ゲームと現実の区別が消えたら――「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」1話レビュー&感想

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
土日月原作のアニメ「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」。舞台となるゲーム「極・クエスト」は名前通り究極的にリアルだ。リアル過ぎて現実と区別がつかないほどだ。しかし、区別がつかないのはゲームと現実だけだろうか?
 
 

究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら 第1話「VR×リアル」

結城宏(ヒロ)はゲームが大好きな高校生。
今日は待ちに待った新作フルダイブRPGの発売日!
……だったが、半ば騙されるような形で売り付けられたのは、ZZ指定の超問題作『極(きわめ)・クエスト』。
「リアルを極めた」という謳い文句に違わず、グラフィック、NPCの挙動、草木の香りや肌をなでる風、すべてが究極の出来映えであった――リアル過ぎて、クリア不可能なほど「めんどくさい」ゲームである、ということ以外は。
報酬は達成感のみ。軽い気持ちで遊べない、史上最もストレスフルなゲームを攻略せよ!

 (公式サイトあらすじより)

 
 
 

1.疎ましくも避けられぬ区別の消失

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
谷城「もし学校でムカつく奴がいたら俺らに言えよ?ぶっ飛ばしてやっからよぉ」
宏(既に目の前にいるんだけど……)

 

1話で目立つのは主人公・結城宏のモノローグの多さだろう。学校、路上、ゲーム中……乱発の印象すら受けかねないその多さは視聴者に彼以外への感情移入(共感できるかどうかはまた別として)を許さない。モノローグは彼と他の登場人物を「区別」する役割を果たしていると言える。
そもそもこうしたモノローグ、心の声は区別のための存在だ。感じたまま全てを声にしていたら人間関係は持続しない。目の前の相手に不満や怒りがあっても口にしないからこそ――つまり心の声に留めるからこそ、人は衝突を減らして生きていける。モノローグは自分と他人、言っていい事と悪い事の「区別」あればこそ生じている。
 
区別がなければ人と人の関係は成り立たない。ただ、難しいのは人はいつも区別をつけられるわけではない点だ。
例えば宏の進路相談をした安岡先生は啓発本と自分、自分と宏、言葉の前後を混同して暑苦しくなっているし、同じ学校の谷城・三科は友人のように振る舞いながら宏を恐喝し金を巻き上げた。また宏自身も千円札と1万円札の区別を見落として谷城達に渡した結果、予約していたゲームを買う金がなくなってしまった。これらはすべて、付けるべきあるいは付けたい区別が曖昧になってしまっている。
言っていい事と悪い事の区別を誤り失敗した経験が誰にでもあるように、区別の消失は世界にありふれている。生きる上で人は、区別の消失とは否応なしに付き合わなければならないのだ。
 
 

2.中間の存在としての玲於奈

区別の消失は疎ましい。しかし全てを避けられもしない。このジレンマを象徴するように、宏は中間領域に迷い込む。極・クエストの世界ではない。「ゲームショップキサラギ」だ。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
大通りの喧騒から外れ、いかにも小規模な個人店キサラギの店長・玲於奈は宏が思わず見とれるほどの美人だ。美しく長い銀髪と並外れたサイズのバスト――その美貌はほとんど現実離れしている。現実なのにゲームじみている。すなわち、存在するだけで現実とゲームの「区別」が怪しくなるのが如月玲於奈なのである。
この性質はゲーム内でも同様で、妖精役の彼女はゲーム中のNPCやモンスターからは声も姿も分からない。ゲーム世界にいる/いないの区別の中間にいる彼女が宏を極・クエストに誘ったのはある意味、必然と言えるだろう。そして中間領域を経た以上、宏が次に向かうのは避けていた区別の消失である。
 
 

3.極・クエストの究極性とは

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
宏「ああそういうイベントね。ここでカッコよくマーチンに勝つと大見得切って町を出られるわけね。チュートリアル代わりのやつか」
 
玲於奈とのお付き合いに騙されて買ってしまった宏は極・クエストを開始するが、ゲーム内でもモノローグあるいはメタ的な視点を多用する。なぜか?彼はプレイヤーであり他の人物はNPCであり、そこには区別が必要だからだ。この世界の生粋の住人=NPC的な言動を取るようになれば、そのプレイヤーはもはやNPCと大差ない。実際それが、彼がこれまでフルダイブRPGを遊ぶ時の作法でもあったのだろう。
 
しかしあまりにもリアルな極・クエストの仕様は、彼からゲームと現実の区別を失わせていく。異世界転移を疑うほど美麗なグラフィックや触感――だけではない。足や頭をぶつければ痛い、殴られれば鼻血が出る、求めていない痛覚までもが極・クエストには存在する。つまりこのゲームは求められるものと求められないものの「区別」がついていない。ならばゲームと現実の「区別」をつける宏のプレイスタイルとの相性が悪いのも当然だ。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
宏「ってぇなこのバーカ!何が親友だ、だいたい俺はお前なんか知らねーんだよ!」
 
まず町の外に出ようとしたら止められる、チュートリアル代わりのヌルい戦闘かと思いきやボコボコ……現実でもゲームでも区別なく酷い目に会い、宏の怒りは限界を超えてしまう。自分を殴ったマーチンに口汚い言葉を投げかける宏はモノローグを使っていない。つまりこの時、彼はゲームと現実の区別があやふやになっている。
ゲームと現実を混同する人はそうはいないが、上手くいかないゲームに本気で怒った経験は多くの人にあるはずだ。その感情に、ゲームと現実の区別などあったろうか? 否、本気で怒っているのは変わらないはずだ。そこに区別などはない。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
アリシア「死んだわ兄さん、確実に。ナイフ突き出してる。ねえ死んでる!」
宏「ご、ごめ……」
アリシア「ヒロ、ねえちょっとどうすんのこれ。ヒロヒロヒロヒロ……!」

 

 
宏がゲームと現実の区別を失った結果起きたのは、親友設定のマーチンを誤って殺害してしまう事故。そして幼なじみ設定のアリシアのゲームっぽくない怒りの詰め寄り。宏は現実で人を殺してしまったかのような恐怖に襲われ逃げ出してしまうわけだが、これもやはりゲームと現実の区別が消えていないと生まれない行動だろう。そしてマーチンに本気でキレた時も、アリシアに本気で恐怖して逃げ出した時も宏の脳内には無数の選択肢が浮かんでいた。10の52乗に分岐する極・クエストのフリーシナリオは、この瞬間にこそ数多の分岐の機会を作り出しているのだ。それこそさながら、現実のように。
 
極・クエストが「究極進化したフルダイブRPG」なのはおそらく、デザインがリアルであったり分岐が異常に豊富だからではない。プレイヤーがゲームと現実の区別を失うほど本気になった時、それに応えて現実のようなゲームを提供できる点にこそその究極性はあるのだろう。それが面白いかどうかは別として。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
玲於奈「しょ、称号、親友殺し(ベストフレンドキラー)……」
宏「は?」
玲於奈「いきなり、詰んでるぅ……!」

 

かくて宏は開始早々、現実同様に詰んだ状態へ陥った。ゲームと現実の区別の消失が鍵ならば、逆に言えばゲームに過ぎない極・クエストが現実に影響を与えもするだろう。逆チート状態からスタートする本作の今後を、楽しみに見ていきたい。
 
 

感想

というわけでフルダイブの1話レビュー&感想でした。1話目はどこを掴みにいったらいいか探すところから始まるので、手応えも大変さもありますね。ナンバリングゲームへのツッコミとかメタ目線はあんまり素直に笑えなかったのですが、「区別がつかなくなる」をテーマに設定してみると共通する描写がたっぷりあって面白かったです。宏を追いかけるアリシア、モンスターと区別がつかない……いやキレて当たり前なんだけど。
本作がどんな冒険を見せてくれるのか、今後に期待したいと思います。
 
 
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