水族館の先の世界――「白い砂のアクアトープ」7話レビュー&感想

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©projectティンガーラ
あふれ始める「白い砂のアクアトープ」。7話ではオフの日が描かれ、海を訪れた風花は水族館と同じ魚にも新鮮さを感じる。海で見る新たな一面――それは果たして、魚達だけに言えるものだろうか?
 
 

白い砂のアクアトープ 第7話「アイスで乾杯」

くくるたちの努力の甲斐もあり、来場者数が増えてきた「がまがま水族館」。結果が出て喜ぶくくるは、閉館阻止に向けてより一層はりきる。だが無茶な提案をしたことで、空也と揉めてしまう。その様子を見かねたおじいは、飼育員たちに息抜きのための休暇を与える。翌日、夏凛や月美も加えて海にやってきた一同。バーベキューや海の遊びで休みを満喫するくくるだったがそこにもう一人加わって……?
 

1.水族館を入り口とした世界とは

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祖父に言われくくる達がお休みを取る今回はもっぱら水族館の外が舞台であり、故に仕事からは少し離れた一面が描かれる。空也と夏凜が高校の同級生だったこと、櫂に妹がいてくくると仲が悪いことなど……水族館を舞台とした物語ですっかりお馴染みとなった登場人物達だが、こうした一面は普段の「水族館の中」ではなく「海を訪れた」今回だから見られたものだ。そう、風花が感じた新鮮さはけして魚達だけでなく、くくる達皆が互いに対しても見出している。
 

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館長代理から離れたくくるにとって、風花は姉のようにも思える存在であること。
いつもやる気のなさそうな空也が案外、負けず嫌いなこと。
沖縄では皆あまり水着を着ないこと。
櫂が妹からとても慕われていること。
空也の女嫌いは過去に原因があり、彼は一時ほとんど人間不信に陥っていたこと。
対照的に見える空也とくくるが、子供っぽさや水族館の閉館に不服な点でとても似ていること。
 
これまでのお話はドラマチックではあったが、それだけでくくる達の実像を知れたなどと私達が考えるのは傲慢だ。そんなものは入り口に過ぎず、より興味を持って知ろうとすれば彼らにはまだまだ意外な一面が隠されている。
 

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くくる「海で見ると、魚達がもっと身近に感じられていいでしょ」
風花「うん!」
くくる「おじいがいつも言ってる、水族館は海の生き物を知るための入り口だって。本物の海の世界にも興味を持ってくれたら嬉しいって」

 

くくるの祖父は水族館は入り口であり、その先の本物の海の世界に興味を持ってほしいと願っているという。しかし、この海の世界は海水の中だけにあるものではない。がまがま水族館がきっかけとなった縁は全て、本物の海の世界への切符なのだ。
 
 

2.くくる達が望まれていること

水族館は入り口であり、本物の海の世界に興味を持ってほしい――くくるの祖父の言葉を比喩的に解釈する時、くくるや空也は彼の願いに応えられているとは言い難い。
 

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くくるは水族館の閉館を阻止するのに必死で、休みらしい休みも取らず学校すら中退してもいいと思っている。
空也は閉館後の就職先をくくるの祖父に斡旋してもらっているが、そんな先のことは考えられず未だ電話すらできていない。
 

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月美「意外と似たもの同士なのかもね、空也さんとくくるって」
 
くくると空也は実はよく似た人間なのだと今回描かれているが、彼らが似ているのは水族館への愛着ではない。水族館という入り口に立ちながらその奥の海の世界へ進めてはいない足踏みした状態こそが、オフの日に共に水族館を見に行ってしまうほど二人を似せてしまっているのだ。
 

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もちろん、彼らの足踏みは水族館がただなくなれば解決するというようなものではない。早くに両親を亡くしたくくるや、高校で人間不信になった空也にはそもそも「入り口」自体が失われていた。二人が心を閉ざさず生きていられるのは、がまがま水族館を通して社会と関われているからに他ならない。
しかし3話レビューで書いたように、がまがま水族館はあくまで「ひとときの子宮」に過ぎない。あくまでも「預かっている」場所に過ぎない。夏休みが終われば風花が実家に戻らなければならないように、永遠にそこに留まることはできないのだ。
 

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櫂「俺も心配なんです、あいつのこと。……がまがまがなくなるなんて、耐えられるのかな」
 
入り口に再び立てたなら、いつかはその先へ進まなくてはならない。
本物の海の世界へ――がまがま水族館の先の世界へ心を開くことこそ、くくる達は望まれているのである。
 
 

感想

というわけで白い砂のアクアトープ7話レビューでした。くくると空也の似た部分がピックアップされているのは明白でしたが、そこにいきなり突っ込んでしまうとあまり深く潜れてないようでウンウン悩んだ結果こういう順序立てになりました。レビュー中で3話に触れていますが、4話のレビューも今回の発想の助けになったなあ。
なんだか2クール目が「最終回の後」みたいな展開になりそうな気配が漂っていますが、どうなるんでしょうね。
 

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それにつけてもうどんちゃんの水着が見たかったのと泳いでいる様子だけでもかわいかったのと。
 

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