クソゲーが教えてくれたこと――「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」12話レビュー&感想

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
クソゲーぶりをいかんなく発揮してきた「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」。最終回となる12話、ヒロは二つの手段でテスラに立ち向かう。そこに本作の示す"可能性"がある。
 
 

究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら 第12話(最終回)「リアル×VR」

すべての黒幕はテスラとガバンだった。
衝撃の事実に驚きを隠せないヒロだったが、意を決してテスラに対決を挑む。
果たしてゴブリンの王をも上回るこの最強のNPCを倒し、テッドの町をクリアすることができるのか……?!

公式サイトあらすじより)

 
 

1.対照的な二つの裏技

通常のゴブリンにすら勝てないヒロが、ゴブリンの王ワンアイをも弄ぶテスラにどうやって立ち向かうのか。この難問は今回、二つの手段によって成される。感情がステータスに影響する裏技と、親友殺しの剣――面白いのは、この二つが全く対照的なことだろう。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
テスラ「剣術の基本も知らない素人の分際で!」
レオナ「人間が、リアルプレイヤーがこんな動きをするなんて」

 

一つ目の裏技、感情によるステータスの増幅は、簡単に言えば「現実による非現実」だ。トリガーは魔法のような不思議な力ではなく、あくまでも現実にも存在する意思の力。ゲームでなくとも発動できる力。しかしそれはテスラやレオナが驚くように、究極的には剣術の基本も知らぬ子供が目にも留まらぬ動きを見せる「非現実」を引き起こす。
 

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ヒロ「ソード・【ベストフレンドキラー】・ユーザー……『親友殺しの剣使い』……!?」
 
現実によって非現実を引き起こすのが一つ目の手段なの対し、二つ目の裏技、親友殺しの剣は「非現実による現実」である。幽霊は言うまでもなく非現実的な存在であり、マーチンの恨みや許しはヒロの心を大きく揺さぶることはあっても現実に直接影響することはなかった。だが、親友殺しの剣は違う。非現実たる幽霊との関係が究極進化した結果生まれたのは、ヒロを守りその刃となる「現実」の魔剣であった。
 
 
「現実による非現実」「非現実による現実」……リアルを極限まで追求したアンリアルたるキワクエでヒロが示すのは、高度に発達した両者が入れ替わり得る可能性だ。あまりにもリアルな感覚はそれが非現実と分かっていても現実のように人の心に突き刺さるし、事実が小説より奇なのは言うまでもない。その両方を使いこなすなら人は奇跡だって起こせるし、覆し難い現実をねじ伏せることだってできる。なら、ヒロがテスラに立ち向かえるのだって道理だろう。
 

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ヒロ「まさかあのタイミングで、ガバンが膝カックンしてくるなんて……」
 
ただ、両者が入れ替わる可能性は救済と同時に陥穽でもある。奇跡は起こすだけでなく起こされ得るし、確定的なものを覆されることだってあり得る。一般的な娯楽作品の流れなら勝ち確定だったはずのヒロの足元をすくったのは、ガバンによる膝カックンという極めてアンリアルなリアルであった。
 
 

2.数多のリアル、幾多のアンリアル

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ヒロは確かに敗北した。それは言い訳しようのない事実だ。だが現実と非現実が入れ替わる可能性が示された以上、非現実の敗北はゲームの終了を意味しない。裏技を聞いた後に表示される仕掛けとなっていたメッセージで、カムイはこう言う。
 

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「ゴブリン襲来後、最後の最後で最終的にアイツにやられて、ハードが壊れた癖にそれでもまだ諦めきれないマヌケへ」
 
……もしヒロが素直に諦めていたら、これまでのアンリアルな経験を割り切っていたら、このメッセージには出会えなかったろう。これはカムイが言ったように現実世界にも存在する裏技だ。「魂から溢れ出る人間の強い意志が己の肉体(ハード)の上限を超え、更には運命をも変えていく」、現実によって非現実を起こす裏技だ。そして、新たなハードに壊れたソフトを入れて10秒以内に「ふっかつのじゅもん」をリアルに大声で叫べばリスタートできるのは非現実による現実の発生である。
ヒロがキワクエの中で触れた可能性は、二つの裏技は、けしてテスラとの対決で終わりではなかった。
 

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ヒロ「レオナさん。1ヶ月、1ヶ月待ってください。リスタートする前にやっておきたいことがあるんです」
 
もちろん、その可能性は勝利を約束しない。ガバンにやられた膝カックン自体は再現しないかもしれないが、似たような別の何かは起き得る。そもそも、ヒロがテスラに勝てる可能性自体が本来はあり得ないことなのだ。そのまま突っ込むのは、自ら進んで地雷原に踏み込むようなものだろう。
だからヒロは1ヶ月かけて準備を整える。体を鍛えてゲーム内のステータスを上昇させ(現実による非現実)、戦いをシミュレーションして不測の事態に備える(非現実による現実)。それはどんな形であれ、現実のヒロにも影響を与えていく。カムイの真実を見抜き過去との対話を成し遂げたように、ヒロはこれからも数多のリアルを暴き、幾多のアンリアルを切り開いていくだろう。
 
 

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ヒロ「さあ、もう一度行こう。現実よりもリアルな、あのクソゲーの世界へ!」
 
可能性を示すそのありようにこそ、本当に"リアル"な主人公の姿があるのだ。
 
 

感想

というわけでフルダイブの12話レビューでした。遅くなりましてすみません。「最高と最低は親友」「区別のつかなくなるほどのめり込むのが格好いい」などあれこれ見立ては考え書き始めてもみたのですがどうしてもスッキリせず、日を改めて考えさせてもらいました。
 
それにしても、視聴者を甘やかさない作品でした。視聴者を引きつけるためのカタルシスやお色気は最小限(あるいは脇)に抑えられ、主人公も主人公らしい好人物とは言えず*1、最終回ですら勝利の快感に酔わせてはくれない。リアルと言えばキワクエ以上にこの作品がリアル。1話冒頭で「高度に発達したVRMMOは面白くない」という結論が示されていますが、それは本作には息抜きとしての面白さは無いんだよという意思表示だったのでしょう。
でも、そういう内容だからこそ他の作品にはない感動がある。お約束のハッピーエンドに安住せず、生々しさで押し切ったりもしない。真実フィクションらしい作品だからこそ示せるメッセージが、この作品にはたっぷり詰まっていました。
 
つまるところ本作は「クソがつくほどストイックなアニメ」だったのだと思います。スタッフの皆様、お疲れさまでした。
 
 

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*1:ヒロを好かない視聴者がいるのは当然で、同時に主人公は必ずしも好かれる存在である必要はない