衛兵隊の訓練に全くついていけず、仲間たちからもハブられてしまったヒロ。挙句の果てに同期のグラナダとパルーからはお金をせびられてしまう。現実世界と同じ状況に辟易するヒロに、真の妖精の力を見せつけるべく、ついにレオナが立ち上がる……!
(公式サイトあらすじより)
被疑者1:グラナダ&アモス
アモス「お前ってホント弱いな。ずっと一人で素振りしてろよ永久に。ひゃひゃひゃ!」
グラナダとアモスがクソ野郎なのは間違いない。ヒロを玩具のように扱い金をせびろうとしたグラナダも、強者には媚び弱いヒロは小馬鹿にするアモスも、他の作品なら因果応報で酷い目に遭って視聴者の溜飲を下げるのが普通だ。実際、彼らは今回酷い目に遭った。
ただ、彼らが酷い目に遭うのは主人公の成長によってなどではなく、陰湿な嫌がらせと濡れ衣によってだ。いくらクソ野郎でも、大切なものを壊されたり無実の罪を押し付けられたり迫害されていいわけではない。人間不信に陥りそうな嫌がらせに遭った彼らが見せたのは、どこにでもいる心の弱った人間の姿でしかなかった。
彼らがクソ野郎なのは間違いない。しかし、リアルで一番クソかと言えば疑問が残る。
被疑者2:レオナ
ヒロ「あんたやり過ぎなんだよ、何が聖なるだ!邪悪かつ陰険過ぎるわ!」
ただ、彼女がクソ野郎……もといクソ女郎 なのは今に始まった話ではない。そもそも彼女は現実世界の人間でありながら容姿も性格も言動も非現実的で、キワクエ内でも妖精として非人間の立場にいる。ある種の殿堂入りクソ女郎なので、彼女がリアルで一番クソかどうかを語るのはむしろ失礼だろう。
被疑者3:キャシー
キャシー「わたしは……わたしはヒロと友達なんかじゃない」
キャシーは今回、一つの裏切りを働いている。我が身可愛さに、ヒロと自分は友達ではないと言ったことだ。もちろんグラナダやパルーに脅されて仕方なく言ったことだし、ヒロはそれを理解しているから彼女を恨まない。けれどキャシーにとっては紛れもなく裏切りであり、ヒロが辛くないわけはない。それは間違いなく、クソな行為だ。
アモス「俺は別に、ヒロをバカにしてたのはそういう空気だったから……」キャシー「はい、アモス教官だけじゃありません。みんなも、いやわたしだってヒロにひどいことを……」
ただ、キャシーは自分のクソさを自覚している。脅されて仕方なくなどと言い訳せず、自分もひどいことをしたのだと泣いて懺悔する。自覚しているなら、悔いているなら、リアルで一番のクソではないだろう。
被疑者4:ヒロ
ヒロ「やっぱりレオナさんの仕業ですか」
ヒロは今回の騒動の真相をおおよそ察していたただ一人の人間だ。グラナダやアモスにかけられた嫌疑が間違いなく濡れ衣と知りながら、彼らに何の手を差し伸べることもなかった。できることはゼロではなかったはずだ。ヒロは自ら嫌がらせをしたわけではないが、事実上それを黙認した。そこにクソさは否定できない。
ヒロ「いくらなんでも酷すぎますよ!大の大人があんなに泣きじゃくってるところ初めて見ましたよ」
ただ、ヒロはもともと彼らの被害者である。また真相を察していると言っても、妖精の仕業だなどと言っても本当の本当に頭がおかしくなったと思われるのがオチで、できることはほとんどないと言っていい。「ざまあみろ」とせせら笑いもせず同情しているところからすれば、常人よりよほど良心的ですらあるかもしれない。
被疑者5:ボブやパルー達、その他の衛兵隊
衛兵「あんま調子に乗るんじゃねーぞ、ゴブリンみたいな顔のくせして!」衛兵「確かに!」衛兵「ゴブリン顔だな、ははは!」
実のところ、その他の衛兵隊のクソさ加減こそは見逃せない。グラナダのように直接的にヒロを迫害していたわけではないが、その様子を彼らは遠巻きに肯定していた。そしてグラナダやアモスに嫌疑がかかれば、空気が変われば、それが胡散臭いものであるにも関わらず今度は彼らを非難してみせる。自分達もヒロに冷たかったと反省はするがそれは人数やグラナダ達主犯によって薄められていて、事実上彼らは己の罪を直視しない。咎められもしない。スクールカースト上位が転落する時の中間層の様子など、こんなものではないだろうか? 羊の皮を被っているが、リアルなクソさで言えば彼らのそれはこれまでのどの被疑者よりも上かもしれない。
この他、ほとんど結論は出ているだろうに公衆の面前でアモスの役職を解くテスラも必ずしも褒められたものではないが、教官の仕事をちゃんと果たしているとは言い難い人間を解任すること自体は当然ではあるだろう。テスラについては項目として挙げるまでもない。
さて、こうして並べてみると一番リアルでクソなのはその他衛兵隊の面々に見える。……だが待ってほしい、私達はあとひとつ、重大な被疑者を忘れている。
最後の被疑者
最後の被疑者、それは誰あろう私達視聴者である。私達はリアルにリアルの存在であるから本作の世界に介入できるわけもなく、一見するとクソな行為とは全く無縁に思える。だが本当にそうだろうか? 遠巻きに「見ていた」のはその他の衛兵隊も私達も同じはずだ。
グラナダの大剣が大便に刺さっているという駄洒落た文字通りクソな状況を見て、私達は笑わなかったろうか?
そして僕がここまで「被疑者」を並べ立てたように、登場人物の善悪を一方的に断罪して悦に入った経験はあなたにはないだろうか?
無論、これは何より僕自身に突き刺して然るべき言葉である。
潔癖な汚物
リアルにリアルの存在であるから私達は本作の世界に介入できず、その手は一切汚れていない。けれど、嗤ったり断罪するには見ているだけで十分だ。劇中の人間の心の弱さややらかしを、我が身を省みず非人間的なクズやネタ扱いする声は世にあふれている。
もちろん相手はたかだかアニメの登場人物だ。本当の人間に同じようなことをしているわけではない。だがそれは、ヒロが当初マーチン達をNPC扱いしてちゃんと対応しなかったのと同じではないか? 架空の存在なら何をリアルに文字や言葉にしても構わないのか*2? それはある意味、一番リアルでクソな行為ではないか?
最後の被疑者についてはもちろん、劇中で言及されてはいない。一番外縁にいるのはその他の衛兵隊で、目線が向けられるのはそこまでだ。けれど、クソなのはけしてグラナダやアモスのような名のある存在だけではない。それが今回描かれていることだけは、間違いないように思う。
感想
というわけでフルダイブの9話レビューでした。遅くなりましてすみません。3日は忙しくとても書ける時間がなかったのですが、見ても全然鍵になるものが見つからなかったので時間があっても無理だったかも。
いつも以上にスッキリしない内容だったので何を書いたものか迷ったのですが、その他の衛兵隊へのモヤッとした印象を更に外側へ広げることでどうにか形にすることができました。今回の展開に笑いながらもいやーな気持ちがあって、そして本作はそれを想定して作られているのではないかな、と。
アニメキャラでもなんでも、嗤ってネタにするのは好きじゃありません。楽しいものだとは思いますが、やっぱり好きになれません。やらかしキャラなんかに向けられる憎悪も見ていて辛くなることが多い。アニメキャラだけど人間だもの。
でも、嫌っていても自分にもやはりそういうことをしてしまう気持ちはある。僕もクソ野郎で、潔癖な汚物以外の何者でもない。
最近はそういう声から距離をおいているので今どうなっているのか分かりませんが、以前よく感じた気持ちを思い出す視聴時間となりました。
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潔癖な汚物――「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」9話レビュー&感想https://t.co/5bP3u2guHZ#究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら#フルダイブ#FullDive#Fulldive_RPG#アニメとおどろう
— 闇鍋はにわ (@livewire891) June 5, 2021