"唯一無二"の罠――「ゾンビランドサガ リベンジ」3話レビュー&感想

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
蘇りし別人の「ゾンビランドサガ リベンジ」。フランシュシュの愛と純子は生前、時代こそ違えど共に伝説を残している。3話はよく似た2人を軸にした"唯一無二"を巡る争いの幕開けだ。
 
 

ゾンビランドサガ リベンジ 第3話「愛と青春のアコースティック SAGA」

ラジオという手段を手に入れ、フランシュシュの名はさらに広まるだろう。
ここからはさらに勢いをつけ、駅スタ失敗で開けた墓穴を埋めていかなければ。
そう思っていた矢先、とんでもない情報が入って来た。
やつらがサガに攻め込んでくる。
対抗するには、こちらの戦力を大幅に強化しなければならない。
鍵をにぎるのはあいつなのだが……
まさか、敵もそう思っていたとはな。
―――――《巽幸太郎》の日記より

 (公式サイトあらすじより)

 

1."唯一無二"の頂点・水野愛

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
愛「わたし達は超えなくちゃならない。世間の評価も、わたし達自身の過去も。できなければ、そこで腐って死んでいくだけ」
純子「芸能界は常に生き馬の目を抜く競争の連続。停滞はすなわち死と同義」

  

"唯一無二"は難しい。人は1人1人が異なるかけがえのない存在だが、同時にみな同じ人間でもある。喧嘩別れでもう恋なんてしないと思ってもまた恋に落ちる人もいれば、「お前の代わりはいくらでもいる」を繰り返して先細る社会もある。アイドルともなれば更に複雑で、たった一つしかない輝きを見せてもそれはあっという間に陳腐化してしまう。
 
 

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司会者「ところで3号さん。アイアンフリルの伝説のセンター、水野愛さんに似てるってよく言われません?」
愛「あ、そうですね……時々、はい。伝説のアイドルと呼ばれた大先輩に似ているなんてすごく光栄だなあって思ってます」

  

この難しさを考える時、フランシュシュ3号こと水野愛の存在は更にもう一段の複雑さを加える。彼女はかつてトップアイドルグループ・アイアンフリルの不動のセンターだった。唯一無二を問われるアイドル業界のトップの、更にトップであるセンター。愛は生前"唯一無二"を極めていたと言っていい。
だが、その唯一無二を今の彼女は発揮できない。水野愛は10年も前に死んでいる。フランシュシュ3号は水野愛によく似た別人として存在しなければならない。
愛は生前に唯一無二を極めていたからこそ蘇生後は唯一無二になれない、代替としかなりえないのだから皮肉なものだ。
 
しかし一方で、代替であることは愛に救いももたらしている。10年も前に死んだ彼女は水野愛のままでは、唯一無二の存在のままでは日の当たる場所を歩けない。水野愛によく似た別人として、代替として扱われるからこそ愛は新たに"フランシュシュ3号"なる唯一無二を獲得できている。
 
唯一無二であることと誰かと代われること、つまり唯一性と代替性は正反対であるが故に相互に反転し得る。そして、水野愛にして水野愛ならざるフランシュシュ3号とは、唯一性と代替性が反転する「交点」に他ならないのである。
 
 

2.愛とフランシュシュが先に進むために

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愛「アクシデントでメンバーが休むこと自体は今後もあり得ることだし。考えようによってはフランシュシュがもう一回り成長するチャンスかもしれない」
 
唯一性と代替性を反転させる力とはすなわち、変化の力だ。事実、愛は今回様々に物語を反転変化させる役割を背負っている。仕事が増えてきた安心感を緊張感に変え、自分だけ不参加を命じられた状況をチャンスと捉え直す。これらはいずれも反転であり変化であり、だからこそフランシュシュは停滞せず腐って死なずに済んでいる。皆が頼りにするのも当然だろう。
しかし一方で、皆が彼女に頼り切りの状況はけして好ましくない。愛を「唯一性と代替性を反転変化させる唯一無二・・・・の存在」にしてしまえば、それはもはや停滞以外の何物でもない。そんなアイドルグループは愛が抜けた瞬間に瓦解してしまうだろう。愛への相談に純子が見出していた希望が、彼女がアイアンフリルに勧誘されるのを見て絶望に反転してしまったように。
 

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詩織「アイアンフリルこそが、あなたの立つべき唯一の場所よ!」
 
アイアンフリルに勧誘された愛に、フランシュシュの皆は行かないでとすがるべきだろうか?違う。それは彼女の唯一性を更に固定化し停滞させるだけだ。
必要なのはむしろ、愛の唯一性を代替性に反転してやることだろう。愛は替えの効く存在なのだと、愛抜きでもやっていける自分達を見せつけることだろう。仲間たちがそういう対等以上の存在であればこそ、愛はそこに好敵手を見ることできる。負けるものかと新たなステージへ進める。
最初の一人にしかできないと思われていたものを他者が当たり前にして、そこからまた新しい最初の一人が生まれて……切磋琢磨とはそういうものだ。それはきっと、フランシュシュの中だけに留まらない。絶対王者とすら言われるアイアンフリルもまた、絶対でなくなってこそ更なる高みへ昇れる。
 

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愛「純子、みんなのことお願いね。この中で純子が一番ベテランなんだから」
純子「……はい!」

 

愛を、そしてアイアンフリルを唯一性から解放する鍵となるのはもちろん純子だ。愛同様にトップアイドルだった経験を持ち、愛の代わりにフランシュシュを引っ張る役目を託された彼女は現時点で代替性の塊である。そんな彼女が、いかにして愛の代わりでなく愛をこそ代わりにしてしまうほどの活躍を見せててくれるのか。次週の後編(?)を期待して待ちたい。
 
 

感想

というわけでゾンサガ2期3話のレビューでした。唯一性と代替性の話になるとどの作品でも同じようなことしか書けなくなる=停滞してしまうトラウマがあるので、普段以上に深く掘れるように見立ててみたつもりですがいかがでしょう。今回のレビューはぽんずさんの1期のサガロックの時のつぶやきが記憶に残っていたのもヒントになって書けました、ありがとうございます。
そう、必要なのは多分挑発。
 
ゾンビィとアイドルがテーマとして全く違和感なく結合してるの、ホント唯一の作品を見てるなという感じで気持ちいです。来週が待ち遠しいなあ。
 

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はぁ、かわいい。
 
 
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