興行師の掌中――「プリンセス・プリンシパル Crown Handler」第2章レビュー&感想

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© Princess Principal Film Project
第1章から半年少々を経て第2章が公開となった「プリンセス・プリンシパル Crown Handler」。今回は王族の襲撃と強力な爆弾の行方の2つが物語の縦糸となっている。このうち後者の爆弾、ケイバーライト爆弾はどんな役割を担っているのだろうか?
 
 

プリンセス・プリンシパル Crown Handler」第2章

1発で戦艦を沈めるほどの絶大な威力を持った新兵器“ケイバーライト爆弾”。
共和国は王国よりも先んじて開発に成功したものの、実用化された3発を何者かによって盗みだされ、王国側に運び込まれてしまった。
 
一方、王国では王位継承権第三位のリチャード王子が新大陸から帰国。
王位継承権第一位のエドワード王子をはじめ、同二位のメアリー王女、四位のプリンセスと共に、ロンドンに王位継承権者が集うこととなった。
若き王子の凱旋で賑わうロンドンだったが、帰国パレードの最中、リチャードは何者かによって狙撃されてしまう。
 
混乱が始まる情勢で、コントロールからチーム白鳩に課せられた任務は、ケイバーライト爆弾とその制御装置の捜索と奪還。アンジェ、ドロシー、ちせは爆弾窃盗にかかわったとされる男の家に向かうこととなる…。
 
奪われた共和国の新兵器の行方と、王室に迫る危機。
不穏な空気が、アルビオン王国を覆い始める―――

公式サイトあらすじより)

 
 

1.巨大Cボール・ケイバーライト爆弾

今回は物語の鍵を握るアイテムとして「ケイバーライト爆弾」なる新型爆弾が登場する。一発で戦艦をも沈めるその威力はほとんど信じ難いほどで、見た者の一人はこれで共和国は王国に勝てるとすら叫ぶ。ケイバーライト爆弾は嘘を真にするものであり、すなわち形状そのまま「巨大なCボール」なのである。
……ただ、巨大であることはそれだけでアンジェのCボールと違う性質をケイバーライト爆弾に付与もする。「大きいものが身動きするのは簡単ではない」のだ。
 
アンジェのCボールの対象はせいぜい自身と触れた人間程度に限られ、逆に言えばそれ故に扱いやすい。だがケイバーライト爆弾は威力も爆弾自体もあまりに大きく、軽々しく扱うことができない。実際、盗まれた爆弾はその大きさ故に舞台の大道具に紛れ込ませて移送されていたし、共和国は抑止力として期待したはずのそれが逆に火種になるのを恐れていた。盗んだ人間にしろ共和国にしろ、これはケイバーライト爆弾という巨大な力に彼ら自身が振り回されていると言って良いだろう。
 
 

2.力の奴隷

現実でも核の配備がむしろ恐怖によって冷戦を生んだように、あまりに大きな力は主であるはずの人間を奴隷にする。もちろんそれは、ケイバーライト爆弾のような物理的な力に限らない。金、情念……そして権力といったものも同様だ。
 
例えば今回は見せ場の一つとしてケイバーライト爆弾の隠された舞台への潜入があり、そこに務めている青年ビリーは様々な力に振り回される。初登場の場面では惚れた女に借金で首が回らないのを理由に冷淡にされ、雇い主には事あるごとに報酬がほしいと訴える。共和国のスパイが潜入した騒ぎでは命惜しさに逃げたいはずが借金取りに追われてあれやこれやと騒動に関わり、巨大なオートマタに乗ればその力に溺れて当初の目的を忘れる始末。河西健吾が滑稽に演じるビリーは、その時その時で強大な力の奴隷になって主体性を喪失した人間の姿を情けなさたっぷりに体現している。
 
また、例えば王位継承権第二位として登場するメアリーは、王族の責務に苛まれプリンセス(シャーロット)に私的な話をされても公的なそれとの区別がつかないほど常に気を張り詰めている。舞台への潜入の一件でも分かるように王族の権力は絶大だが、それに比例した責務は常人には耐え難いほど過酷なものだ。疲労を押して職務に励む王位継承権第一位のエドワードを含め、優雅な生活を送る彼らの実態は権力の奴隷に過ぎない。
 
王族ですら奴隷であるように、人は皆なにかしらのしがらみという大きな力から逃れられない。アンジェ達に指示を出すコントロールもまた軍部を全て無視できるわけではないから、危険と知りながら彼らの要請に従いケイバーライト爆弾を破壊ではなく奪還するよう指示を出す。この時ケイバーライト爆弾=巨大なCボールは抗い難い力の象徴と化しており、ならばアンジェがそれに立ち向かって勝利を収めるのは物語の必然ですらあるだろう。
だが、これまでがそうであったように本作は必然をただ押し通すほど優しい作品ではない。巨大な力は制御し難いという理屈の欠点を、この第2章は提示してみせる。……それが王位継承権第三位・リチャード王子の正体であった。
 
 

3.興行師の掌中

新大陸を平定し5年ぶりに帰還した王位継承権第三位。妹達にも気さくに話しかける、明るく派手好きの王子・リチャード――しかしプリンセスが偶然知ったその正体は、自らの王位のため継承権第一位のエドワードを暗殺させ、第二位のメアリーをケイバーライト爆弾で殺そうとする卑劣漢であった。しかも自身が二人より先に暗殺されかけた過去を装うことで、疑惑の目はけして彼には向かないようになっている。王国も共和国もてんやわんやになった一連の事件は全て、彼の"興行"の範囲の出来事に過ぎなかった。
 
「巨大な力は制御し難い」……この理屈には一つ欠点がある。それは力の巨大さは相対的なものに過ぎず、制御可能な人間にとってはさほど問題にはならないということだ。アンジェが操るものより遥かに大きなCボールを、ケイバーライト爆弾をリチャードは掌の上で転がしていたのである。
 
アンジェ達の尽力によってケイバーライト爆弾の爆発は阻止され、またその技術も王国に盗まれることはなかった。だがそれはリチャードにしても同様だ。二人もろともとはいかなかったもののエドワードの暗殺は成功し、それがリチャードの謀略であることを知るのは偶然居合わせたプリンセスのみ。彼の"興行"は、目下順調に進行している。
ケイバーライト爆弾に代わる新たな巨大な力――"爆弾"となるであろうプリンセスは果たして、リチャードの掌中から逃れることができるのか。かくて物語は、緊迫の途切れをもって第3章へと続くのである。
 
 

感想

というわけでプリプリCHの第2章レビューでした。公開は木曜ですが、メイドラゴンS最終回レビューがあるのに見に行けるわけもなく土曜送り。それもアクアトープ12話レビューが金曜の内に書けず昼の鑑賞と慌ただしいことになりました。このレビューもあまりきちんと設計して書けたわけではないのですが、結論にしたいものは決まってたので思ったほどは迷わなかったかな……
 
アクションシーンが多くて派手な章でしたがこれも"興行師"の好みに合っているし、映画館での見応えある56分だったと思います。第2章でこの展開、今後も目が離せませんね。あとレビューでは一言も触れてませんが、今回もちせ殿は大変凛々しくまたかわいらしゅうございました。
 
 

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