歴史に刻む名は――「ラブライブ!スーパースター!!」9話レビュー&感想

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
いよいよ大舞台へ踏み出す「ラブライブ!スーパースター!!」。9話はラブライブへのエントリーのためかのん達がグループ名を決める様子が描かれる。なぜこの2つが「結び」つく展開になったのか? 今回はその必然性に踏み込んでみたい。
 
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 第9話「君たちの名は?」

恋を入れて5人になったスクールアイドル部。音楽科と普通科の垣根もなくなり、学校のみんなは仲良く過ごしていた。そんな中、ついにラブライブ!の開催が発表される。決勝の会場は神宮競技場という大舞台だ。予選突破すら狭き門だと理解した上で、ラブライブ!のエントリーを決める結ヶ丘スクールアイドル部。しかし、そのエントリー画面には、グループ名の入力欄があって――。
 

1.「結ぶ」は諸刃の剣

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可可「話が彼方に逸れていマス!」
 
今回はグループ名が決まる重要な回だが、全体を覆う空気は基本コミカルだ。話はすぐ脱線するし、可可を筆頭にアクションはみなオーバーでどこか問題の中心からピントがズレがち。論理が緩やかだったのが前回8話なら、雰囲気が緩いのがこの9話だと言える。
 

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かのん「って、こんなのでいいねもらっても嬉しくなーい!」
 
かのん達が前回発見した「結ぶ」という概念には、きっちり噛み合わなくとも対象を"緩やかに"繋げる力がある。しかしこれは見ようによっては諸刃の剣だ。
台本もなしで動画配信をして収拾がつかなくなったり、作詞と作曲の順番をかのんと恋が勝手に想像してしまったりといった事態は、準備もなしの状態と行動を「結んで」しまったからこそ起きたもの。「結ぶ」は魔術的な力を持つが故に、トラブルメイカーにもなりかねない危険な概念なのである。
 
 

2.歴史に刻む名は

「結ぶ」は便利だが落とし穴にもなりかねない危険なもの。暴走を防ぐにはもちろん制御下に置けばいいわけだが、それができれば苦労はしない。
 

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4人「じーっ……」
 
「結ぶ」力をもっとも強く持っているのは誰あろうかのんであり(恋「そもそもの原因はあなたなんですよ」)、故に他のメンバーは彼女を制御しようとする。恋の家の一室に缶詰にしたり、監視して常にノートと向き合うようにしたり……しかしそれでもかのんの「結ぶ」力は止まらない。缶詰にされればふわふわのベッドを見つけて飛び込んでしまったり、追い詰められれば嘘をついてまで(虚実を結んでまで)逃げたりする。途中で意図せずチビにぶつかってベロベロされてしまうあたり、かのんはほとんど無自覚にこの力を使ってしまう人間なのだろう。
 

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どうすればかのんはこの力を制御できるのか、そもそも制御できるようなものなのか? 9話の問題解決はラッキーパンチに過ぎず、物語はまだその答えを示してくれてはいない。だが、希望を描いてはいる。
 

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級友「そう、あなた達って始まったばかりというか、まだ真っ白って言うのかな……」
 
歌詞もグループ名も思い浮かばず困り果てていたかのんがヒントを得たのは、級友が彼女の悩みに理解を示した一言からであった。級友はもちろんスクールアイドルではなく、故にかのんとは少し距離がある。にも関わらず、いやだからこそその言葉は二人を結んでいた。
 

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かのん「なんか、この5人が何なのか分かった気がする!」
 
また、級友の一言に光明を見たかのんは一人練習を休んで考えることを宣言する。この時彼女は他の4人から離れて夕日の下へ躍り出たし、千砂都達はそんなかのんを信頼するからこそ前日のように監視せず自分たちは練習に励むことにした。つまりここでも、かのんと他の4人の間には距離があった。
 

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千砂都「チクレカス……」
かのん「なんかネットスラングみたい……」

 

何かと何かを結ぶには、両者の間に距離がなければならない。振り返ってみれば、恋が普通科と同じ制服を着るのに千砂都同様に転科する必要はなかったし、「クーカー」は素敵なユニット名だったが同じように5人の頭文字を並べた案はネットスラングのようになってしまった。距離がなくなったら、前例をなぞるだけならそれはもう「結ぶ」とは別物になってしまうのだろう。この9話は、シリーズ作品が避けて通れぬマンネリズムの問題をかのん達自身の課題として取り込んでいるのである。
 

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可可「結ヶ丘女子スクールアイドル、「Liella!」デス!」
 
ラブライブ!」である以上かのん達はそこにシリーズの「らしさ」を踏襲する必要があり、しかし全く同じになってしまってはいけない。μ’sやAqoursや虹ヶ咲の物語をなぞるだけなら、本作の物語に意味はない。かのん達が前例と付かず離れずの距離感を保つには自分達だけの名前を見つける必要があり、だから彼女達は「Liella!」を名乗る。その名はきっと、これまでの物語から付かず離れず「結ぶ」者としてかのん達を規定してくれることだろう。
 

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かのん達のラブライブ!へのエントリーは単なる出場申し込みではない。それは、シリーズの歴史に「Liella!」の名を刻む決意表明だったのだ。
 
 

感想

というわけでラ!ス!!9話のレビューでした。難しかった……! 前回なまじ「結び」の概念を発見してしまったためにそれに引きずられ、大差ないことを書きかけては止まりの繰り返し。「何か違う」とつまずくのはしんどいんですが、これがないと僕も以前書いたことをなぞってしまう。悩みましたがこれで本作がシリーズが続いていることを強く意識している作品なのが確認できたし、また皆がかのんに頼る理由に、彼女が主人公である理由にも一歩踏み込めたように思います。8話までを見返してもいろいろ発見がありそう。
さてさて、予告を見るに次回もだいぶ素っ頓狂な楽しさのあるお話になりそうですね。楽しみです。
 

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
画面中央にいなくとも視線が思わずすみれを追いかけてしまう。
 
 

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