最初の終わりを迎える「戦闘員、派遣します!」。6話の鍵は六号がどうするかというより、どうすれば六号が動けるかにある。今回は悪の組織の戦闘員でヒーローの彼の面倒臭さについて書いてみたい。
戦闘員、派遣します! 第6話「戦闘員、派遣します!」
魔王軍の総攻撃はすさまじく、城門は軽々と突破されてしまう。死を覚悟するスノウだったが、ある決意を胸に城へ向かう。そこにはスノウが守るべきティリス、そして、護衛役を任された六号とアリスがいるのだから――。
(公式サイトあらすじより)
1.体面なしに人は本心を表せない
人は、普段やらないようなことを簡単にはできない。単なる習慣であろうと日常的に続けてきたことは強制力を持ち、そこからの逸脱を難しくしてしまう。自分らしさの認識から外れること……柄にもないことをするともなれば、いっそう面倒な手間がかかる。それはスノウを逃がそうとするロゼとグリムを見ても分かる。
ロゼ「スノウさんは行ってください、ティリス様を避難させないと!」グリム「あの隊長だけだと不安でしょ?スノウが目付役としてついていきなさい!」
二人は、自分が捨て駒になるからスノウに逃げろとは言わない。気持ちをそのまま言ってしまえば、やんわり玉砕を断った前回のような自分達らしさからは外れてしまうからだ。人は、柄にもないことをするためにはそれが本心であっても、いや本心であればこそ、強引にでも普段の自分との整合性を保たねばならない。普段通りなのだと体面を保たねばならないのである。*1
2.六号の本質と体面の厄介さ
普段通りの体面を保たねば普段と違うことができない。本心を表せない。この矛盾じみた道理を念頭に考えた時、六号という男は象徴的に面倒な存在だ。彼は自分を悪の組織の戦闘員と任じているが、グリムを殺された時の反応からも分かるように彼の本質はそこにはない。ゲスを装ってもたいした悪事はできず、会ったばかりの相手でもその死を嘆き怒り、復活の際の寂しさを思いやれる――本人は否定するだろうが、それは一般に「ヒーロー」と呼ばれる者の本質である。
アリス「だからいまだに平社員なんだよ」六号「う、うるせえ!」
悪の組織の戦闘員を自認する男の本質がヒーロー。これほど分かりやすく相反した取り合わせがあるだろうか。六号がヒーローらしく振る舞うためには、その格好良さに負けない悪の組織の戦闘員ぶりを、ヘタレでクズで小物な体面を同時に保たねばならない*2。 それが困難だからこそ、六号は古参ながらキサラギではヒラでしかいられなかったのだろう。
3.手のかかるヒーロー
六号「戦闘員、いかがですか?」
六号を輝かせるのは並大抵のことではない。王国の危機も仲間の危機も彼の心を揺さぶりはするが、彼を動かす決定打にはならない。それを理由に動いてしまったら、彼はもう悪の組織の戦闘員ではない。ただのヒーローになってしまう。ヒーローを求める声だけでは、六号は輝けない。
六号はヒーローとして求められ、かつ悪の組織の戦闘員でいられなければ動けない。あくまで悪の組織の戦闘員の体面を保てなければ、彼は"柄にもないこと"はできない。悪の組織が2つなければヒーローとしては振る舞えないし、一緒にいたがる仲間がいてかつそれが理由でない体面を保たせてくれなければ王国に戻れない。
アリス「こいつは最後の最後まで三枚目だってことだ」
だからアリスは甲斐甲斐しく六号の世話を焼く。かっこいいだけのヒーローになりかけたら、彼女はここぞとヘタレぶりアホぶりをツッコんで中和してやる。
悪行ポイント「悪行ポイントが加算されます」
だからスノウはいちいち受難に襲われる。六号は恋心に応えるヒーローにはなってくれず、パンツを脱がされたり顔と体への関心だけを明かされたりする。六号の「制限解除」は、ヒーローとしての活躍は、これだけのお膳立てあってようやく成立したものなのだ。
兎にも角にも手のかかる男。誰よりヒロイックで誰より面倒な男。それが「戦闘員六号」なのである。
感想
というわけで戦闘員の6話レビューでした。遅くなりましてすみません。GW明けはまいど仕事が忙しい。
今回は単行本1巻ラストまでなんでしょうかね。笑って楽しみつつも何をテーマに見たらいいのか悩み、1話でも書いた体面関係でいけそうだな……と書き始めたのですが、書き上げてみると思わぬ方向に着地しました。アリスが六号のママに見えてきた気もするぞ。
後半戦、六号の立ち位置がまた変わってくるのかどうかも注目ポイントかもと感じた回でした。
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手のかかるヒーロー――「戦闘員、派遣します!」6話レビュー&感想https://t.co/HBl5HBj1gs#sentoin#戦闘員派遣します#戦闘員布教します#アニメとおどろう
— 闇鍋はにわ (@livewire891) May 11, 2021