太陽と月の巫女達――「IDOLY PRIDE(アイドリープライド)」12話レビュー&感想

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション
太陽と月、光と影を描き続けた「IDOLY PRIDE(アイドリープライド)」。決勝の日、デビューライブの会場から帰ろうとする琴乃達はやってきたさくら達と顔を合わせる。太陽と月の出会う場所、二つの均衡。最終回12話が見せるのは、その稀有な頂だ。
 
 

IDOLY PRIDE 第12話(最終回)「サヨナラから始まる物語」

 
NEXT VENUSグランプリのファイナルに進出した月のテンペストとサニーピース。対戦当日の夜明け前、デビューライブのステージ前に集まった10人はお互いに全力で戦うことを誓い合う。会場には大勢のファンはもちろん、よいライバル関係を築くことができたLizNoirやTRINITYAiLEも駆けつける。そしてステージの幕が開いた。全身全霊のパフォーマンスを披露する10人。笑顔の少女たちを、麻奈は温かい眼差しで見守っていた。
 
 

1.同点優勝の意味

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© 2019 Project IDOLY PRIDE/星見プロダクション

司会者「たった今結果が出ました。天文学的確率で起こる同点!それがファイナルで発生した場合は……両グループ、同点優勝!」

 
サニーピースと月のテンペストの対決、NEXT VENUSグランプリ決勝の結果は同点優勝であった。予想外と言えば予想外、陳腐と言えば陳腐。しかしこれはけして「どちらも負けさせたくない」程度の理由で生まれた生っちょろい結末ではない。
 
本作の世界では、ライブバトルの勝敗はAIの判定によって決められる。ライブの集客数やパフォーマンス、オーディエンスの反応などをリアルタイムで計算した、単なる投票よりも遥かに厳密な判定。それだけ複雑な計算から弾き出されるからこそ天文学的確率でしか同点は起きない。事実、LizNoirやTRINITYAiLEとの対決でもこの現象は起きなかった。しかしこの決勝で、麻奈が果たせなかったステージでそれは起きた。太陽と月が全く等しい輝きを放ったからこそ、この必然的な偶然が生まれた。
 
重要なのはさくらと琴乃の勝敗以上に、太陽と月の均衡の発生そのものにこそある。"天文"学的確率でしか生まれないその瞬間は、つまり奇跡の瞬間――本来交わるはずのない光と影(1話の牧野のモノローグより)が交わる瞬間なのである。
 
 

2.奇跡の瞬間がもたらす、光と影の交わり

1話で牧野が評したように、麻奈は光であり牧野は影。けして交わるはずのない立場に二人はいた。それは麻奈の好意が明らかにされた前回や今回でも同様で、彼女が牧野を好きになった理由は傍目には平凡そのもので説得力に乏しい。牧野自身も鈍感で、琴乃から話を聞いてもそれが自分だとは考えもしない――交わらない。
アイドルとマネージャーの立場、幽霊と生者の違い。二人はどれだけ隣り合っても、その一線を踏み越えることは許されなかったのだ。
 
牧野をマネージャーに誘った時、麻奈は言った。
 

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麻奈「後悔させないから。絶対、後悔させない。大変なこともたくさんあるかもしれない」
麻奈「けど、マネージャーやって良かったって、あの時OKして良かったって、そう思えるようにするから。命に代えても!」

  

そして麻奈は今回、どうして自分を選んだのか牧野に問われこう答える。
 

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麻奈「どうして?んー、そうだなあ。とりあえず純粋で、一生懸命で、真面目で、そりゃあ色々腹立つこともいっぱいあったけど」
麻奈「けど、良かった。牧野君を好きになって」

  

並べてみれば分かるように、この二つの言葉は一対だ。光と影だ。本来交わらないそれらは、太陽と月が均衡する今この時だけ奇跡を許される。アイドルのステージを抜け出す暴挙を分かっていながら、最後だからと牧野が麻奈に会いに行ったように。マネージャーだからとずっと自制してきた麻奈への思いを、初めて口にするように。
 

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麻奈「あーあ。キスくらいできればね」
 
姿を消す前に一度だけ、麻奈は牧野にキスをする。いや、触れ合えぬ幽霊と生者の間に本来キスは成立しない。しかし成立しないからこそ、麻奈は牧野に口づけを許される。消え去る前の最後の一瞬でしかないからこそ、その行為に出られる。ずっとずっと二人が願い、しかしけしてできるはずのなかったキス。
立場、性格、運命、生死とありとあらゆる理由で光と影に分けられ交わらぬはずだった二人が、その全ての交わらなさを反転させて一瞬だけ許された交わり。それが、太陽と月の均衡がもたらした奇跡の瞬間であった。
 

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かくて麻奈の幽霊は成仏し、奇跡の瞬間は終わる。しかしその瞬間はけして、もう二度と訪れないわけではない。月が沈めば太陽が昇り、太陽が沈めば月が昇る。さくらと琴乃達が、太陽と月が輝く限り、終わりは新たな始まりにできる。その道程は、これからこそが本番なのだ。
 
 

感想

というわけでアイプラの最終回12話レビューでした。なんというかこう、このアニメのアイドルはアイドルであると同時に「巫女」だったのじゃないかな、と思います(お前が刀使ノ巫女のファンだからだろというツッコミは謹んで受ける)。幽霊として存在するだけでなく作品世界に、牧野やファン、三枝や朝倉にもあまりにも大きく残る長瀬麻奈の重力を祓ってあげるお話だったのかな、と。そう見ると太陽と月の均衡は儀式みたいなものか。
均衡を重んじるゆえに作品に狂気が足りないのでは?という印象も正直あったのですが、最終回で見た図式のダイナミズムで全部吹っ飛びました。
 

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個人的に一番かわいいと思ったのは芽衣でしょうか。いつもニコニコしてるけど、能力的にも性格的にも他人から色々言われる悩みを抱えてるんじゃないかと思うんですよね。それでも麻奈を心配する優しさを失わないところがかわいらしくて。
スタッフの皆様、良い作品をありがとうございました。
 
 
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