秩序と辻褄――「ラブライブ!スーパースター!!」7話レビュー&感想

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
最後の星が輝き始める「ラブライブ!スーパースター!!」。7話では葉月恋と結ヶ丘の驚愕の事実が明かされる。これまでスクールアイドル活動に反対してきた彼女の秘密の開示は、その立ち位置をどのように変えたのだろうか?
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 第7話「決戦!生徒会長選」

神津島でのライブを無事に終え、千砂都を入れて4人になったスクールアイドル同好会。気持ちを新たに新学期を迎える一同だったが、生徒会の発足に伴い、生徒会長選挙が行われることを知る。もし恋が生徒会長になってしまったら、スクールアイドル活動に影響が出るかもしれない。みんなは恋の対抗馬として、かのんを立候補させようとする。一方かのんは、恋がなぜスクールアイドルを嫌うのか気になっていた――。
 

1.秩序と辻褄

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かのん「いろいろ渋滞してるう!」
 
夏休み明け初登校となったかのんは、周囲の質問攻めをさばききれずに悲鳴を上げてしまう。生徒会選挙に千砂都が普通科の服を着ている理由と、二つの話題を同時に問われれば混乱するのも道理であろう。分類するなら生徒会選挙は「秩序」の問題、千砂都の転科は「辻褄」の問題で全く別物であり、一緒にしようとすれば渋滞してしまう。これはこの7話の進行にも言える。
 
 

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新設1年目の結ヶ丘は1学期の間は生徒会不在であったが、実質的には創立者の娘である葉月恋が取り仕切っていた。つまり秩序が既にあり、彼女が生徒会長になるのはその延長線上としてごく自然なものだ。生徒会選挙への出馬は「秩序」への挑戦だと言える。そして先の図式に従うなら、かのん達はそれと衝突する「辻褄」側になるわけだが――実は選挙の間のかのん達は、はっきりそうとは言い難い。
 

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可可・千砂都「えー」
すみれ「えーって言うな!」

 

かのん達が生徒会選挙への出馬を画策したのはもちろん、自分達のスクールアイドル活動が危うくなるのを恐れたからだ。可可が妄想するように、恋が秩序側の人間として振る舞えばかのん達の行動は止められてしまいかねない。しかしそれならセンター(代表)であるかのんが立候補して正面から訴えるべきだったはずだ。彼女が尻込みした結果スクールアイドル同好会は代役としてすみれを立候補させる他なく、士気も上がらなかった。選挙戦略も上手く行かず、挙句の果てにはたこ焼きでの買収にまで手を染める始末。生徒会選挙でのかのん達は「辻褄」の側に立ったと言うより「辻褄合わせ」に堕してしまったと評した方が正しく、であれば彼女達が勝てる道理は全く無かったのである。
 

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かのん「でも、やっぱり葉月さんが生徒会長で良かったような気がする」
 
惨敗を喫した後、かのんは生徒会長にはやはり恋が相応しいと語る。それは単に既に「秩序」があるからではなく、役職の責務や適性を考えるなら彼女が生徒会長であった方が「辻褄」が合うと考えたからだ。スクールアイドル活動への不安はあるにせよ、こうして葉月恋は秩序と辻褄の両面で認められ生徒会長に就任する……ことにはならなかった。
 

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恋「そのために、最初の学園祭は音楽科をメインに行うことと決定しました」
 
生徒会長の就任挨拶で彼女が告げたのは、普通科と音楽科で手を取り合うという公約を反故にした音楽科中心の学園祭の決定。すなわち辻褄の破壊であった。そしてこの強引な決定は当然反感を買い、生徒からは抗議署名の動きも始まる。これは彼女を中心とした秩序に亀裂が入ったということであり、恋の生徒会長就任は秩序と辻褄の両面で危うくなってしまったのだ。
 
 

2.恋が必死になっているもの

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かのん「確かにそんな気もするけど、それにしても何か理由がある気がするんだよね……」
 
秩序と辻褄の両面でおかしくなってしまった恋の生徒会長就任。しかしかのんは、それをただ横暴と捉えず理由を探ろうとする。つまりそれは恋の行動の「辻褄」を突き止めようということだ。元々かのんがもっとも気にしていたのも、なぜ恋がスクールアイドル活動だけを拒絶するのかという「辻褄」であった。生徒会長選挙に出る勇気が持てなかったのも、それが彼女の求める辻褄の究明には繋がらないというのが一因であろう。そういう人間だからかのんは、尾行までして恋を追いかけた理由を、彼女のことを知りたいからそこまでしたのではないかと辻褄を可可に突きつけられれば反論できない。
 

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千砂都「卒業写真かな?」
可可「結ヶ丘っぽいですけど……」
すみれ「それにしてはずいぶん古くない?」

 

いよいよ訪れた葉月邸、すみれの想像の銀河上の巨大なそれの中身はしかし、奇妙なものであった。ぬいぐるみと見紛うような巨大な犬(しかも名前がチビ)、広いのにまるで姿を見かけない住人、そして犬に追われて逃げ込んだ先で見つけた、結ヶ丘によく似たしかし随分と古い卒業写真……これらはどれもそのままでは理屈に合わない。そう、この邸宅は辻褄・・が合っていない。
 

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恋「そういうわけにはいきません。あなたのような人をタダ働きさせたら、それこそ亡くなったお母様に怒られてしまいます」
 
秩序も辻褄もおかしく見える恋の、辻褄の合わない邸宅。しかし偶然彼女と使用人のサヤの会話を聞いてしまったかのん達は、その中でも恋がどうにか辻褄を合わせようとしていることを知る。来月はもう雇う金も無い窮乏の中、それでもサヤに給料を払おうとする恋。一人になってしまうと言われても、チビがいるから平気だと気丈に答える恋。彼女の辻褄合わせは涙ぐましい。そして、チビにじゃれつかれて見つかったかのんに恋が告げたのは、葉月家が実は学校の運営すら危ういほどの資金難に陥っている事実であった。
 

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恋「母が遺した学校を続けるためには、わたくしが頑張るしかないのです!」
 
母の遺した学校を続けるためには自分が頑張るしかない。恋はそう言う。自分が辻褄を合わせるしかないのだと言う。それは彼女にとって、かのんから理由を聞かせてほしいと言われても断った時と同じ決別の宣言なのだろう。けれど事情の明かされた今、彼女の言葉はおそらくこれまでと同じようにはかのんに響かない。自分と違う「秩序」の側かと思っていた恋は、実は誰よりも「辻褄」にもがく人間だったのだ。なら、かのんが恋を放っておける道理はない。学校存続より何より先に、恋の心を救ってやらねばならない。事実、恋は公約に違反し、選挙で失敗したかのん達同様に学校存続の「辻褄合わせ」に堕してしまっている。そんな彼女を、かのんが一人にしておけるわけがないのだ。
立場を異にするとばかり考えていた葉月恋の、裏返るようなかのん達との相似。それを示してこの7話は幕を閉じるのである。
 
 

感想

というわけでラブライブ!スーパースター!!7話のレビューでした。我ながらだいぶ抽象的なレビューだ。具体的なワンカットに代表させて説明できると抽象的なテーマも更にひと跳ねしてくれるんですが、なかなか難しい。2,3回見るだけでは秩序と辻褄の区別も付けられず、テーマの抽出自体に苦戦しました。
 
無印あたりを彷彿とさせるような展開連発の30分でしたが、テーマに即して秩序の破綻が出ている感もあって面白かったです。廃校の危機というシリーズおなじみの話題、どのように処理するんでしょうね。恋がスクールアイドル活動を拒絶する理由も含め、次回は見どころが多そうです。
 

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すみれ「あんた達ぃ!」
 
皆すみれにもっと優しくしてあげて!
 
 

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