それは才能の限界ではなく、強さが一方向にしか向けないゆえの限界だ。二人の人間が同じ方向に向けて走り続ければ、いつかは速度差でそこには距離が生まれてしまう。子供の「強くなる」成長の速度は圧倒的で、大人はいつかそれに置いていかれてしまう。
 
けれど二人が進む方向が逆であれば、そして歩くのが平面ではなく球の上だと考えてみればどうだろう。「強くなる」成長と「弱くなる」成長は正反対の方向へ進みながら、やがてはまた顔を突き合わせる時が来る。遠く遠く離れた先で、二人は再会できる。
 

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
泥酔して寝入った楓の元を訪れたれんげは、昔のようにその無軌道さで彼女に甘えたりしない。ずれ落ちた布団を優しくかけて、その眠りを見守る。かつて自分が、楓の腕の中で寝入ったように。
懐かしきあの日はもう二度とはやってこない。れんげはどんどん強くなっていって、楓の強さでしてあげられることはなくなっていく。けれど今度は、楓の弱さを強くなったれんげが補ってくれる。それは懐かしきあの日と違う、しかし遠くから見れば変わらないものだ。戻ってこられるなら、それは永の別れではないのだ。
 
 

感想

というわけでのんのんびより3期11話レビューでした。今期ED「ただいま」の一節、「戻ってこれるなら 変わっていけるから」を思い出すようなお話でした。そりゃ泣くわ、駄菓子屋。そしてこの状況でも具体的な言及にならない夏海……駄菓子屋からは仕方ないか。
酒の効用について考えさせてもくれ、いつもと違う視点を味わわせてもらいました。次回はいよいよ最終回、名残惜しいです。さて、ビール1本飲もうかしらん。
 
 
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*1:もちろんこれは、酔っぱらいのやらかしを免責する理由にはならない。酔いから醒めれば人はもう酔っ払いではない