繋ぐ大小――「小林さんちのメイドラゴンS」10話レビュー&感想

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クール教信者双葉社/ドラゴン生活向上委員会
世界を股にかける「小林さんちのメイドラゴンS」。10話はカンナのニューヨーク行きとなんでもない1日の対照的な前後半が描かれる。今回はこの構成の意味に注目してみたい。
 
 

小林さんちのメイドラゴンS 第10話「カンナの夏休み(二か国語放送です!?)」

小林さんと喧嘩した勢いで家出をしてしまったカンナ。帰りたくないからと太陽のある明るい方向へと大海原を飛んでいく。その時、たまたま見つけた陸地へと降り立ったカンナだったが、なんとそこは決して眠らない街・ニューヨークだった。
 

1.異邦人は二人

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カンナ(小林と喧嘩した。うちに帰りたくない。でも、夜は暗くて眠いから明るいところまで飛ぼう)
 
先に書いたように今回カンナは前半でニューヨークを訪れるが、それはビッグイベントの結果などではなく家出でたまたまやってきただけに過ぎない。家出で海を越えるとはドラゴンらしくスケールの大きな話だが、しかし本作の規模を考えるとこれはむしろスケールは小さい方だろう。カンナがその力を持たないから仕方ないが、ドラゴンがやってきた異世界は海の向こうより遥か遠くの場所だからだ。
 

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店員「だからね、お金がこの国のものじゃないと買えないんだ」
 
異世界よりずっと近い場所、家出で来られてしまうような場所、ニューヨーク。しかしカンナが触れるそれは日頃暮らす朧塚とは全く異なる場所だ。ビルも人も桁外れに多く、町並みは賑やか。言葉の違い程度はカンナには大した問題ではないが、言葉が通じても日本円が通じるわけではない。それほど遠くに来たわけでもないのに、カンナは確かに"異世界"を訪れている。きらびやかな市街地のすぐ側にスラム街があり少女クロエがチンピラから逃げ回っていたように、異世界は案外近くにあるものなのである。
 

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クロエ「それにしても、ニューヨーク来たのなんて初めて。いつもはお屋敷の周りしか行けなかったから」
 
自分の常識が通じない異世界は、実は案外すぐ近くにある。カンナに助けられたクロエは、これをドラゴンとは違うスケールで教えてくれる。お屋敷の周りしか知らない彼女にとってニューヨークは同じアメリカ国内であっても初めて目にするものばかりだし、普段の感覚でブラックカードを出してもホットドッグ屋はそれに対応できなかったりする。生まれはアメリカであっても、ニューヨークでの彼女はカンナ同様の異邦人なのだと言えるだろう。
 
 

2.行く扉、戻る扉

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カンナとクロエはそれぞれ別の異邦からニューヨークへやってきた。それは本来、二人が全く接点を持たない別世界の人間であることを意味する。実際、今回の出来事がなければ彼女達は出会うことすらなかったろう。なぜ二人は仲良くなれたのだろう?
 
 

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先の段で異世界は案外近くにあると書いたが、正確には案外近くにあるのは異世界への「扉」や「道」であろう。楽しんでいてもカンナはふとした拍子に小林さんを思い出すし、帰ることを相談しようとしたクロエをチンピラは車の扉からサッと現れてさらっていってしまう。把握しきっているつもりの世界には落とし穴のように異世界への扉が隠れていて、ふとした拍子に私達はそこへ足を踏み入れてしまう。しかしそれは、災いばかりを巻きこすわけではない。
 

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カンナ「才川と同じ」
 
例えばクロエがお金持ちと知ったカンナは、それを自分の友達である才川と重ねる。もちろんクロエは才川のように「ぼへぇ~!」となったりはしないが、確かにそれは二人の似ている部分だ。
 

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クロエ「だって、まだ怒ったままだったら?謝ったって許してくれなかったら?」
 
例えばカンナが家出してきたのだと知ったクロエは、同様に家出してきた自分の不安を訴えずにはいられない。怒っていたら、許してくれなかったらどうするのかとカンナに問いかけることで、クロエは自分がどうすべきかをまた相談していた。二人が仲良くなれたのは、異なる異邦人の中に自分の知るものを見ていたからだ。
 

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カンナ「クロエ」
クロエ「え?その声……」
カンナ「帰ろ」

 

異世界への扉や道は案外近くにある。ならば逆に、異世界から自分の知る世界への扉や道が近くにあってもおかしくはない。クロエの前に突如現れたドラゴン=異世界の存在は自分が知るカンナであったし、彼女の背に乗って飛べば屋敷のあるミネソタも遠くはない。何より、共に家出少女だった二人は異世界ニューヨークで共に過ごした時間によって家へ戻る決心ができた。それは例えるなら、元の世界に戻るための冒険だったと言ってもいいだろう。
 

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トール「全部見てましたよ」
カンナ「おー」
 
最後に示されるように、今回のカンナのニューヨーク行きは本作のスケールからすれば些末なものだ。彼女の行動は実は全てトールが見守っていて、海を越えようが家出以外の何物でもない。それでもやはりこれはカンナにとって異世界への旅だったのである。
 
 

3.繋ぐ大小

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日本からニューヨークへ舞台を移して描いた前半から一転、後半の話はぐっと移動距離が狭まる。なにせ描写の1/3ほどは家の中だし、残りも人間の足で半日もかからない程度しか動いていない。いわゆる「日常」そのもの――しかしもちろんこれは、一日をそのまま映したものであってもそれだけに留まらない。
 

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カンナ「小林は今日はダラダラするの」
小林「うん、ダラダラする」

 

後半で描かれる夏の日は、何かトラブルが起きるわけではないが非常に珍しい一日だ。普段カンナが遊ぶ才川は家族旅行に出かけていて、トールとイルルもアルバイトで不在。一方で普段は仕事で忙しい小林さんはデスマ明けで家にいる。こんな夏の一日は、なかなかあるものではない。
 

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普段と違う組み合わせで過ごす時間は、それだけで世界を異にする。麦茶で濡れた宿題が洗濯物と一緒に干されているのはそれだけでコミカルだし、トールが不在なら買い出しだって小林さんとカンナが出かける用事になる。そして、そこで小林さんとカンナが目にする出来事もまた、日常から逸脱せずしかし普段通りではない。
 

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小林さん「ドラゴンもキーンてなるんだね」
 
普段なら小林さんは気にも留めないであろうマンホールはカンナには自由研究の対象になり得るし、それに付き合えば小林さんも知らないマンホールや人気キャラクターを知ることができたりする。普段インドア派の小林さんがカンナに付き合うのはなかなか大変だが、それが喫茶店入りに繋がったりもする。これらはどれも些細で、しかし小林さんやカンナが確かにそれまで知らなかったことだ。
 

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小林さん「カンナちゃん。今日はおうち帰ろ」
カンナ「帰る!」

 

うちへ帰ろうと言う小林さんの言葉に、カンナは今日の出来事も前半のニューヨーク行きと何も変わらないことを悟る。小さな目で見れば、後半のこの出来事も異世界への扉や道があちこちに隠れていた。
大小正反対のスケールで描かれる、しかしどちらもカンナにとって夏の一日。前後半に別れた話の終わりは、まるで違うようでいて変わらない。大きなカンナは小さなクロエを乗せてうちに帰った。大きな小林さんと小さなカンナは、手を握ってうちへと帰った。
比べられない大小が手を繋ぐその姿に、10話の意義はあるのだ。
 
 

感想

というわけでメイドラゴン2期の10話レビューでした。うへ、だいぶ手こずってしまった。異世界と元の世界への扉は案外近くにあって……というのは思いついたもののさすがにふんわりし過ぎていて、前後半のスケールの違いや最後の握り合う手でやっと輪郭が見えた感じです。人より抽象的な感想を書いてしまう自覚はありますが、さすがに限度というものがある。本作の大テーマと見立てている「バランス」との兼ね合いにも悩んだのですが、書いてみるとこれは「大小のバランス」の話だったのかな。
 
次回はなんだかシリアスな感じになりそうですが、その前にやる話としてとても気を抜いて見られる話だったと思います(僕がそうできたとは言ってない)。カンナを見守りつついちいち何か食べてるトールも面白かったな。
 
 

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