越えぬべき一線――「戦闘員、派遣します!」5話レビュー&感想

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
決戦近づく「戦闘員、派遣します!」5話。六号達がスパイと知ったスノウは国を出ていくように言うが、彼らの所属などは聞かない。部屋に立ち入らないその姿が示すように、越えぬべき一線がある。
 
 

戦闘員、派遣します!  第5話「ヒーローになるために」

スノウにキサラギのスパイであることがばれてしまった六号とアリス。
王国軍を追い出された二人は、一軒家を借りてアジトにし、
最後の任務である転送機の設置に取り掛かる。
一方、魔王軍はグレイス王国へ総攻撃の準備を始めていた。

 (公式サイトあらすじより)

 
 

1.越えていないはずなのに、越えたはずなのに

人は通常、様々な一線を越えないよう自分を律している。損得、信義、立場、良識……それらの一線を越えないことは社会を守るためであると同時に、自意識を守るためでもある。「自分はこんなことはしない」という一線を越えた時、人はそれまでの自分でいられなくなってしまうからだ。しかし例に挙げたように一線とは複数あるものだから、何かの一線を越えないための行為がもっと重大な一線を越えてしまうことは珍しくない。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「おいアンタ、本気で嫌がってないだろ!?」
 
六号が悪行ポイントを稼ぐための不審者行為で最後に出くわした女性は、こうした一線の複雑さをよく示している。彼女は実は男性に襲われたくてたまらない、変態的嗜好の持ち主であった。あくまで男性に「無理矢理襲われた」体を保ちながら襲われようとする彼女は、一線を守っているようでもっとまずい一線を越えている。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
町人「ホラ見て、あれが例の」
町人「チャック下ろすかもしれないわよ?」

 

対称的なのは六号の方で、不審者行為を働く彼の目的はあくまで悪行ポイントの加算で行為そのものにはない。だからそんな彼の悪行はみみっちく、町人にも犯罪者として嫌われるのではなく嘲笑の対象になってしまう。先の女性と逆に、彼はショボい一線はいくらでも越えるが一番まずい一線は越えられない。
 
 

2.一線の管理は難しい

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スノウ「話ぐらい、聞いてやればよかったのかもしれないな」
 
一線の管理は繊細で難しい。アバンで六号とアリスがスパイだと知ったスノウは出ていくよう伝えたが、彼らの所属や目的は聞かなかった。彼女はきっと、感謝の気持ちを忘れなかったと同時に怖かったのだ。もし二人が本当に悪辣で自分を騙していたのだったら、共に過ごした日々への思いも壊れてしまう。それは、心の準備なしに越えるのはあまりに怖い一線だ。だから彼女は部屋へ入らず、二人の話を聞きもしなかった。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
アリス「なあ六号。自分達が狙っている侵略地を同業者に荒らされるのは、面白くないと思わないか?」
 
また、今回アリスは六号を巧みに誘導するが、それはあくまで彼の素直に口にし難い気持ちを補助してやるものに過ぎない。彼の意思に介入するのはサポート用に作られたアンドロイドとしてかなり危うい行為だが、だからこそ彼女は「本当はこうしたいんでしょ」とは言わない。アリスは毒舌アンドロイドとしての一線をギリギリ越えないように、奥ゆかしく六号を助けている。改めて言うが一線の管理は繊細で難しいもので、ちょっとしたことで判断を誤りかねない。
 
 

3.揺さぶられる六号の一線

人が一線についての判断をもっとも怪しくするのはどんな時だろう? そう、異質なものと遭遇した時だ。自分と違う価値基準を持つ者は自分と違う一線を認識しているのであり、そういう存在との接触は自然と一線についての判断を怪しくする。いや、問い直させる。
中世ファンタジー風の星へやってきた特撮的悪の組織のヒラ戦闘員・六号は言うまでもなく異質な存在であり、スノウを始め多くの人の一線を、価値基準を揺さぶってきた。戦い方、善悪、仲間意識……だが、異質なのは六号にとってのこの星も同じだ。ならば、彼の一線もまた間違いなく揺さぶられている。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「へっ、俺は悪の組織の戦闘員だぞ?こんな未開な星、未練もねえぜ!」
 
彼は強がって否定するが、スパイとして結んだはずでも仲間関係は確かに彼の中に根を下ろしている。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「俺が塔を攻略しちゃったから、勇者の伝承がおかしくなってるってことか!?」
 
彼は知る。特撮的悪の組織のヒラ戦闘員としてやってきた自分の行いが、勇者の伝承(お約束の一線)を侵食していたことを。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
単に事態を打開するだけなら難しくはない。アリスが言うように細菌兵器や化学兵器を使ったり、彼女を魔王の城で自爆させて消滅させたりすればいい。ただそれは悪の組織のヒラ戦闘員として、主人公として、そして何より娯楽作品として越えてはいけない一線だ。そして、バックレるという逆方向の一線越えもティリスの懇願によって封じられてしまう。
六号が守るべき一線は、自身が認識しているよりずっと複雑になっている。スノウとのケンカップル的な関係であったり、ハイネを魔導石で罠にかける姑息さであったり、彼自身は魔法を使わないことだったり(ティリスの魔法を見逃す)。もちろん「特撮的悪の組織のヒラ戦闘員」と「主人公」の両立もだ。自分で思うよりずっと追い詰められている六号は果たして、次回どんな行動を見せてくれるのだろう。
 
 

感想

というわけで戦闘員5話のレビューでした。六号の不審者行為の場面に本作の特殊性(ねじれ)が集中しまくってて困る。国を救う善行のために悪行を積む必要があり、しかし六号には人殺しや強盗のような悪行はできず、おまけにそのショボい悪事もむしろ相手に喜ばれて悪行扱いされない、更には仲間に恥ずかしい姿を見られて自分がダメージ……ねじれ過ぎでしょ何回転してるの。「特撮的悪の組織のヒラ戦闘員主人公」としての一線はここまでしないと守れないのか……
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
あとスノウのことを考える六号に、アリスがあくまで毒舌アンドロイドとしての一線を越えずに六号のモヤモヤを汲み取ってくれるところ、自分の存在意義に忠実で実にけなげ。そういう発言の時は必ずベッドに寝そべるのも彼に寄り添う感じがあって本当にキュートだなと思います。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「うわぁーんアリス、町の連中が酷いんだよう!」
アリス「どうしたんだいチャックマン、チャックに皮でも挟んだのかい?」
しかしチャックマン連呼されて六号がアリスに泣きつくやりとり、完全にドラえもん風味。
 
 

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