ゼロにあらず――「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」7話レビュー&感想

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
立ち向かう物語へ変わり始めた「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」。7話ではゴブリン襲撃を始め、様々な本来ありえないことが描かれる。希少なことはしかし、皆無ではない。
 
 

究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら 第7話「生存確率0.1%」

テッドの町が炎上している。古参プレイヤーのレオナも経験のない事態に焦るヒロ。
そう、ついにゴブリンが町へと攻め込んできたのだ。
ゴブリンを倒そうと意気込むヒロだったが、肝心要の剣は錆びていて使えないことが判明。
せめて逃げる前にひと目だけでもゴブリンの姿を見ようとするが、そこには逃げ遅れたNPCの小さなの女の子がいた。

公式サイトあらすじより)

 

1.希少なことはしかし、皆無ではない

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
鍛冶屋「50年に一度の大干ばつで堀の水が干上がっちまったんだよ。それでヤツらが、ゴブリンが襲ってきたんだよ!」
 
希少なことはしかし、皆無ではない。テッドの町が平和なのは堀に覆われゴブリンが攻められないからだが、それは何十年度に一度というレベルの干ばつに対応できるほどではない。そこまでの干ばつは考えるのが無駄に思えるほど希少な事態だが、けして可能性がゼロというわけではない。限りなくゼロに近くとも、ゼロでなければ必ずそこに差異は発生する。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
レオナ「漫画やラノベの読み過ぎよ。いくらリアルを極めたゲームと言っても、流石にそんなデスゲーム的展開はありえないわ」
 
例えばキワクエはリアルを極めていると言ってもあくまでゲームであってリアルではない。リアルとの差はゼロではないから、ゲームでの死がリアルでの死を招いたりはしない*1
ヒロにしてもマーチンの件でNPCの死に心を痛めるようにはなったが、人とNPCを完全に同一視しているわけではない。誰も死なせたくないとは思うが全てを振り切ったり覆せるほどではなく、衛兵隊の3人はあっけなく殺されるしレオナにズボンのアンモニア臭さを激しく主張されればそちらを優先してしまう。
 
繰り返すが、希少なことはしかし、皆無ではない。どれだけゼロに近くとも、それはゼロではない。
 
 

2.ゼロに近くともゼロではない場所こそ

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レオナ「天賦の才と徹底した訓練により、ゴブリン以上の俊敏さを手に入れたテッド最強の衛兵!それがテスラ・ウォルフ・カーマインよ!」
 
どれだけゼロに近くともゼロではない。それはゴブリン襲来イベントのような災難も呼び込むが、人の未来が想像よりも可能性に満ちている証明でもある。ゴブリンは衛兵隊3人がかりでも倒せないほど凶暴な存在だが、天賦の才と訓練によってテスラは(あるいは格闘技経験者のプレイヤーは)ゴブリン以上の強さを得ている。それは、人がゴブリンに勝つ可能性がゼロに近くともゼロでは無いからこそのものだ。
 

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貴文「ま、物事に不満並べてる時はハマる一歩手前だって言うしな」
 
また、ヒロは友人に指摘されキワクエにハマり始めている自分を認識する。別にキワクエが変わったわけではない。ありえない程の超難度、ゲームオーバーになればハードすら壊れるこのゲームがクソゲーなのは疑いようがないが、それは楽しめる可能性がゼロであることを意味しない。ゼロに限りなく近くともゼロではない。事実、ゴブリンに襲われていた少女を助けた経験はヒロにとって「ちょっとだけRPGの主人公になった気がする」心地よいものであった。
 

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カムイ「大天才の俺ですらこの選択後のクリアは難しい。グズでバカでアホでデブでハゲなお前らじゃ絶対無理だろ。生存確率は0.1%だ、死ね!」
 
少女救出の功績を見込まれ衛兵隊に入ることになったヒロは、自分が絶望的な選択をしてしまったことをカムイの攻略サイトで知る。衛兵隊に入ってゴブリンと戦う選択は安全そうに見えて、カムイですら難しい程の難易度。生存確率は0.1%。限りなくゼロに近い・・・・・
しかし今回描かれたように、どれだけゼロに近く見えようともそれはゼロではない。挑むのが無謀なのは間違いないが、ゼロではない。
 
そもそも、RPGの主人公が主人公たり得るのはなぜか? プレイヤーはもちろん所与のものとしてその立場にいるが、何もしなければ本当の意味での主人公にはなれない。ゲームの中の世界ではほとんど不可能と思われていること、1,000人に1人(0.1%)の奇跡を成し遂げるからこそ主人公は主人公たり得る。
 

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ヒロ(生存確率0.1%ってことは……ハード壊れる率、99.9%かよ……!)
 
ヒロは前回、確かに幼馴染の殺意を止め親友を成仏させることに成功した。なかなかできないことなのは間違いないが、それはあくまでカムイの助言というレールに乗って果たしたものだ。0.1%の奇跡というようなものではないだろう。
 
しかし今回は違う。天才カムイも半ばさじを投げるこの状況は、見ようによってはヒロがカムイを超えるチャンスでもある。カムイすら想像しない手段で生き延びられたなら、彼はもうカムイの敷いたレールの上にはいない。その時ヒロは、本当の意味で本作の主人公としての資格を得ることができるのだ。
限りなく高いそのハードルをいかにして飛び越えるか。ヒロの真価は、これから先でこそ問われるのである。
 
 

感想

というわけでフルダイブの7話レビューでした。女の子の救出に手に汗握る、緊張感あふれる良い回だったと思います。ゴブリンのあんな強さ見たら普通はビビって引きこもるところ、体(ハード)を張れるヒロが格好良くて。ちょっとだけ、本当にRPGの主人公でした。
クソゲーだけどハマり始めてるのではという指摘も視聴者にシンクロしていて、カタルシス?なにそれ?な序盤がちゃんとコントロールの上で成り立っていたのを改めて感じます。
 
特殊スキルか何かかと思うようなヒロの走りと言いこの状況からどう生き延びるのかと言い、シンプルに目が離せなくなってきました。楽しみです。
 
 

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*1:あくまで「ゼロではない」ので、高価なゲームハードが死ぬレベルまでは差異は縮められている