抗えぬ濁流――「オッドタクシー」7話レビュー&感想

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ
流れに全てが奪われていく「オッドタクシー」。7話は初登場のヤノのラップ調のトークが目を引く。そして、勢いで物事が決まるのは彼の口ぶりだけではない。
 
 

オッドタクシー 第7話「トリック・オア・トリート」

小戸川は今日も色々な客を乗せる。ハロウィンの渋谷で変なやつに絡まれたりもする。
 

1.勢いには抗えない

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矢野「♪遠回りしたけどつまりTonight、俺が言いたかったのは要するに謝らないと」
 
勢いというのは恐ろしい力を持っている。TVで引っ張りだこの某元府知事の実例を挙げるまでもなく、のべつまくなし喋って勢いを自分のものとすれば無理も道理のように錯覚させられてしまう。ヤノの喋りはその極致とも言えるもので、ラップで流れを作られたその言葉は反論のハードルを著しく上げ、その流暢さで見ている人間を惹き付けもする。往来でキックボードに乗っているなど危険極まりないはずだが、周囲の人間が彼に抱いた印象は「愉快で心の広い人」であろう。
 

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小戸川「信じかけてるじゃねえか俺の話」
 
人は勢いに抗えない。Twitterでは根拠のない話を当然のように言い切ったツイートが日々バズっているし、謝れば勢いが止まってしまうから誤りを認めず相手を愉快犯扱いすらする。かつて悪人を自ら捕まえようと警察官になった大門兄は今やチンピラのドブと協力関係にあるし、大門弟も口では否定しつつも小戸川から聞かされたそれを信じかけている。
1つ1つなら否定できるものも、勢いづいてしまえば抗い難い濁流と化す。そして、勢いが恐ろしいのは無理が道理を引っ込めてしまうことだけではない。
 
 

2.勢いの先、引き返せない場所

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勢いというものは人を呆気なく押しやる力を持っている。そしてもう一つ問題なのは、流される距離は認識よりずっと長いことだ。
 
柿花はいつの間にか、いくつもの督促状を受け取るほど借金を重ねていた。夢を見るため勢いでついた嘘はいつしか、夢も見れないほど首を絞める借金になっていた。
 
小戸川は大門弟に協力をもちかけ、自分はドブに協力したフリをしているに過ぎないことを強調した。しかしフリだろうとそれは自らが逮捕されるリスクを背負っているし、偽のドクロの男がドブに暴行されるのを小戸川は黙って見逃すことしかできない。樺沢が現場を撮影したことを考えれば、彼もまたドブの一味として社会的に認知される恐れすらある。その時、これはフリだったなどと言ったところで通じるだろうか?そもそも、否定しきれるだろうか?引き返せないのはけして、柿花だけではない。
 

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小戸川「すげえ、無理だなこれ」
 
人は勢いに逆らえず、流された先から引き返せない。市村は美人局などもう嫌だと思っていても他に何で稼げるんだと言われれば反論できないし、実態が承認欲求の強いチキンでも神呼ばわりされた樺沢は引き返せない。そして小戸川とドブもまた、ハロウィンのドクロの雑踏に流され樺沢を見失う。
誰も彼もが後悔を抱えながら、日々を生きていくだけで流されていく。流されること無く冷静に生きていける人間など、数えられるほど一握りの存在でしかない。
混迷を深めていく小戸川達は、どこに流れ着くのか。嵐はきっと、これからが本番だ。
 
 

感想

というわけでオッドタクシーの7話レビューでした。デッキブラシでマスクが割れるほどぶん殴られるの見るのキツい。コミカルなところや弱みもあってもやっぱりドブはチンピラだ。小戸川の押入れの謎や浮かび上がった死体、殴打されて気を失う柿花など全体に怖ーくなる回だったなあ。次回もやっぱり、怖い。
 
 

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