部長のルール、最強のルール――「灼熱カバディ」4話レビュー&感想

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
"最強"の帰還を迎える「灼熱カバディ」。4話、宵越は体力テストと小テストを返される。それは身体と頭脳のスペックを示すものだが――果たして強さとは、それだけで表現されるものだろうか? 鍵を握るのは今回登場する部長、王城正人だ。
 
 

灼熱カバディ #04「最強のレイダー」

宵越は『勝つ』感覚を掴もうと模索しながら練習するも、焦りが先行するばかり。見かねた井浦は秀でたポテンシャルを活かして“能京の獣”、最強の攻撃手(レイダー)になれと助言する。後日、ランニングをしていた宵越は気配を全く感じさせない細身の男性とぶつかってしまう。病み上がりだというこの男の正体は……。
 
 
 

1.数字は1人では嘘をつかない

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宵越「俺には筋力、パワーが足りない」
 
数字は強さの分かりやすい指標である。テストで高得点ならその分野の思考に長け、筋力測定で高得点なら組んだ時に倒すのは難しい。数字はシンプルな嘘はつかないから、それを指標にするのはけして間違いではない。しかし見落とされがちなのは、数字はそれ1つでは完結しない点だ。
 

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伊達「185cm以上の体で長い手足を持つお前が俺と同じ筋力を手にしても、カバディにおいて重要な重心の座り方で劣る。何より、お前の誇るスピードが死ぬ」
 
筋力の数字を上げれば同時に体重の数字も増える。宵越の長身はカバディの体重制限80kgを超えやすい問題と背中合わせで、また制限を抜きにしても安易な体重増加は持ち味のスピードを殺してしまいかねない。1つの数字を上げれば他の数字が下がることはけして珍しくなく、数字は見た目よりもっと複雑なところで嘘を付くのである。
 
 

2.複雑な数字を自覚せよ

数字は見た目より複雑なところで嘘を付く。宵越がぶつかるその壁はしかし、彼が他者に示している壁でもある。
 

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井浦(こいつは何が見えてるんだ!?)
 
これまでの練習で、宵越は自ら囮となる超攻撃的な守備を見せてきた。自分では誰でもできるとすら思っていたが、もちろんそんなわけはない。掴んで倒すと二段階の動作が必要なアンティと、一瞬触るだけのレイダーの難易度差は歴然。他の人間からすれば単純な"数字"の問題で割に合わず、だから宵越のような守備はやらない。いや、やろうと思ってもできない。しかし宵越はいとも容易くそれをこなしてみせる。
 

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井浦「いつもどうやって避けてる?」
宵越「そ、そりゃ敵をよく見て、なんとなくサッと……」
井浦「言えないでしょ。才能を人に語るのは難しい」

  

アンティとレイダーの難易度差は確かに単純な数字だ。しかし実行の上ではもっと多くの数字が絡み合っていて、からくりを掴めば覆すのも不可能ではない。もちろんそれを感覚でやってしまえるのが天才ではあるが、少なくとも自分の強みが何かという自覚は持たなければ一定以上の成長は望めない。体重増加がスピードを殺してしまうと気付けなかったり、回避の目・速さ・リーチをレイダーではなくアンティ側にばかり適用しようとすれば、自らの方が複雑な数字に飲み込まれてしまう。
 

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井浦「宵越。俺が『今できることだけ考えて』って言ったのはさ、今持ってる能力を伸ばしてくれって意味だったんだ」

 
そうした数字の複雑さにもっと自覚的になることこそ、宵越が最強のレイダーになるため必要なものなのだろう。そして天は、彼に師となる人物との出会いをもたらす。
 
 

3.王城正人の持つ複雑な強さ

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王城「いちおう高校で部活、スポーツやってるんですけどどうも体は強くならなくて」
 
負傷入院から復帰したカバディ部部長・王城正人の体は細い。見た目にそぐわぬパワーを秘めているわけでもなく、ランニングしながらフラついてしまうほどだ。そんな彼がなぜカバディ部の部長なのか疑問を抱くのは当然で、宵越は彼のどこに強みがあるのか探ろうとする。持久力、知力、筋力……王城は宵越の目線を品定めと評するがその通りで、彼は宵越から体力テストと小テストを受けているに等しい。そしてその結果は、いずれも秀でた点無しであった。単純な数字からは、王城の凄さは見えてこなかったのだ。
 

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宵越「おい。面倒だから単刀直入に聞くが、なんでお前が部長なんだ。明らかに弱いしカバディ向いてねえだろ!」
 
対照的なフィジカルを持ちながら、宵越が王城に抱く疑問は自らが抱えている課題に一致している。すなわちそれは「単純な数字では乗り越えられない壁をどうやって乗り越えているのか」だ。
 
 

4.複雑な強さの正体

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王城「……カバディ
 
どう見てもカバディ向けの体を――単純な数字を持たない王城。しかしそれにも関わらず、実力を披露する練習で彼はたやすく宵越や畦道の体に触れていく。それは身体によるものでもない、頭脳によるものでもない。もっと高度な、複雑な数字によるものだ。
 

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井浦(……部長のマネを!?)
 
単純な数字で暴けぬものは不可解に見えるが、全ては複雑な数字から生まれている。使いこなせれば不可能に思えるものにすら抗える。宵越が理解したのが単に相手の実力だけではないことは、彼が無意識にやってのけた王城の模倣からも分かる。だから王城もまたそれに応えて、更なる複雑な数字を披露してみせる。
 

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宵越「なんで……俺、倒れてんだ?倒された?あいつに?」
 

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王城「逆を言えば、息を吸う時は無防備に近い。その瞬間こっちのMAXを合わせると、触るのも倒すのも楽になる」
 
カウンター……呼吸のタイミングを見計らい、相手のもっとも無防備な瞬間に己のMAXをぶつけるテクニック。そこに存在する複雑な数字とはつまり、人体の"ルール"だ。
 
振り返ってみれば、宵越がぶつかっていた壁もまさしくルールであった。筋肉を増やせば体重制限という"ルール"にぶつかる。スピードと両立できない"ルール"にぶつかる。どれだけ優れた選手もその競技の"ルール"からは逃れられない。しかしぶつかるのでなく利用できれば、ルールはこの上ない武器となる。そう、ルールとは身体にも頭脳にも勝る「強さ」なのだ。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
王城「僕の名前、そういえばまだ言ってなかったよね」
宵越「別にいい」
王城「え?」
宵越「……『部長』でいいだろ」

  

だから宵越は王城の名前を問わず、部長と呼ぶ。それは単に立場や実力を認めたからだけではない。ルールという武器の"最強"を認めたからだ。その体現者であればこそ、王城正人には"部長"という呼び方が相応しいのである。
 
 

感想

というわけで灼熱カバディの4話レビューでした。当初は「ルールこそ最強」だけで書こうとしたのですが、拾っていく内に王城が宵越のぶつかっている壁を突破した先例なのが見えてきてより2人の関係性を意識した内容に。すみません手間取りました。
 
前回2年生組との試合で宵越は「どうすればいいか分からない」となったわけですが、王城の存在がそこへの光明となっているのが上手いなーと思います。あと水澄と伊達の王城への挨拶でじんわり感じていた印象を決定的にする畦道の「おつとめ、お疲れさまでしたー!」と井浦の「服役かよ」のツッコミ最高。声あげて笑いました。
 
次回はついに他校との試合のようで。更に広がっていくカバディの世界がどんなものか、楽しみです。
 
 

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