夢で現で――「オッドタクシー」3話レビュー&感想

f:id:yhaniwa:20210421214807j:plain

(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
相乗りすれ違い「オッドタクシー」。3話、柿花は電話する黒田の言葉を自分へのものと勘違いし、しばし幻の会話が成立する。話が通じる・通じないとよく言うが、どれ程確かなものだろう。
 
 

オッドタクシー 第3話「付け焼き刃に御用心」

小戸川は今日も色々な客を乗せる。拳銃を持った指名手配犯が乗ってきたりもする。

1.「話が通じる」一般的な手順

f:id:yhaniwa:20210421214820j:plain

(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
小戸川「口止めは大門兄から既にされてる。警察に行ったら拳銃持った指名手配犯がお前を殺すって」
 
「話が通じる」には一般的に2つの段階的手順がある。1つ目は「言っていることが理解できるかどうか」だ。
 
拳銃片手にタクシーに乗り込んできたドブは小戸川に口止めを指示するが、これは小戸川には不可解に映る。口止めなら既にドブの協力者大門兄から警察に行くなと言われており、同じ指示をされてもそれだけでは"理解"できない。
 
なぜ自分に接触してきたのか。ドブの話から見えてきたのは、彼は彼でなかなか困った状況にあり口止め対象が警察に留まらないこと、より積極的な協力を求めていることだった。ここで「話が通じる」最初の段階はクリアされる。
 

f:id:yhaniwa:20210421214834j:plain

(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
小戸川「断るよ」
ドブ「はぁ!?」
小戸川「お前は犯罪者には違いない。そんな奴の片棒を担ぎたくない」

 

「話が通じる」2つ目の段階は「言っていることを受容するかどうか」にある。小戸川はドブの窮状を確かに理解したが、だからと言って彼に協力はしない。言っていることを受け入れない。そもそもドブから事情をじっくり聞いたことすら、警察にSOSを見せるための引き伸ばしに過ぎなかったのだ。
 
脅されながらも小戸川は周到に手を打っていた。タクシーにSOSを表示させ、パトカーを探し、ドブを挑発して拳銃を見えるようにする。「話が通じる」ための準備としては満点といっていいだろう。しかしそれだけやったにも関わらず、警察は彼の言うことを受け入れようとしなかった。現れたのがドブと協力関係にある大門兄だったからだ。
 
大門兄に話が通じなかったか、と言えばそんなことはない。むしろ話(何が起きているか)を彼ほど理解できる人間はいないし、小戸川が事実を言っているのも十二分に承知している。その上で彼は小戸川の話を聞き入れない。「話が通じる」には2つの段階的手順があると書いたが、実際はそれをクリアしていようと話が通じるとは限らないのである。
 
 

2.手順に沿わなくても

f:id:yhaniwa:20210421214911j:plain

(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
ドブ「分かったよ小戸川くん。お前を脅しても言うこと効かないのはよーく分かった。お前は何で動くんだろうなあ?金も執着なさそうだし」
 
「話が通じる」とは単純なものではない。それは小戸川の話を大門兄が聞き入れなかった例だけでなく、他からも言える。協力を断る小戸川の思わぬ抵抗に焦らされたドブだが、それは彼に「小戸川は自分の命惜しさには協力しない」ことを理解と受容させてしまった*1。話し合いの余地など無いと伝えたはずだったのに、かえってそれは見つかってしまったのだ。
 

f:id:yhaniwa:20210421214924j:plain

(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
柿花「分かってるよ!それでも夢見たいんだよ。いいじゃねえか、夢見るくらい」
 
然るべき手順を踏んでいるはずなのに話が通じず、逆に手順を踏んでいないはずなのに話が通じる。その不思議の発生条件に確たるものなどはない。
ドブが黒田に本心から忠誠を誓っていようと(むしろだからこそ)全てを彼に話せるわけではないし、小戸川と白川の会話は折々すれ違っているのに*2むしろ噛み合っている。自分には色恋など関係ないと思っていたのに小戸川は白川に惹かれ始めていて、しかしやはり自信は持てない。婚活アプリでプロフィールを偽る柿花の行動は肯定されるものではないが、そうまでして繋がりを求める気持ちを小戸川は否定できない。
 

f:id:yhaniwa:20210421214937j:plain

(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
小戸川「行方不明?剛力が?」
 
繋がっているようで繋がっていなくて、繋がっていないようで繋がっていて――全てはあやふやさから逃れられなくて、人はそこに夢も絶望も見る。それは人々のてんでバラバラの動きが女子高生失踪事件に繋がっていくこの物語全体にしても、様々な描写から僕が探し出そうとする"テーマ"にしても同じことだろう。
願わくば、彼らの歩く先がささやかでも幸福に"繋がって"いますように。
 
 

感想

というわけでオッドタクシーの3話レビューでした。すみません、疲労が思ったよりしんどく昨晩は寝ました。
ドブとの手に汗握る駆け引きや白川との相性の良さを感じるやりとり、これまでは不気味だったドブや柿花の"しょうもなさ"。日常的/非日常的の両面で登場人物の魅力が益々強まる回だったと思います。大門弟も単にバカだからタクシードライバーを嫌っているわけではない……?
成功じゃなくてもいいから、死人出ないでほしいなあ。ドブですらなんだか嫌いになれない。素敵な作品です。
 
 
<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです> 

*1:更には、何も言わずとも反応だけで小戸川は白川というウィークポイントを握られてしまう

*2:付け焼き刃の意味を知らない、カポエラを知らない等