酸欠の先、懐かしき未踏――「灼熱カバディ」3話レビュー&感想

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
ますます燃える「灼熱カバディ」。3話では1年vs2年の練習試合がひたすら描かれる。休憩的なバカ話はなく勝負勝負の繰り返し――これは単調なのではない。宵越同様に視聴者を"酸欠"に追い込むお話だ。
 
 

灼熱カバディ 第3話「灼熱の世界へ」

1年の宵越と畦道チーム、2年の水澄と伊達チームに分かれて練習試合を行うが1年チームは惨敗。2人の連携不足が敗因と考える宵越は、畦道と協力しなければいけないことにイラつく半面、勝つためには協力が必要だと暗号による連携プレイをひらめく。これを機に宵越達は秘密の特訓を開始。気合充分で2年チームへと挑む!
 
 

1.多用されるモノローグ 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
宵越(つうか、なんでこんなに必死にやってんだ……?)
 
今回まず目を引くのは宵越のモノローグの多さだろう。Aパートでは畦道に視点が移りもするが、Bパートはほとんど宵越の喋り通しの様相を呈している。コンビの司令塔として動いているのだから小休止もなく、戦略に長けた彼の思考は常にフル回転で私達に息をつかせない。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
宵越(残念、こっちも行き止まりだ!)
 
また驚きの仕掛けや逆転がいくつも用意されており、しかもどれも成功しながら勝利を決定的にしないのも特徴的だ。サイン回避と偽のサインによるひっかけ、言葉にせずとも通じる意思、宵越の自分からのチェーン……どれも逆転の秘策たり得る力強さを発揮しながら、最後には流れは2年生組に戻っていく。「よし、これで勝った!」と思ったら時間がまだ残っていると驚いた視聴者も多いのではないだろうか。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
畦道「だいじょぶか? おめ攻撃も守備も声出しっ放しで」
宵越「うるせえ、お前は俺の指示に従ってりゃいいんだ」

 

フル回転フルオープンの思考、繰り返される逆転の一撃と終わらぬ試合。見ていて疲れる?正解だ。この3話、私達は常に情報の波に襲われている。情報による攻撃を受けている。油断すれば情報は私達に「触れる」だけで、理解し「捉える」間もなく逃げ去ってしまう。そう、本作は今回、視聴者にカバディの攻撃を仕掛けている。そしてカバディで攻撃するにはキャントを続けなければならない。くどいほど宵越のモノローグが続くのは、それが作品が攻撃を続けるために必要な「キャント」だからなのだ。
 
 

2.必死になれる幸せ

先に述べたように、今回多用されるモノローグは作品が視聴者に情報攻撃を仕掛けるためのキャントとして機能している。しかし息継ぎを許されぬキャントは発声者から酸素を奪っていく。モノローグがキャントなら、宵越がそこで奪われる"酸素"とは何だろう?
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
井浦「お前の弱点だ。思考も能力も人並み以上。そして今まで1人でなんとかなっちゃったことが弱点」
 
宵越は優秀な人間だ。身体能力の高さは言うまでもなく、カバディを始めて日が浅いにも関わらずサインや偽サインを考案し、目の前で繰り広げられる事態を即座に理解し視聴者に解説してみせる。負けず嫌いだがこと試合に関して彼の思考はいつもクリアでモヤがかかる・・・・・・ことはない――つまり"酸素"は満ち足りている。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
宵越(誰も、畦道ですら予想していなかったチェーン。それでも、それでも止めらんねえのかよ………!)
 
しかし今回の2年生との勝負で、宵越はモノローグの多用そのままに酸素を吐き出していく。サインを考えた、特訓も積んだ。サッカーの時ならそこまでせずとも十二分に出ていた結果は、しかし今回伴わない。
宵越はもっと酸素を吐き出さなければならない。偽のサインでひっかけ、前回あれほど嫌がっていたチェーンまでする彼の姿は必死そのもので、しかしそれでも宵越は結果を出せない。出し忘れたサインを畦道が拾ってくれなければ守備は成功しなかったし、チェーンして完全に塞いだはずの逃げ道を水澄は上から潰して攻撃成功させてしまった。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
宵越(……へっ、やられた。どうすりゃいい?お前ら見たく鍛錬を積めばいいのか?井浦みたく学べばいいのか?分からん)
 
サッカーでは求められなかった必死さを精一杯発揮しても届かなかったところへ、必死で手を伸ばしてくれる仲間がいる。これまで届かなかった場所まで必死に伸ばして手を繋いでも、更に必死になってその上を行く相手がいる。宵越にはもはや打つ手は――酸素は、つまり"余裕"はない。酸素の切れた視界にはモヤがかかるが、そこに絶望はない。必死さを最大限に燃やしてなお、応えてくれる仲間がいる。相手がいる。それはこの上なく気持ちのいい、幸せなことなのだ。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
井浦「じゃ、改めて宵越くん。ようこそカバディ部へ」
 
かくて宵越は勝負に負けて渋々ではなく、自らカバディ部のジャージへ袖を通す。副題通り、本作は灼熱の世界へと足を踏み入れたのである。
 
 

感想

というわけで灼熱カバディの3話でした。初見時は畦道が宵越のサイン忘れを拾った場面で「よし勝った、風呂でも入ってくるか」くらいの気持ちになって時計を確認したらまだ中盤でびっくり、その後の展開に疲れたほどだったのですが、そこをヒントに「酸欠」が主体のレビューとして組み上げてみました。並の作品なら3エピソード描けるものを1話で使って更に昇華させる、なんて贅沢なんだ。井浦が「体は冷やさないように」って投げるジャージが体以外のものまで保温するのもすごく好きです。
 
1,2話のレビューを読んでくれた方、反応してくれる方が結構いるようでとても嬉しいです。ありがとうございます。熱量込めて必死に書いたものを受け止めてくれる人がいるって、本当に幸せなことだとこの3話を見ても思います。ご期待に答え続けられるか分かりませんが、灼熱の世界を目指して毎週書き続けます!
 
 
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