一人相撲の30分――「オッドタクシー」4話レビュー&感想

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ
ありふれた狂気の「オッドタクシー」。4話は小戸川の台詞はなく、30分はひたすら田中という男の独白に費やされる。独白とは一方的なものだ。どうあがいても、それは偏りを免れない。
 
 

オッドタクシー 第4話「田中革命」

小戸川は今日も色々な客を乗せる。時々ちょっと急いで運転してしまう時もある。
 
 

1.よくあるようで珍しいモノローグ回

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独白、モノローグが主体の30分はけして珍しいものではない。視点を固定して描けるこの手法は情感を豊かにし、時に視聴者は語り手と一体化した錯覚すら覚える。だが「オッドタクシー」4話は同様の他作品と比べても明らかに異質だ。
田中のこれまでがありふれて数奇だから?
田中を演じる斉藤壮馬の語りの暗さに力があるから?
それらももちろん大きな理由ではあるだろう。だがもっとも異質なのは「田中以外がほとんど喋らない」点にある。
 

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いくら視点を固定しているとは言っても、普通は相手役の1人くらいはいるものだ。友人、恋人、親、敵……そういう他者とのやりとりを通してドラマは動いていく。語り部が1人だろうと、1人で物語は動かない。しかしこの話はそうではない。劇中の人物は柴垣を除けば誰一人、田中に主体性を持って話しかけてはいない。
田中が対抗意識を燃やした佐藤も、彼から10万円を騙し取ったDitch-11も、彼に何かしてやろうなどと思ってはいない。500万以上を費やしても手に入れないドードーも田中にとって特別な存在だが、それは彼の中だけの話でゲーム内では激レアキャラの1体に過ぎない。田中の想像や価値判定は実体と関係なく彼の中に広がるものに過ぎず、かつ何もかもその独白の中に留まり実体が確認されることはない。
 
私達が今回見ているのは田中の過去というより、彼の中で生まれては自己完結していく想像の繰り返しと言った方が正しいものだ。だからこの一人語りは異質なのである。
 
 

2.他人と話せない男・田中

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柴垣「どういう意味?途中まで並走してるつもりやってんけど、俺らハイウェイとサブウェイやったん?」
 
田中という男の他人との関わり方はいびつだ。「並走してるつもりがハイウェイとサブウェイ」という柴垣の表現は言い得て妙で、田中は他人と話している時すら本当は自分と話している。いや、話してしまう。一滴の現実が彼の中では大雨に等しく、脳内はあっという間に想像で埋め尽くされてしまう。
別に現実と空想の区別がつかないわけではない。回想する彼の過去への目線は内省に満ちていて、ほとんど常に自分の浅はかさを指摘している。しかし後から省みられることと、その場で自分へ反映できるかどうかは別の話だ。分かってすらいたとして、止められるかは全く別の話だ。
 

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田中「ドードーを所持しているだけのアカウントなら数万円で手に入る。でも違うんだ、それは違う……じゃなんなんだと内省を試みる」
 
田中には自分で自分を省みて、自分で答えを出す力はある。しかしそれ故に全てが自分の中でしか循環せず、誤りや過ちが腐臭を放つようになっても体外へ排出できない。"病気"的だと分かっていても、排出できなければその気付きすら腐臭の発生源になるだけだ。
願わくば、煮詰められたその執着が凶器となって人を殺めませんように。
願わくば、彼が自分との折り合い方を見つけられますように。
勝手にどん詰まりへ突っ走ってしまう田中の思考パターンに同類の臭いを感じてしまう私は、彼の危うい姿にそう祈らずにはいられない。
 
 

感想

というわけでオッドタクシーの4話レビューでした。レビューの最後でも触れましたが、田中の自分で自分をどん詰まりへ追いやってしまう思考が鏡を見るようで、初見時はとても胸が痛かったです。「相談すればよかった」「他にもやりようはあった」……自分でも後からそう考えはするけど、その時は他に道も可能性もないとしか思えなくなってしまう。そういう自分との折り合いをいくらかでも付けられるようになるまで、僕は30年以上かかってしまいました。たぶん、アニメレビューという形でアニメを他者化しなければ今でも田中のようだったのじゃないかなと思います。だから彼には幸せになってほしい。自分で答えを出して突っ走ってしまう愚かさは、自分で自分なりに決着をつけられることでもあると思うので。
 
これまでとはガラリと趣の違う、しかし確かにこれまでと同じ作品なのが感じられる回でした。次回も楽しみです。
 
 
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