韻が応報――「オッドタクシー」12話レビュー&感想

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ
終幕近づく「オッドタクシー」12話、ドブと1億を乗せた小戸川のタクシーはUターンする。そして、来た道をさかのぼるのはこれだけではない。
 
 

オッドタクシー 第12話「たりないふたり

小戸川は今日も色々な客を乗せる。銀行強盗の手伝いをするときもある。
 
 

1.さかのぼった先は別の場所

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柴垣「うっさいボケ!お前とコンビ組んだこと後悔してるわ!」
馬場「なんやそれ!」
柴垣「芸人なったことも後悔してるわ、夢なんか追いかけるべきちゃうかった!」

 

"さかのぼる"のは難しい行為だ。意味からして流れに逆らうものであるから、それなり段取りや機転がなければ簡単に失敗してしまう。例えば漫才のネタにタイムマシン(時をさかのぼる機械)を選んだ柴垣は途中でネタを忘れてしまった。彼は"記憶のさかのぼり"に失敗してしまったのである。ばっちり覚えていたはずの言葉がすっぽ抜けてしまう事態は、多くの人が自分の記憶をさかのぼって共感できる経験であろう。
 
ただ柴垣のケースで特徴的なのは、忘れた記憶の代わりに口にした言葉もキーワード自体は共通していることだ。漫才のネタの後悔ではなく、自分の人生への後悔。さかのぼる道すら本当は一本道ではなく、些末なことで別の上流にたどりつく。さかのぼった先が違えば、そこから続く出来事も変わるのは当然の話ではある。
 
 

2.それでもさかのぼるために

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関口「ヤノさん……!」
ヤノ「なんだ!」
関口「踏めてません、韻、韻が踏めてないです!」

 

柴垣の例が示すように、記憶や過去を正確にさかのぼるのは難しい。ヤノは10億円が渡された過去を疑いはしたが結局騙されてしまったし(動揺のあまり韻=音の似た別の言葉が踏めなくなってしまうのは、ヤノの"さかのぼる"力が狂った表現として面白い)、ドブは港での1発が田中のものだと過去を勘違いしたばかりに重傷を負った。
そしてそもそも、ヤノやドブの悪事はさかのぼるべき対象を捻じ曲げる・・・・・行為だ。死体の隠蔽やゆすり、借金漬けの洗脳などは言うまでもなく、今回も彼らは今井の手元へさかのぼるべき10億円の行き先を自分へと捻じ曲げようとしている。そのまま逃げ切る人間がごまんといるのも事実だが、だからこそ因果(韻が)応報での破滅はドブのような人間に対して最大のカウンターなのであろう。
 

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大門弟「でも……でもヤノ達の方がもっと許せないから捕まえに行く! 行くぞ兄ちゃん!」
 
記憶や過去を正確にさかのぼるのは難しい。いや"正しく"さかのぼるのは難しい。小悪党に思えた大門兄がドブに協力したのは私欲ではなくドブのボスに救われた恩返し=さかのぼりのためであり、しかしそれが正確であっても正しい行為ではないのは彼自身分かっていた。田中も自分の人生が狂った原因がなんなのかさかのぼることに迷走し、遂には人を傷つけてしまった。小戸川は10億の内9億を今井に返す段取りはできたが、暴力でパトカーの持ち主を捻じ曲げたヤノ達の追跡に残り1億は後回しにせざるを得ない。
それでも、人は正しきさかのぼりを求めていく。ヤノやドブがボスからの唯一のルールを自分なりにさかのぼろうとするように。大門兄や小戸川が幼少時に自分の受けた恩を返そうとするように。大門弟が千々に乱れる感情に涙しつつも「一番許せないやつ」としてさかのぼったヤノに逮捕の狙いを定めるように。
 
次回、いよいよ全ての糸はあるべき場所へとさかのぼるだろう。その時、この物語はどんな姿を見せてくれるのだろうか?
 
 

感想

というわけでオッドタクシーの12話レビューでした。お待たせしてすみませんでした。Uターンがヒントになりそうだな、というのは割と早々に浮かんだのですがなかなか結びに向けてまとまらず。「さかのぼりと見せてそうではなく、(1話で見られたような)反復なのでは?」……などなど迷いに迷ってしまった次第です。ちょっと思考がよろしくない兆候かも。
 
しかしドブさん、ditch=溝の時点でそれっぽくはあったが、樺沢の時にネットとか疎そうなこと言っといてソシャゲ廃課金勢というのがますます変な人間味ある。まあ並大抵の稼ぎでは世界ランキング1位なんて無理か……
 
覚えているようで忘れていることがいくつも出てきて、驚きなのに納得の多い回でした。次回最終回、結末がとても楽しみです。
 
 

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