時空を越えた夢――「ラブライブ!スーパースター!!」6話レビュー&感想

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
思い繋がる「ラブライブ!スーパースター!!」、かのんと千砂都が別々の場所に身を置く前回に続き、6話では回想によって時間もまた分かれる。今回はかのんと千砂都を隔てる「時間」と「空間(場所)」について書いてみたい。
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 第6話「夢見ていた」

神津島でのライブに向けて、サニーパッションの二人とトレーニングに励むかのんたち。時を同じくして、結ヶ丘のレッスン室では、千砂都がダンス大会に向けて猛特訓中だ。その様子を恋が伺う。が、恋は、ふと目にした千砂都の鞄から覗く退学届を見つけてしまう。その夜、電話で話すかのんと千砂都。しかし、二人の会話はどこか、よそよそしく――。
 
 

1.「時間」と「空間(場所)」

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可可「お招き頂いたお礼に、今日は可可が夕食を料理することにしたのです!(略)」
すみれ「それでこの結果というわけね」
可可「時間配分を間違えました……」

 

今回はかのんと千砂都の関係をメインとしたお話だが、残る二人の現メンバーである可可とすみれのやりとりも印象的だ。料理を焦がしてしまう可可や逆に抜群の料理の腕を披露するすみれといった出来事はコミカルで、脇道に逸れるストレスを全く感じさせない。そして可可が失敗した原因の一つが時間配分の誤りであったり、上海出身の彼女よりすみれの方が中華料理が得意な事実からは「時間」と「場所」という要素が抽出できる。
 

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悠奈「島って住んでいる人の数が限られているから、スクールアイドルの私達が中心になって学校の皆と一緒に島を盛り上げていこうって」
 
着目してみると、この2要素は他の場面でも多々見られるものだ。朝の練習やヘアセットについては15分や30分と時間が言及されるし、スクールアイドル・サニーパッション(以下サニパ)は神津島という場所を非常に大切にしていることも語られる。時間と場所は今回の頻出要素なのである。
 

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すみれ「こんなもんよく一晩で作ったわね」
可可「明日のライブまでには更に良くします!」

 

そして更に言えば、この6話ではしばしばその時間と場所は「歪み」も見せている。最初に挙げた可可の料理の時間配分や出身地と料理の腕のギャップもそうだし、朝練でヘロヘロだった彼女はサニパを見れば時間が巻き戻ったように元気になったりする。可可ばかりを槍玉に挙げるようになってしまったが、彼女によって一晩でステージ(場所)が見事に改装されたことなどは時間と場所の歪みがプラスに働いた好例と言えるだろう。
 

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可可「やはりムカつきます」
すみれ「なによ、あんたの代わりにわたしが料理してあげたんでしょ!」

 

ただ、失敗例も挙げられているように時間と場所の歪みはいつも味方になってくれるわけではない。可可とすみれの場合それは「喧嘩するほど仲がいい」という形で好循環を見せているが、かのんと千砂都の方では歪みはむしろ枷になってしまっているのである。
 
 

2.時空を越えた夢

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千砂都(わたしはこの時思った。このままじゃ嫌だって。いつかかのんちゃんを助けられるようになりたい。いつか必ず……!)
 
嵐千砂都はかのんに劣等感を抱いている。幼き日に気弱でビクビクしていた彼女は、いつもかのんに助けられてばかりだったからだ。
劣等感と言っても、もちろんそれは嫉妬のような感情ではない。むしろ憧れや感謝、尊敬といった形で千砂都を引っ張り上げてきてくれたそれは、原動力とでも呼んだ方が良いものだろう。しかしそこには対等の意識はない。
 

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千砂都「だからいつか、かのんちゃんの横に立てる人になりたくて」
 
「いつか」かのんの「横に」立てるようになりたい……千砂都はそう言う。そう、この言葉にあるのは時間と空間(場所)の認識だ。今の自分はかのんと同じ場所に立てる人間ではないというのが千砂都の長年の自己認識で、つまり彼女は時間でも場所でもかのんとの隔たりを感じている。ライブとダンス大会、結ヶ丘と神津島に分かれた今回の状況は、千砂都の感じる隔たりが具現化されているのである。
 
 

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時間と空間(場所)。2要素で隔てられているなら、かのんと千砂都の関係は1要素だけでは変わらない。電話はあくまで場所の隔たりを解消するものだし、SNSだって欲しい時に返事がもらえるとは限らない。時間と空間両方が変わらなければ結局どちらもが隔てられてしまって、千砂都は結局かのんと同じ時間にも同じ場所にも立てずにいる。
かのんに救われ彼女を道標としてきた千砂都のありようは、見ようによっては彼女を縛る枷だ。祝福と呪縛は紙一重で、時と場合によってどちらにも転がり得る。かのんが千砂都を解き放つには、時間と空間の両方を歪ませて――いや"越えて"みせなければならない。
 

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千砂都「どうして」
かのん「あはは、来ちゃった」

 

だからかのんはまず空間を、場所を越える。半日がかりで移動する遠く離れた神津島から、ライブの前日なのに千砂都のダンス大会へやってくる*1
 

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もちろん、場所を越えるだけではかのんは千砂都を解放することはできない。駆け寄った二人の狭間には、窓の仕切りという隔たりがまだ残っている。かのんはもう一つ越えねばならない。時間もまた、越えねばならない。
かのんは言う。助けられていたのは千砂都だけではなく自分の方もだったと。互いに互いがいて、だから頑張って来られたのだと。決意を告げたあの日の千砂都が、かのんには眩しく見えてたまらなかったのだと。
 

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千砂都「わたし、かのんちゃんの出来ないことをできるようになる。かのんちゃんの歌みたいに大好きで夢中になれるもの、わたしも持てるように頑張る!」
かのん「わたしね、あの時本当に感激したの。全身が震えた!」

 

千砂都は自分とかのんの間には隔たりがあると思っていた。時間の隔たりも空間の隔たりも、まだまだ自分には越えられないと思っていた。けれど違ったのだ。かのんの横に立てるようになりたいと叫んだその時、千砂都はもうかのんの横に立っていた。時間と空間の隔たりはもうとっくに越えられていて、それは時間を越えてようやく千砂都に届いたのだった。
 

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かくて千砂都はスクールアイドル活動に参加し、かのんと共に歌い踊る。そういう形を想像していたわけではなくとも、それは千砂都がずっと夢見ていたものだった。かのんの横に立ちたいと思い続けた千砂都の願いは今、ついに結びの時の迎えることができた。
夢見ていたものが叶う時。それは、時間と空間の向こうにあった望みが叶う瞬間なのである。
 
 

感想

というわけで「ラブライブ!スーパースター!!」6話のレビューでした。「場所」を読み解きのツールにした前回の流れをくんで書いてみたものです。珍しくすんなり書けた方かな。千砂都が別行動した理由を後からかのんに気付かせる悠奈を始め、サニパの名アシストが光る5,6話だったと思います。
 

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きれいな満月を前に「私ほどじゃないけどね」とばかりのすみれの反応が微笑ましい。料理も上手いとか完璧ではこの娘。
 
 

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*1:行きが時間のかかる夜行客船だったのがある種のマジックで、神津島観光ガイドによると客船では東京竹芝桟橋から12時間かかるが高速ジェット船なら3時間45分で行けるとのこと