彼もクソ、我もクソ――「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」4話レビュー&感想

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
右も左もクソまみれの「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」。失禁の屈辱からキワクエを止める決意をしたヒロだが、現実に戻った彼はその経験に自分の過去を重ねる。4話で見えるクソはキワクエだけに限らない。
 
 

究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら 第4話「ただ一人の攻略者」

ミザリサに拷問されかけ失禁するというまたもや散々な目に遭うヒロ。
嫌気が差したヒロはキワクエを売却すべく、ゲームショップを訪れるが、レオナに強引に薦められ、キワクエを唯一クリアした高校生が作った攻略サイトを見ることに。それは、とてもじゃないが正視に耐えない内容で……。
 
 
 

1.アンリアルを極めた現実の先

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
友人「『かっこいい』じゃん、楓の兄貴!」
楓「まあね」

 

今回はヒロの屈辱的な過去が遂に明かされるが、悲劇の前の彼のありようはむしろバラ色だ。陸上短距離の才を注目され、慕ってくれる妹や仲間、そしてライバルもいる。この時のヒロは相当に恵まれていると言っていいだろう――そう、非現実的なほどに・・・・・・・・。ヒロの過去は、私達からすればほとんどゲームのようにアンリアルな幸福に包まれていたと言える。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
マイク「宏くん、ベストを出してクダサーイ。期待していマース!」
ヒロ「が、ガンバリマース!」
 
そのアンリアルさは、レース前に銀メダリストのマイクに激励を受け頂点を迎える。片言の日本語を喋る雲の上の存在からの励ましはヒロにしても空想じみていて、夢見心地でトイレに行く現実を忘れてしまうほどだ。幸福の絶頂と言っていいだろう。
しかしその嘘みたいな幸福の先には落とし穴が待っていた。トイレに行き忘れた彼は、レース中の転倒で失禁する嘘みたいな不運に見舞われてしまったのだ。
 

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観客「うっそ!」「おしっこもらしてる!?」「やだー!」
観客「ベストタイム出す代わりに小便出しやがったぞ!」

 

リアルを極めたゲームがゲームらしくなくなってしまうなら、逆もまた然りだ。アンリアルを極めた現実は現実らしくなくなってしまう。
アバンでヒロは「あの時と同じ」とゲームと現実の失禁を重ねたが、重なっているのは失禁だけではない。それに至る経緯もまた、正反対ながら全く同じ理屈に基づいている。ゲームだろうが現実だろうが、夢見心地の幸せの一寸先は悪夢じみた不幸せなのだ。*1
 
 

2.現実やゲーム以前にクソなのは

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ゲームもクソ、現実もクソ。絶望したヒロはキワクエをやめようとするが、それに怒ったのは意外にも妹の楓であった。フルダイブRPGに耽溺する兄を非難していた彼女はしかし、それすら投げ出すことにはもっと怒りをあらわにする。
 

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ヒロ「はぁ!? 意味分かんねえ、お前がやめろっつったんだろ!」
楓「それとこれとは話が違うわよ。走るのも挫折して、フルダイブRPGにハマって、挙句の果てにはそれすら放り出して!とにかくあんたはサイッテーよ!」

 

先に述べたように、夢見心地の幸せの一寸先に悪夢じみた不幸せが待っているのはゲームでも現実でも変わらない。ゲームも現実も元々クソなのだ。しかし彼女が怒っているのは現実のクソさでも、ゲームのクソさでもない。もっと別のところにある。
 

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母「あの子、宏にはずっとかっこいいお兄ちゃんでいてほしいのよ」
ヒロ「……なんだよそれ」
 
ヒロの母は、楓は兄にかっこよくあってほしいのだと言う。確かに今のヒロはかっこよくない。現実では挫折を引きずり恐喝に逆らえず、ゲームでは過失致死の罪から逃げて最初の町も出られない。クソなのは現実か?ゲームか?違う。どっちもクソだが、それ以前に今のヒロ自身がクソだ。そして、いきなり心を入れ替えて生まれ変われるほどゲームも現実も自分も甘くはない。
 

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だからヒロは格好良くキワクエの世界に戻る決心をしたりはしない。ただ1人の攻略者・カムイのクソみたいな攻略サイトにクソみたいに罵倒され、玲於奈の色仕掛けにまたも誑かされて情けなくゲームを再開する。しかしそこにいるのはもうゲームの奴隷ではないし、クソに無自覚にキレちらかすクソ野郎でもない。
 

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ヒロ(こんなゲームをまたやるなんて、確かに俺はカムイの言う通り、死んだ方がいいアホなのかもしれない……)
 
現実もゲームも、そして自分自身もまたクソ。全てはそれを認め、自覚するところから始まるのだ。
 
 

感想

というわけでフルダイブの4話レビューでした。ヒロにあまり好感を持てないのは意図的なのがはっきり分かり、納得できたのが個人的には意義深い回でした。ヒロ役の山下大輝さん、「主人公だけどクズっぽく」とかディレクションされてるのかしらん。あとマイクさん人格者ぶってるけどあなたも相当クソだと思います。無駄に緊張さすなや煽って終わりにするなや。
 
先行きはまだ不透明ですが、物語的には逆転の道筋は確かに生まれつつある。町内衛兵隊のテスラとの出会いが何をもたらすのか、次回が楽しみです。
 
 
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*1:ガチャも嘘みたいな当たりの後にはいずれ、確率を疑うような外れが待っている