闇鍋式アニメレビューの書き方その3~作品とパートナーになろう~

f:id:yhaniwa:20210504220601j:plain

その1、その2で僕のアニメレビューの書き方を紹介してきました。ラストとなるその3では、この手法の特徴をまとめていきたいと思います。
 
 
 

1.コスパが悪い(難点)

この手法の一番の問題点。共通点や反例が1度の視聴で見つかるとは限りませんし、大雑把にでもレビューの設計・整理をしないとロジックの構築は難しいです。結論(ジンテーゼ)もこの設計・整理の段階で閃くことが非常に多い。
10年ほどの間に少しずつこういったやり方になっていきましたが、一時は週に10本以上見ていたアニメも今は5本が限界です。倍速であらすじだけ追いかける人もいるご時世、効率的とはとても言えません。
 
 

2.誤解の可能性が相対的に低い(利点)

アニメにはよく強烈なワンシーン、強烈な一言というのはあるものですが、しばしばそれだけで語られてしまいがちです。劇中で否定されていることを作品のメッセージと思い込んで嫌ったり、逆に自分に都合よく引用されるケースは跡を絶ちません(攻殻機動隊の「世の中に不満があるなら~」の自己責任論的な解釈は何度繰り返されてきたことでしょう)。
 
テーマに関するこうした一面的な誤解を防ぐのに有効なのはもちろん、作品全体との整合性を確認することです。作品全体から共通点を探り出すこの手法はワンシーンや一言で結論を出しませんから、そこだけ見るよりはいくらか慎重な判断ができます。一見非倫理的、不合理、ご都合主義に思える出来事に必然性を見つけるのにも非常に適しています。
 
 
*最近のレビューで挙げると、「IDOLY PRIDE(アイドリープライド)」最終回の必然性の発見は個人的にスマッシュヒットだと思っています。
 
 

3.浅い理解に留まる可能性は否定できない(難点)

共通点・反例・結論の3段階でレビューを書くこの手法は判断が比較的慎重になりますが、当然ながら正解を約束してはくれません。3段階に合致さえすれば合格となるので、複雑なレイヤーで物語が作られている場合でもごく浅い階層の理解で満足してしまう恐れがあります。シンプルに言えば「どの作品も同じようなことを言っているように見える危険がある」ということです。
 
僕の場合は「自他の境界線」「唯一性と代替性」についての結論が浮かんだら黄色信号、もっと深く掘らないと駄目だなと眉に唾をつけます。全否定の必要はありませんが、よくよく注意しないといつも同じことを書く人間になってしまいます。
 
 

4.キャラクターを好きになるきっかけになる(利点)

キャラクターを好きになる理由は色々あります。容姿、担当声優、性格、印象的なワンシーン……そして役割や関係性。作品の弁証法的構造を探すこの手法は、テーマに絡んだドラマチックな役割や関係性を発見するのに適しています。抽象的な意味付けであるそれらに、むしろ視聴者である私達と同じ苦悩が見えてくることもあるでしょう。直感的に好きになったキャラはもっと好きになるし、意外なキャラクターが好きにもなれるはずです。
 
 
*最近だと「灼熱カバディ」1話で畦道が宵越に果たした役割が非常に大きく、それだけで彼のことが好きになってしまいました。
 

5.作品を知る力になるが、作品を批判する力にはならない(難点)

作品の結論(ジンテーゼ)とはつまるところ「作品の主張」です。これを探ることは作品そのものを擬人化し、彼(彼女)が何を話しているのか解釈することだと言ってもいいでしょう。僕のレビューのゴールはそこであり、その先へ進む術を(少なくとも今は)持っていません。
この手法は不要とも思える要素に意味を見出すことはできますが、それが巧みか稚拙か、取捨選択が適切だったかの判断はできません。そういう判断はこの手法の役割ではないのです。
 
 

6.作品とパートナーになれる(利点)

5で挙げたようにこの手法のゴールは「作品が何を主張しているか」の読み解きであって、良し悪し好き嫌いの基準とはなりません。そういう判断基準を持たないことは難点ですが、同時にそれらに囚われない利点でもあります。良いと思えなくても、好きになれなくても構わないのです。
実際僕も、何を言わんとしているか理解したつもりの作品でも、いつも賛同できたり楽しめたりするわけではありません。どうしようもない相性の悪さを感じることはけして珍しくありません。でも、何を言わんとしているか「納得」することはできる。
 
誰とでも仲良くすることはできないように、全ての作品も楽しく見ることはできません。ですが、相手の存在を認めることならいくらかハードルは低くなる。絶対に譲れない一線を守ることも良し悪しの判断も、必ずしもそれと矛盾するものではないはずです。
僕のブログ「アニメとおどろう」はアニメと友達になるのではなく、互いを認め一緒に踊れる「パートナー」になることをこそ目指しているのです。
 
 
*「パートナーになれた」と感じた例としては「ラブライブ!」劇場版や「デカダンス」10話などが挙げられます。
 

7.アニメとおどるのは気持ちいい

小難しく書きましたけど、この手法は苦労する一方で楽しいし気持ちいいものです。
バラバラに見えるものをひと繋がりにできた時の快感は、作品の深奥に触れられたと思えた時の感動は、それだけで涙が出そうになるくらい美しく見えることがあります。
多分それは、解釈が本当に正しいかどうかは関係ないのでしょう。他の誰に与えられたのでもない、自分とその作品だけの宝物はそれだけで美しいのです
 
 
*そういう意味でも、「刀使ノ巫女」との出会いは僕にとってとても大きな経験だったと思います。また「通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?」の視聴ガイドを書いた時の手応えも他ではなかなか得られないものがありました。
 
 

おわりに

というわけで僕のアニメレビューの書き方の特徴、つまりは僕にもたらしているものについてのまとめでした。これは僕にとって手法であり自分語りであり、哲学みたいなものです。
僕はほとんどこのやり方しかできなくなっていますが、コスパが悪いのは最初に述べた通り。作品との出会いの機会を始め、それによって逃しているものもたくさんあります。けして手放しで人に薦められるようなものではありません。
 
でも、僕のレビューやこれを読んだ人が自分にはスッキリしない作品をただ嗤うのを踏み止まったり、何度見ても飽きない好きな作品をもっと好きになる手段にしてくれたらこんなに嬉しいことはないとも思っています。あくまで僕の中の話ですが、そう願わせてくれるものがこの書き方にはあります。
 
願わくば、この3本の記事があなたのアニメライフのささやかな助けになってくれますよう。ご清覧、ありがとうございました。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>