回るノーマル/アブノーマル――「小林さんちのメイドラゴンS」4話レビュー&感想

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クール教信者双葉社/ドラゴン生活向上委員会
すり合わせの日々が続く「小林さんちのメイドラゴンS」4話、後半は遊園地でのひとときが描かれ、また遊園地には回る乗り物が多数存在する。今回はこの"回る"……回転に着目してレビューを書いてみたい。
 
 

小林さんちのメイドラゴンS 第4話「郷に入りては郷に従え(合わせるって大変です)」

美しいコード配列に感嘆する小林さんと滝谷。なんとそれを書いたのはエルマだった。ついに一人前の戦力になったと小林さんは大喜び。小林さんは会社の「柱」としてもっとたくさんの仕事を抱えているそうだ。しかしその話を聞いた途端、エルマは急に怒りだす。
 

1.おかしいおかしくないは取り合わせ次第

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小林さん「……ん?今なんて言った?」
エルマ「私がやった」

 

遠回りになるが、回転に関して書く前にまず冒頭のやりとりについて触れておきたい。
この4話はきれいなコード配列に関する小林さんの驚きから始まるが、一番の驚きとなるのはそれをエルマが書いたことだ。これが例えばベテラン社員が書いたものであったり、小林さんの認識通りお茶くみレベルの知識でエルマがコードを書いていれば驚きではなく納得していたろう。小林さんはきれいなコード配列やエルマがやったことそのものではなく、「取り合わせ」にこそおかしさを感じ驚いたのだと言える。
 

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小林さん「今エルマがいるところは前にいた場所とは違うんだから、なんでも同じだと思わないの」
 
世の中のおかしなこと・あるいはおかしくないことは、なによりもこうした「取り合わせ」に起因するケースが珍しくない。エルマが柱を人柱と考えたのは彼女の世界では間違いではないが現代日本に当てはめればおかしいし、その認識が誤っていようとも彼女が自分を気遣ってくれたことは小林さんにとって嬉しかったり(おかしくなかったり)する。普段メイド服のトールが私服を着ればそれだけで驚きを生むし、不良に囲まれるピンチも相手がドラゴンならむしろ滑稽だ*1
おかしくないことも取り合わせによってはおかしくなるし、おかしいことも取り合わせによってはおかしくなくなるのである。
 

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エルマ「帰りたい……」
 
おかしくないことも取り合わせによってはおかしくなるし、おかしいことも取り合わせによってはおかしくなくなる。取り合わせである以上、それは世界や種族の違いといったスケールの大きなものでなくとも起こり得る。それは常識人のはずの小林さんや滝谷が、酒と取り合わせれば面倒でおかしな人間に化けてしまうことからも言える。
そう、本質的にはいつもおかしいもの・・・・・・・・・いつもおかしくないもの・・・・・・・・・・・も存在しない*2。これを念頭に置いた上で、本題の舞台である遊園地に移ってみよう。
 
 

2.数多の回転と円

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ジョージィ「非日常。そこでしか出会えないものがあるから思い出になり、触れ合えるものがあるから浮世を忘れられるのです」
 
遊園地を訪れた小林さん達を出迎えたのは手伝いをしていたジョージィで、彼女は遊園地を「非日常」と言う。そう、遊園地とは本来リスキーな非日常を細心の注意を払って安心安全に日常空間に現出させるものだ。よそではおかしいことも遊園地との取り合わせならおかしくないし、逆も然り。
 

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小林さん「己の姿を見つめ直し、再確認するためだね」
A.迷路だからです

 

分かりやすいのは小林さんで、彼女がトール達と同レベルの知識しかないなどというのは普通ならおかしい。昔から楽しさが分からないという遊園地との取り合わせだからこそ、小林さんだって今回は無知であってもおかしくなくなる。それはけして、小林さんが常識人であることを覆したりはしない。彼女は今回、常識人のまま無知な人間へと「回転」している。
 

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トール「またコイツは何を勘違いして……」
 
「回転」……そう、取り合わせによるおかしい・おかしくないの変化は、言ってみれば回転だ。別に折れ曲がったり歪んだりしたわけではなく、その人物は"円い"まま何一つ変わってはいない。ただ、回転によって別の面が前に現れたに過ぎない。この回転と円のモチーフは今回、非常に多く用いられている。
 

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謎の不審者と知人を回転させる踊り(踊り自体が回転)
 

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両手の指を回転的に突き出すエルマとその円いおっぱい(今回序盤やたらと強調される)
 

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殴る度トールをイラつかせる破滅の龍さんの回転
 

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遊園地に乗り気でない小林さんを翻心させるトールの"円い"皿みがき
 

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ミラーハウス内をズバリ回転させるカメラワーク
 

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ティーカップ、ウォーターバルーン、観覧車*3……
  
折り曲げたり歪めなくとも、回転させればおかしい・おかしくないは変わる。ドラゴンの認識とこの世界の常識がきれいに噛み合うことなどないというファフニールの警告にしても、トールの答えはその肯定でも否定でもなく「それをすり合わせるのが楽しいんじゃないですか!」という回転の発想であった。
 
私達が憎くて仕方ない相手も、別の面で触れあったなら意気投合することだってあるのかもしれない。回転させれば、触れ合う面が変われば、それだけで取り合わせは変わるのだ。
 

感想

というわけでメイドラゴン2期4話のレビューでした。「おかしい・おかしくないは取り合わせの問題だよね」「遊園地は回るものが多いなあ」という二つの思いつきを混ぜてこんな感じに。個人的には眼鏡っ娘エルマの出番多数なことに歓喜でした。絡み酒で小林さんと滝谷は文句つけてたけどあの服装と眼鏡(とおっぱい)でパーフェクトでしょこの娘。ジョージィと呼ばれて初めて返事をする苗の自己認識の回転的なオチも面白かった。


次回はOPに出ている新キャラの少年の登場やトールとエルマの過去話とまた慌ただしそうですね。どんなテーマが見つけられるか楽しみです。

 

 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>

*1:ドラゴンバスターズ」や「破滅の龍さん」というネーミングとトールの組み合わせのおかしさと言ったら!

*2:もっとも、これは一面的な正しさの全体的正当化にしばしば悪用される論理であることには注意したい。一面的な親しみや格好良さで問題全てを無視するのは人がよく陥る罠だ

*3:カンナやイルルのペロリも才川の顔を「回転」させることによって彼女を「ぼへぇ~!」させている