魂のボーナスライン――「灼熱カバディ」6話レビュー&感想

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
敵味方ともに白熱する「灼熱カバディ」6話。繰り広げられる高度な攻防ではボーナスも重要な得点になる。そして、ボーナスは目に見えるとは限らない。
 
 

灼熱カバディ #06「追撃×反撃」

宵越の攻撃成功で3点獲得。能京有利の流れを作れたかに思えたが、高谷の大量得点と六弦の完璧な守備によって逆転を許し、じわじわと点差をつけられてしまう。更に、高谷の意識がベンチの王城に向いていることで宵越のイライラはつのっていく。離される得点、畦道の負傷と精神的に弱る能京を救うのは、やはり……。

公式サイトあらすじより)

 
 
 

1.魂のボーナス

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
竹中「ボーナスラインを越えて1点、タッチで3点。合計4点だ」
 
初心者の宵越がしばしば戸惑うように、ボーナスは攻防により深みを加えるものだ。レイダーがボーナスラインより奥に切り込んでいれば1点が加算されるし、アンティを全滅させて「ローナ」が成立すれば更に2点。触った相手の数がただ計上されるのではなく、状況によって効果が変わってくる仕組みがカバディにはある。
しかし、数字がただ単純に状況を示さないのはもともと当たり前のことだ。同じ点差でも追い上げているか攻めあぐねているかで重みは全く変わってくるし、ワンプレイが相手の精神を叩き折ることだってある。目に見えない"ボーナス"は勝負事にはつきものである。
 

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高谷「もちよ。いっぱい練習したんだろうなって感じの鋭いキャッチだった。だから避けずに沈めたんだべ、OK?」
 
"ボーナス"を得るにはどうすればいいか? カバディはそれをシンプルに可視化している。「ボーナスラインの向こうまで、敵陣奥深くまで切り込めば加算される」……それはけしてゲーム上のルールだけの話ではない。相手が強みだと思っているところとはつまり、その人間の心の陣地奥深くだからだ。けして破られないと思っている場所まで切り込まれた時、人は数字以上のショックを受ける。
 
相手の精神の奥深くまで切り込むことでボーナスが得られる――そう考えた時、奏和の攻撃や守備は実に理に適っている。高谷は宵越以上の4得点を決め、六弦は能京1番のパワープレイヤーである伊達を片手で倒す。相手の短所を突くのではなく、長所をあえて潰すからこそこれらの行為は数字以上のインパクトを持つ。その影響の大きさは、ピンチを迎えた宵越達の行動からも分かる。
 

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宵越「分かってる。試合に負けたら意味がねえ」
 

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井浦「捕まらないだけでいい。二人で守っていけ!」
 
高谷ではなくまず守備を削りに行く。攻撃は諦め守備で反撃を試みる。これらのプレイは堅実だが堅実以上のものではない。相手のボーナスラインを越えようとしていない。ありていに言えば、この時の彼らは縮こまっている。*1
だから彼らは流れを変えられないし、むしろ固めたはずの自陣に一層深く切り込まれ再びボーナスラインを越えられていく。高谷の追撃や六弦の水澄&畦道潰しはそういう、ほとんどダメ押しに近いものであった。
 
 

2.越えるべきボーナスラインは

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
自分の強みでは相手のボーナスラインを越えられず、守備を固めてもこちらのボーナスラインを越えられてしまう。この絶望的な応酬を変えるのはやはり最強のレイダー、王城であった。
 

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王城「……カバディ
高谷(……あれ、音?つーか……) 

 

けして無警戒ではなかった高谷を始め、六弦以外の全員を彼は一瞬に仕留める。突然現れたようにすら思えるその攻撃は、相手のボーナスラインに踏み入るというようなものではない。確かにラインを越えてはいるが、それを感じさせすらしない(歓声すら起きない)異質なものだ。それは高谷のように相手の強みをあえて潰すのとは違う、もっと高次のものである。
 
低次の者がそれにくらいつくには、それこそ全てをかなぐり捨てる勢いで敵陣に入り込まねばならない。部長でありながら王城との一対一を優先する六弦の姿勢は愚かであり、だからこそ愚直なほど目的に適っている。
 

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六弦「敗北の悔しさより憧れが強かった。与えられた弱い体に抗い、強さを手にした男を倒せば勝利以上の勲章がもらえるような気がした。泥臭い、努力家という勲章!」
 
対峙する中で、王城は過去を回想する。恵まれた体格を持つ自分が勝てない貧弱な相手への、悔しさではなく憧れ。そのためにこそ積み重ねた日々。彼にとって最大のボーナスラインは、王城の向こうにこそあった。
 

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六弦(お前、まさかその足、自分で……!)
 
しかし王城にとってのボーナスラインは「誰か」の向こうにはなかった。そして彼が足を負傷したのは「誰か」との接触が理由ではなかった。王城を負傷させたのはオーバーワーク――つまり自分自身であり、彼が戦っていたのは誰かではなく自分自身だったのだ。その驚きと共に隙を突かれ、六弦は敗北する。
 

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王城「僕を追ってるようじゃまだまだ。僕と六弦の差は、カバディへの愛の違いだ」
 
敵の、目標のボーナスラインを越えることは確かに重要で効果的だ。しかしそれは最上ではない。越えるべきボーナスラインは自分の競技に、自分自身にこそある。そこに至ったからこそ、王城は最強のレイダーたり得ているのだろう。
 

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宵越(たった2回の攻撃で全滅、雰囲気も良くなってる。しかしこの気持はなんだ、すげー悔しい……!)
 
そして、自らの中にこそボーナスラインを見出す男がもう一人。宵越は今回度々ボーナスラインを越えられ精神的ダメージを負っているが、それは必ずしも彼に向けられたものではない。畦道に向けた高谷の言葉や、自軍に有利なはずの王城の活躍に彼が勝手に悔しがっているだけだ。しかしそれは、彼が自分の中にこそボーナスラインを見出している証拠でもある。
練習試合後半、この悔しさのボーナスラインを越えようとする宵越の奮闘に期待したい。
 
 

感想

というわけで灼熱カバディの6話レビューでした。奏和は精神的にもボーナスライン越えてきてるな、というのはすぐに思いついたのですが、じゃあ王城は何を武器にそれに勝る力を見せているのか……というのがなかなか思いつかず時間がかかった次第。いやしかし部長、至るところ至っちゃってるな最初から。
次回は井浦が話を動かす鍵になりそうですが、こちらの活躍も期待しています。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
悪い顔にも個性があって面白い。
 
 
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*1:宵越のフェイントは竹中には「見慣れた光景」としか映らない。つまり実力以上のミラクルではない