壊してしまえホトトギス――「戦闘員、派遣します!」8話レビュー&感想

f:id:yhaniwa:20210525020547j:plain

©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
新展開のプロローグとなる「戦闘員、派遣します!」8話は、使者として派遣された六号達の巻き起こす騒動が描かれる。果たして今回、彼らは何を成したのだろう?
 
 

戦闘員、派遣します! 第8話「腹黒系汚職騎士」

深刻な水不足に悩まされているグレイス王国は、
隣国のトリス王国から輸入される《水精石》に頼っていた。
水精石調達の交渉役にスノウが選ばれるが、トリスの第一王子は好色で有名。
ティリスに頼まれ、六号たちはスノウの護衛を務めることに。

 (公式サイトあらすじより)

 
 

1.問い直しが破る殻

f:id:yhaniwa:20210525020609j:plain

©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
エンゲル「同盟ではない、不可侵条約だ!」
 
水不足の解決のため、水を精製できる水精石の輸入量増の交渉でトリス王国へ向かった六号達が知ったのは、トリス王国と魔王軍が手を組もうとしている事実だった。これまで人間と魔族は不倶戴天の間柄だったが、トリスの第一王子エンゲルが言うように魔王軍の侵攻理由が消えれば戦い以外の道も見えてくる。これは前回アリスが直面した、いや世界征服の後を考えなければならないキサラギも直面しているのと同じ事態だ。すなわち「問い直し」である。
 

f:id:yhaniwa:20210525020621j:plain

©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
エンゲル「分かったかね。砂の王さえいなくなれば、我々が争う必要はなくなるのだよ」
 
問い直しは新たな道を開くきっかけとなるものだ。トリス王国と魔王軍の不可侵条約はもちろん、特撮的悪の組織の戦闘員がファンタジーチックな異星にやってくるなど問い直し無しでは起きはしない。……ただ、問い直しの実現にあたっては人は恥じらいやためらいを捨てねばならない。でなくば、従来の自分の殻を破ることはできない。
そうした意味で、トリス王国と魔王軍は確かにこれまでの自分達の殻を破っている。人類が一致団結して魔族と戦う中で不可侵条約を結び、これまでの力による侵略ではなく交渉で勢力を拡大する。ハイネ達の真意は未だ見えないが、グレイス王国との戦いでガダルカンドを失った経験は戦略を問い直すには十分なきっかけだろう。
 
 

2.問い直しに勝てぬなら

f:id:yhaniwa:20210525020633j:plain

©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
トリス王国と魔王軍の問い直しに、六号達は返す理屈を持たない。少なくとも表面上はハイネ達は敵意を示さないし、雨乞いのアーティファクトの故障と修理で水精石の輸入量を変えるグレイス王国の態度は虫がいいと言われても仕方のないものだからだ。「一体どっちが友好国なんだろうね」というハイネの挑発=「問い直し」にスノウは反論できない。
そんな時に対抗する術はあるにはある。みっともないが、ある。問い直しに対抗できないなら問いそのものを壊してしまえばいい・・・・・・・・・・・・・・・・のだ。
 

f:id:yhaniwa:20210525020650j:plain

©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「何言ってんだ、俺がそんな馬鹿なことするわけないだろう」
ティリス(嘘でしょ、本気で忘れてる!?)

 

問いそのものが壊れた時、問い直しはもはや意味をなさない。六号が忘れているのであればアーティファクト祝詞をお○んち○祭りに変えた責を問うても仕方ないし、虫のいい輸入量の交渉も相手の弱みを握ってしまえば関係がない。色仕掛けで籠絡してしまえば理屈で反論できずとも問題ない。問いの破壊は持たざる者にとって一発逆転の可能性を秘めた武器なのだ。
そしてこの問いの破壊は、攻撃であると同時にしばしば防御ともなる。例えばティリスにとって「アーティファクトを使えば水不足を解決できるのでは?」という問いの破壊はすなわち、公衆の面前でのお○んち○祭り絶叫をせずに済む防御であった。
 

f:id:yhaniwa:20210525020705j:plain

©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「なんでおっさんがハーレム系主人公になってるんだ?普通こういうイベントは俺に起こるもんじゃないのか!?」
 
だから六号もまた、問いの破壊によって攻撃と防御を行わなければならない。彼にとってその相手はエンゲル王子だ。自分を差し置いてスノウとハイネから言い寄られるのは六号にとって、誰が主人公なのか問い直されるに等しい。王子の方がハーレム系主人公&性欲皆無系主人公みたいな立場になるのは有り得べからざる事態だが、実際六号には二人に言い寄られるような理由はない。なら、問いを破壊してしまおう。
 

f:id:yhaniwa:20210525020719j:plain

©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「ぁチョンマゲ!」
 
六号はお○んち○を王子の頭に乗せる宴会芸で全員の度肝を抜く。スノウもハイネも、ロゼもグリムも呆気に取られたあの瞬間、誰が主人公かと言う問いは完全に破壊されている。そしてそもそも、本作の主人公の条件はそういう下品な行動をためらいなくできることだったはずだ。逆説的だが、六号はこの問いの破壊によって主人公の問い直しに勝利したのであった。
 

f:id:yhaniwa:20210525020734j:plain

©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
あまりにも鮮やかな(?)勝利を収め、六号は改めて主人公としてテザン砂漠へ赴く。巨大魔獣・砂の王の縄張りでは果たしてどんな困難が待ち構えているのだろうか。
 
 

感想

というわけで戦闘員8話のレビューでした。書くのは案外すんなり書けたのですが、そもそも帰宅が遅くこの時間に。初見時は王女もなぜ彼らを使者に……と頭を抱えましたが、こうやって見ると他にない人選ではあったかもしれない。「ちょんまげ」で主人公性を取り戻す主人公とかそうはいるまい。ロゼになんてもの見せてんだお前断髪すんぞ。
 

f:id:yhaniwa:20210525020745j:plain

©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
あと六号を見送るアリスがやっぱりママじみてる。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>