甘い狂詩曲はいずこ――「白い砂のアクアトープ」6話レビュー&感想

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©projectティンガーラ
ひとときの記憶を残す「白い砂のアクアトープ」。6話はうどんちゃんこと照屋月美の活躍回。副題にある「スイーツラプソディ」、狂詩曲的な要素はどこから来るものだろうか?
 
 

白い砂のアクアトープ 第6話「スイーツラプソディ」

「がまがま水族館」の閉館が8月末に迫り焦るくくる。なんとか状況を変えるべく必死に集客方法を考えるがどれもピンと来ない。そんな時、風花の言葉がきっかけでオリジナルスイーツ作りに挑戦することに。月美の力も借りて、3人は「がまがま水族館」の新たな名物開発に励む。その後、無事メニューも決まり、オリジナルスイーツ作りは順調かに思われたが……。
 

1.難しき狂詩曲

狂詩曲(狂詩曲)
自由な形式により、民族的または叙事的内容を表現した器楽曲。ラプソディー。
デジタル大辞泉コトバンク引用)より)

 

ラプソディ=狂詩曲(狂詩曲)とは形式面は自由で、かつ内容面は固定的な楽曲を指す。簡単に言えば「自由さ」と「らしさ」の両立した楽曲ということだ。しかし考えてみるとこれはとても難しい。解放的な自由と束縛的ならしさは相反する性質のものだから、下手に組み合わせれば両立どころか共倒れになってしまうからだ。
 

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Aパート冒頭のくくるは分かりやすくはまり込んでいて、水族館存続のため何でもしようと悩む余りまともなアイディアが思いつかない。「お魚コスプレ大会」「徹夜で水族館」「納涼お化け水族館」……どれも水族館に囚われてしまっている割に水族館の必然性がなく、自由でもらしくもない。眉間にシワを寄せいつもの活発な愛らしさを失ったくくるの表情は、「自由さ」「らしさ」の共倒れをよく表している。
 

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しかし相反するからと言って、自由になればらしさが消えたりその逆だったりするかと言えばそうとも限らない。人を呼ぶ案としてくくるにスイーツ作りを頼まれた月美であったが、彼女の案は予算や法律の制約を受けたため誰でも作れるかき氷作りになってしまった。自由を失った結果、料理の上手い彼女が作る必然=らしさが失われていたのである。ここでは自由とらしさは相反するどころか、片方の喪失がもう片方にむしろ悪影響を及ぼしている。相反するからと言って、どちらか片方を捨てればもう片方はどうにでもなるというものではないのだ。
 
 

2.甘い狂詩曲はいずこ

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自由とらしさを考える上で重要な役どころとして、この6話には神里という老人が登場する。毎年夏になるとがまがま水族館を訪れる彼だが、その理由は魚が好きだからといったものではなかった。たまたま訪れた際に戦争で亡くした兄の霊と再会し、励まされた思い出がこの水族館にあったのだ。
彼ががまがま水族館を毎年訪れる理由は、けして水族館の一般的な魅力によるものではない。しかしがまがま水族館以外では、彼の思い入れは果たされない。すなわち水族館の束縛から「自由」であり、同時に究極的にがまがま水族館「らしい」理由がそこにはある。そしてキジムナーの悪戯でくくると神里が同時に家族の霊との再会を果たしたように、それは一人に限らぬものだった。
 

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自由とらしさは相反する一方、片方だけでは成り立たず共倒れにすらなる。それは逆に言えば、自由とらしさが相互に高め合いもするということだ。母の助言をきっかけに月美が考え出したのは、シロップとかき氷で水族館の生き物に見立てたがまがま水族館オリジナルのかき氷であった。
 

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月美のかき氷は確かに自由だ。しかしただ店で出したのでは色物でしかない。水族館の生き物に見立てた「らしさ」あってこそそれは特別になる。
そして水族館の生き物に見立てたものは確かに水族館らしい。しかしよくあるアクセサリー等ではなくかき氷だからこそこれは「自由」だ。
 

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月美が願う通り、このかき氷は訪れた多くの人の記憶に残るだろう。それは一般的なものから少し離れてはいるが、水族館の思い出以外の何者でもない。自由であり、らしい。
自由もらしさも欠落を抱えていて、それだけでは立っていられない。そしてその欠落が噛み合うところにこそ「甘い狂詩曲」は生まれるのだろう。
 
 

感想

というわけで白い砂のアクアトープの6話レビューでした。特製かき氷、確かにこれは食べてみたい。というか画面に出てないかき氷もデザインはあったりするのかしらん。沖縄戦やお盆も噛み合せた良い回だったと思います。
 
 

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