繋がる強さ――「ワンダーエッグ・プライオリティ」12話レビュー&感想

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悲劇の結末を避け、ひとまず次へと繋いだ「ワンダーエッグ・プライオリティ」。秘密の物語を共有してきたアイ達の道はしかし、フリルの脅威を前に分かれていく。今回はアイの護衛対象を通して、自他を問い直していくお話だ。
 
 

ワンダーエッグ・プライオリティ 第12話(最終回)「負けざる戦士」

 
パニックと万年に起こった悲劇を聞いたアイは、エッグの世界でのアンチとの戦いでも、レオンを出さずに応戦しようとしていた。
エッグを割ることもままならず劣勢に立つアイ。
その様子をモニターしていたアカは、アイに代わってレオンを喚び出し、ミッションの遂行が最優先だと指示する。
葛藤しながらもエッグを割るアイだが、エッグから現れた者、そしてワンダーキラーは……。

 

 
 

1.もう1人の自分とは

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アイが今回割ったエッグの中から現れた護衛対象は「大戸アイ」――自殺という分岐によって生まれた、パラレルワールドの自分であった。このもう1人のアイはアイにとって自分か?他人か?は難しい問いだ。自殺の理由が分かる程度には間違いなく自分だし、小糸を知らない点で間違いなく自分ではない。言うなれば「自分に最も近い他人」であり「他人に最も近い自分」でもある。しかしこれは極端な表現に過ぎず、人は大なり小なり他者と異なりも一致もしているものだ。リカがマンネンの死を自分自身の痛みとして感じているように。パニックの死を話せば他の皆はかばって死んでしまうと桃恵が考えたように。自分達だけの秘密の物語を共有する4人の進む道が、それでも今や分かれてしまっているように。アイがもう1人の自分と会ったのは、他人との境界線が怪しくなっている今だからこその必然だったのだろう。
 
 

2.信じた分だけ

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自分と他人の境界線の取り扱いはいつも難しい。人は時に自分の想像を他人に押し付けるし、他人の言葉を素直に信じられない。今回のワンダーキラー・沢木先生がアイの疑念なのはすなわち、アイの中の妄想や不信――相手が自分でないが故のままならなさの象徴だ。
 
護衛対象もワンダーキラーも自他の難しさに由来するなら、解決もまた自他の取り扱いによってもたらされる。それはけして、自分と他人を(あるいは主観と客観を)ただ明確に区別することではない。桃恵の「後悔してる」と小糸やもう1人のアイへの「後悔してるよね」や、大人の愛の汚さを指摘した後の母の「どういうアイだって応援するから」など、意図としてはかけ離れた二つのものに不思議な繋がりが見えて人が救われる時もある。自分が信じるなら、そこに繋がりは新しく生まれる。
他人は自分ではないから、自分の想像や思いを押し付けてもその通りになってはくれない。けれど想像や思いを"信じる"なら、例え客観的事実と異なっていたと知ってもそれは自分の中で価値を持ち続ける。どういう存在であれ、小糸によって自分が救われたのは確かであるように。自分へ愛を向けてくれたと信じた分だけ、母の幸せも願えるように。
 

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誰かを信じれば誰かを信じる自分を信じる行為に、自分を信じれば自分を信じてくれる誰かを信じる行為に繋がる。その信じるループの強さあればこそ、もう1人のアイはアイを庇って片目を差し出した。フリルに届く強さはきっと、そういう強さの先にあるのだ。
 
 

感想

というわけでワンエグの12話レビューでした。年度末の忙しさもありますが、今回もなかなかくっきりとお話の形が掴めず遅くなってしまいました。すみません。1話1話の積み上げから「全体としてどんなテーマの作品と言えるのか」自分の中ではっきり彫り出せていないのがこう悩む原因なんだろうなと思うのですが。3ヶ月後の特別編でそのあたりスッキリさせられるといいなあ。スタッフの皆様、ひとまずお疲れさまでした。
 
 
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