大同から取り出す小異――「のんのんびより のんすとっぷ」12話レビュー&感想

f:id:yhaniwa:20210402235947j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
再び春を迎える「のんのんびより のんすとっぷ」。本作はゆっくりとしかし確かに時を進め、1年を描いてきた。最終回は、その歩みの不思議に迫るようなお話だ。
 
 

のんのんびより のんすとっぷ 第12話「また桜が咲いた」

 
朝、宮内れんげが窓の外を眺めていると、姉の一穂が「そんなとこでぼーっとしてどうしたの?」と声をかけます。れんげの視線の先では、庭の梅の花が咲いていました。
季節はもうすぐ春、今日は越谷卓の卒業式です。在校生や保護者も見守る中、一穂から卒業証書を受け取った卓。式の終わりに、在校生の皆で歌を贈ることになったのですが…。
旭丘分校にまた新しい季節がやってきます。
 

1.些細な違いを見落とさぬ目線

f:id:yhaniwa:20210403000008j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
12話冒頭、れんげは今日は卓の卒業式だよと一穂に準備を促される。いつもと同じ春の日の今日はしかし特別な日で、れんげはそういう些細だが大きな違いをたくさん目にしていく。一穂は普段よりきっちりした服を着ているし、飾りのつけられた教室はいつもの教室ではないよう。怒ると怖い雪子も今日は涙を拭い、卓と一緒に登校する日はもう来ない。
 
一方で、れんげがいくつもの違いに気付けるのはそこに変わらないものもあるからだ。正装なら一穂がミスする危険が無いわけではないし、飾り付けしてもそこはやはりいつもの教室。自分の卒業式でも卓がピアノの演奏役なのは変わらないし、進学しても卓は引っ越すわけではない。
 

f:id:yhaniwa:20210403000022j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
れんげ「でも、ちゃんとお礼言っとくん。どうもお世話になりましたん」
 
変わらないものがあっても、いや、あるからこそ些細な違いを大切にしたい。卒業する卓にこれまでの感謝を伝えるれんげからは、そういう気持ちを感じることができる。
 
 

2.ひとまとめの幸せ

同じであってもわずかに違うのだと気付く力を得たれんげだが、それは逆に、違うものをひとまとめに見られる力とも背中合わせだ。
 

f:id:yhaniwa:20210403000035j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
れんげ「じゃあみんなで遊ぶん!」
 
夏海達に遊びの誘われたれんげは、当初しおりとの先約があるからと断りそうになるが、皆で一緒に遊べばしおりとも夏海達とも過ごせると気が付く。それはしおりの考えていた遊びとも夏海達の考えていた遊びとも違うが、変わらず楽しめる素敵な"ひとまとめ"だと言える。
 

f:id:yhaniwa:20210403000205j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
「ひとまとめ」を象徴するように、遊びはいつも以上に大勢の仲間とのものに広がっていく。下は未就学児のしおりから上は成人済の楓まで、左は帰省中のひかげから右は住まいは別の町のあかねまで、遊びの中ではみながひとまとめになる。もちろん、段ボールで滑らないこのみも仲間外れではないし、しみじみするのは年齢的に早くないかと彼女に言ったひかげにもやはり、同じようにしみじみする気持ちはある。些細な違いを見逃さないだけが幸せとは、限らない。
 
 
 

3.二つを行き来して

先に述べたように、「些細だが大きな違い」と「ひとまとめ」は背中合わせの関係にある。つまり取り出し方違いでどちらにもなり得る。しおりの家での出来事が教えてくれるのは、その難しさと大切さだ。
 

f:id:yhaniwa:20210403000220j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
れんげ「どうしたの、顔色悪いん!」
しおりの母「赤ちゃん、生まれそうで……」

 

 
産気づいたしおりの母の顔色は病人のように悪い。いや、病院へ行くのだから実際病人と変わらない。出産は新しい生命の誕生ばかり見られがちだが、母体に著しい負担をかけ命を奪う時もある。正反対に見える生と死は、実はひとまとめにできそうなほど近くにあるのだ。ひとまとめになりかけた生と死を分けるにはどうすればいいか?――そう、些細な違いを見ればいい。
 

f:id:yhaniwa:20210403000237j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
蛍「お父さんが帰ってくるまで、しおりちゃん私達が見てますから」
 
しおりの母を介抱するれんげ達の行動は、小さな気遣いに満ちている。病院へのタクシーを呼び彼女を支えるだけでなく、夫が帰るまでしおりの世話を申し出る。背の低いれんげも母親を支えられない代わりにドアを抑えておいたり、不安を隠せないしおりの手を握ってあげたりする。後日夫への感謝に返すように、それら一つひとつはけして大したことではない。物理的には誰にでもできることだ。けれどその一つひとつが、些細な手助けがどれだけしおりの母を救ったろう。しおりを救ったろう。ひいては新たな生命、かすみを救ったろう。
その些細な積み重ねは、ひとまとめになりかけた生と死を確かに分けた。そして同時に、この縁はれんげと生まれた赤ん坊、かすみの関係を小さなひとまとめにもしていくだろう。
 

f:id:yhaniwa:20210403000251j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
れんげ「いつもと同じ道じゃないん。雨の時とか曇りの時とか、いつもちょっと違って楽しいのん」
 
季節は同じように巡り、しかし一つとして同じではない。1話のあかねがそうだったように近景と遠景を、「些細だが大きな違い」と「ひとまとめ」を行き来しながら人は月日を重ねていく。
 

f:id:yhaniwa:20210403000320j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期

れんげ「今日もいつもと違う、おてんとびよりなん!」

 
"日常"とはきっと、そういうものなのだ。
 
 

感想

というわけでのんのんびより3期12話のレビューでした。裏ピク終わったしなと火曜に見て半分ほど書くも力尽き、ワンエグ12話を挟んで再開……と時間がかかってしまいましたが、火曜に無理しても出産周りの部分は書けていなかったと思うのでこれで正解だったかな。
 
レビューにも書きましたがこの12話は1話と対の内容で、そこがとても美しく感じられた最終回でした。こういう手応えあると1話への好印象も更に上がるので嬉しいですね。のどかでコミカルで、感動的で良い3期だったと思います。スタッフの皆様、素敵な作品をありがとうございました。
 
 
<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>